□いつまでも
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「ありがとうございましたー」






やる気がないのかあるのかわからない店員の声を背中で聞いて
自動ドアをくぐる。
そのまま正面にある駅へ足を踏み入れる。



「おやぁ、お兄さん可愛いお花だねぇ」



ここの駅は無人で
近所の年寄りがたまにこうして日向ぼっこをしにきたりする。



「なんてぇ花だい?可愛いねぇ」



なんて名前だったかなんて知らない。
いや、あいつは昔言っていたけれど、もう覚えていない




「さぁ、覚えてない」

「そうかいそうかい。可愛いねぇ」




そういうと足が悪いのか杖をつきながら駅を出て行った

その後ろ姿を少し眺めた後俺は誰もいなくなった駅の券売機で切符を買った。
終着駅までの一番高い切符を。



放り出されるように出てきた切符をGパンのポケットにねじ込んで
先ほど買った小さな白い花のブーケを抱えなおして、電車が来るのを待つ。












上着のポケットに入れてある携帯が無機質な音をたて着信を知らせた




『ばーか』










たったその一言を送ってくる知り合いはたくさんいるが
脈絡なしに行き成りこれを送ってくるのは知る限り1人しかいない

無視をしても良かったが何故かそうする気が起きず
カチカチと送られてきたのと同じように一言打ち込んで送信ボタンを押した






「・・・、」






ホームに設置されている椅子に座り空を見上げる。


ここで一服やりたいところだがこれから行くところにはそんな匂いをさせていくところではない。
それに鼻のいいヤツがいる。
また吸っているとばれたら面倒だ













ぷシューと音をたててホームに滑り込んできた三両編成の電車に乗り込む。

中には4,5人乗っているだけでほとんど客はいない


10年くらい前には平日の昼前になるとこの電車はいつもそうだった。
今でもそうなのかは確かではないがこの様子を見るとそれも間違いないようだ






『次はぁ〜河野ぉ河野ぉお出口は右側です・・・』







間延びした声が電車内に流れる。
目的地まであと2駅だ

この駅で降りた人で自分以外は誰もいなくなった。
二両目の真ん中の席。



電車のちょうど真ん中で俺はブーケを抱えなおした。
太陽の光が窓から差し込んで白い花がきらきらと輝いている
鼻を少し寄せて香りをかいでみる


ほんのり甘い香りをさせて誇らしげにゆれる花がなんとなくうらやましくなった。










『終点〜泉原ー泉原ぁ。お出口は左側です。お忘れ物のございませんよう・・・・』








そんなアナウンスに耳を傾けながら窓の外を見やる



泉原は海辺の町で人口は50人前後といったところで『町』として存続させられているのが不思議なくらいだ。
太陽はまだ真上に差し掛かったくらいで今日も暑くなるんだろう


電車をトンッと軽快に降り、ポケットから切符を取り出す。
それを少し眺めて改札へ向かった





一応この駅は自動改札だが台数は二つしかない。
片方は故障中の張り紙がしてある
使えるほうに切符を入れ通り過ぎる
駅を降り立つと先ほどより大分暑く感じられる。







軽く深呼吸をして肺へ磯の香りを送り込んでみた







海沿いを東へずっと歩く。


目的地まであと少し
かもめやウミネコが鳴いているのを横目にまっすぐただ海沿いの道を延々と歩いていくと
少し離れた島みたいな形になっているところがある。
そこにある診療所のようなところがゴールだ















「ゾロッ!」


島に足を踏み入れた瞬間抱きつかれた




「・・・ルフィ」




コイツは五歳くらいからここにいるという。
確か心臓だかが悪いといっていたがこうして走り回っては医者を心配させている




「久しぶりだなっ!!」

「あぁ・・・チョッパーはいるか?」




チョッパーはここの唯一の医者だ。
人ではないが信頼を置ける立派な医者




「ルフィ!走っちゃダメだって言っただろ!?」

「おぅチョッパー!だってよーゾロがさー」




ルフィの後ろからとことこと出てきたのがチョッパー
どうやら今日もルフィは悪さをしているらしく罰がわるそうに頭をかいた





「チョッパー久しぶりだな」

「あっゾロ!」




まるで俺のことなんで眼中になかったようで
声をかけるとくりくりした瞳をめいいっぱい広げて声を上げた





「あ・・・その花・・・」





チョッパーは俺の持っている花に気づくと少し気まずそうに言ってきた
俺が会いにきたあいつの好きな花だ








「あぁ・・・あいつは、元気か?」

「・・・うん」









医者としてか、『元気』という言葉には簡単にうなずけないようでまたすこし気まずそうに顔をそらして海をみた。
俺もそしてルフィもつられるようにして海を眺める。



















あいつ――サンジは
簡単に言ってしまうと植物人間だ
それでも少し珍しい症状らしく、呼吸などは自分でできる
ただ栄養失調になってしまわないように点滴は常につけられている。




ここにはルフィとサンジ以外は入院患者はいないものの
町唯一の診療所とあれば町人は全員ここを頼りにする。


外科医はチョッパーだけだが他にも
事務員のナミ。
あいつは金に細かいからもってこいだろうしチョッパーもナミがきてからは大分楽になったといっていた

内科医のロビン。
どこそこの研究所のヤツだったらしい。逃げたらしく倒れていたのを
夜の散歩(と証した脱走劇)中だったルフィに拾われてここで働いているという。

そして薬剤師のウソップ。
発明好きが功を奏したらしく、もともと町人だったのだがここで働くようになった









「あ、ゾロじゃねぇか!そんなとこにいねぇでさっさと入れよ!」






診療所の窓から身を乗り出して手を振っている
俺はチョッパーをちら、と見たがうつむいていて表情は伺えなかった。
迷っている俺にルフィが背を推した












「早く行ってやれよ。その花きっと喜ぶ。」












あぁ太陽みたいだ。
コイツは歳の割に妙に大人びている
いや悟っている。
病気のせいか、はたまた孤児院育ちという境遇のせいかなぜか妙に人の心の内を見抜きそして後押しをしてくる





「・・・あぁ」





そっけなく返し、扉を開け中へ身を滑り込ませる。
背後でパタンと扉が閉まった





「ゾロ!こっちこっち。」


「・・・、おいこっちじゃないのか?」





今まで行ったことのないほうの廊下の奥でウソップが手招きしている。
不思議に思って反対の廊下を指す





「あぁ、先月移動したんだよ。やっぱ海の町なんだから海見えたほうがいいだろ?」


「・・・そう、か」






花を抱えなおしてウソップのほうへ足を向ける
こっち側の正面は窓がありあいていた。
先ほどコイツが身を乗り出していたのはたぶんこの窓だろう。






「おせーよ馬鹿。ナミも怒ってたぜ」

「そうか」






「なぁにがそうか、よッ!もっと頻繁に来なさいよ!!」







スッパーンッ
と、いきなり後頭部を殴られ・・・いやたたかれた。
それと同時に上げられた声










「・・・ナミ・・・・」

「もうッ!だから馬鹿なのよ!!」











先ほど送られてきたメールもコイツだ。
馬鹿馬鹿いわれても言い返せないあたりが少し悔しいが事実コイツほど頭はよくない
ルフィほど悪いとも言わないが。
ウソップは気がついたらいなかった。いつも逃げ足だけは速いから今回も逃げたのだろう












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