□ヒトリと、ぬくもりと、
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サーーーー……

雨。









サーーーーー………

雨、あめ、アメ…









サーーーーーーーー……………











『父さんっ母さんっ!?』












サーーーーーーーーー……


雨、血、雨、雨






『な、にが…?』
(なにがおこっている?)












サーーーーーーーー………

血、雨、血、血





『ど、して…』
(どうして父さんと母さんが倒れている?)











サーーーーー…

血、血、血、血、目





『だ、れ』
(やめろ。見るな。嗤うな。)










サーーーーーーーーーーー………


血、血、雨、血、笑顔、血





『あ…』
(なんで、そんなに楽しそうに嗤うんだ。)











サーーーーーーーーーー…………



血、雨、血、血、血、血、暗闇





『っ!?』
(暗い。怖い。暖かい。何。誰。何で。)






『見るな。…大丈夫だ』









血、雨、暗闇、笑顔、声、血、血、父さん、母さん、雨、笑顔








繰り返される映像
響く音と声
否が応でも視界に入る父と母と血溜り
暗闇と体温
微かに語尾を震わせながらも静かにしみこむ声



















「……ぇ………いの…う……いのうえ…井上っ!!!!」

「…ぁ…?」







頬に触れる手。
ぬくもり、声
あぁ、この声だこの手だ
俺がずっと探してた、あのときの手と声そして、ぬくもり



「…お、が…た…さ…?」



やっと見つけた。
霞む視界の中悲痛に歪められた顔
降り注ぐ雨
捜し求めていたぬくもり


「井上ッしっかりしろ!」



あぁ、そうだ
そうだった
俺、――――撃 た れ た ん だ





「おいっ井上!!」





視線を下げると自分の下に広がる血溜りがあった
俺、死ぬのかな…?
でも、まぁ仕方ない、か



「井上ッ」



俺の肩を抱いて必死に呼びかける尾形さん(必死すぎて逆に笑える。…失礼か)
俺たちを円状に囲み突っ立ってみている野次馬(中には驚きで傘を落としてる人までいる。)
SPたちの呆然とした顔(そんな顔をしていてもちゃんと犯人取り押さえてるところは流石だとおもう。)
そしてそのSPに捕らえ抑えられてる犯人(見覚えがある。って当たり前だよな)
呆然と後方にいるマルタイ(間抜け面すぎて笑える。なんでみんなして笑わすんだよ)
視界を巡らしていたら行き成り尾形さんに胸部を押さえられた(すごい驚いた。けど、驚きをあらわせないほど体が動かない)


あぁなんで、こんなにも尾形さんは暖かいんだろう
死ぬのが、怖くなるじゃないか



ヒトリで逝くのが。

とても――――






あぁ、だめだ。
最期になっても良いように言いたいことがあったのに、
間に合わない
だからせめてこの一言に、全部つめて、お願いだから、間に合って







「…ぉ、が…さ…」

「いい!!話すな!」




あぁ、なんて、残酷な優しさ
大丈夫、なんていえないけれど言いたいことがたくさんある
伝えておかなければならないことが沢山ある
でも、だからどうか、この一言を、受け取ってください





「ぁ……り……が、と…ぅ……ざ…ぃ…す」






怖くて過去形になんてできないけれど、
途切れ途切れで聞き取れないかもしれないけど、
どうか、想いだけは届いてほしい





俺の胸部を(止血のためにだとおもう)押さえている手に、血まみれの自分の手を重ねる
もう、目も開けられないけれど、せめてこのぬくもりだけは忘れないでいたい
むこうに逝ってしまうことになっても、この暖かさだけは






「…ぇっ!…!!……………井上ッ!!!」








最後の呼びかけだけがいやに鮮明に聞こえた次の瞬間、暗転。
もう尾形さんが何処にいるのかも、いまだ俺の胸を押さえてるのかも解からない
音も聞こえなければ、体の感覚も無い
だんだん思考が、拙くなる




ヒトリで逝くことが


―――――とても、怖い。



















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