ふみ

□名前
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『鬼龍院さん。』
「…ん。何?」

素っ気ない返事を返して寄越したのは俺たちのバンドのボーカル、鬼龍院翔。


今は楽屋に2人きりで、しばらく無言状態が続いたから話し掛けてみた。…それだけ。


『何でもない。』
「ぇ、じゃぁ呼ばないでよー…」
『ごめんごめん。』


…って名前呼ぶくらいタダだろ?
流れに促されて謝っちまったじゃんかよ。

『鬼龍院さーん』
「………」

無視!?…無視ですか?

当の本人はソファに凭れてイヤホンで音楽を聴いている。




『きるーいん?…』
「…………」



俺が彼の目の前に顔を出して名を呼びながら上目で覗いてやると、一瞬驚いた表情で見つめられた。


ぁ、その表情はヤバぃ…可愛い、てか小動物みたいだな……

「どうしたの?喜矢武さん。」

イヤホンをとっくに外して小首を傾げる彼。

『……ん、何でもない。』

「無視されててイラついてたんでしょう…?」

み、見抜かれた……

『こ、この喜矢武様が鬼龍院ごときに無視されて苛つくなんてあり得ねーだろ?』
「………」

頑張って意地を張る俺。口を閉じ視線を俺に集中させる彼。

『…………』
「……………。」


無言の攻防が続いた。

『………ぁ』


俺が一声発しようとしたとき、彼はソファに凭れていた体を動かして俺に抱きつき頬に顔を擦り寄せてきた。


「喜矢武さんごめんね?無視するつもりは無かったの。…ほら、色んな曲聴いておかないとさ、作曲に響くしね…」

『……ぁ、そだね…』


彼の髪が俺の頬と首許をくすぐる。
そんなことを上の空で考えていたら一瞬、唇が温かくなった。

『??!』
「…ごめん。」

そこには頬を朱く染めながら、くしゃっと笑う彼の顔があった。


『ぃゃ。全然。』



おわり。
 

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