様々な100のお題

□今までのお題
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(短編「安堵の場所」「迷い」の“夢幻の子”シリーズ)




どうでもよかった。

夢の世界も、夢から覚めた世界も。
どちらが現実でどちらが幻でも。
どうでもいい。
結局は同じことが二度繰り返されるだけなのだから。

どんなに屈強な精神を持っていても、寝ても起きても絶望の世界しか瞳に映ることがなければ、希望なんていう言葉は霞んでいく。
“二度目の現実”は、いわば素人の猿芝居だ。
オチの読める舞台。
なんてつまらない、色のない世界なのだろう。


だからどうでもよかった。
手首に枷をつけられても。
たまに出された食事のおかげで声を失っても。
周りの音を失っても。
世界の色を失っても。

どうでもよかった。
どうでもよかったのに。




『はい、どうぞ』




ある日、真っ暗な夢の世界で、目が覚める直前に眩しいくらいの光に包まれた。
そして“二度目の現実”で、やっぱりその光が私の前に現れてから。




『本日のおやつです』




私を驚かせないようにわざときしむ場所を歩いて振動を起こして。
船尾でまったく変わらない景色をただ眺めている私に毎日小さなケーキを運んでくれる人が現れてから。




『今日も良い天気だなァ……』



当たり前のように隣に座り、持ってきたケーキを二つに分ける。
どちらが良いか私に聞いて、残った方を私が食べるより先に口に入れ、彼はいつも満足そうに笑う。


彼の行動の一つ一つに、意味があって。
言葉の一つ一つに、温度があって。
瞬きをする度に、世界の色を思い出させてくれる。

そんな彼に出逢ってから。
初めて。



青空のもとに居られること。
自由に歩けて、自由に手を伸ばせること。
あたたかい気持ちを知った。

真っ暗でしかなかった夢の世界は、青い空と青い海の眩しいものに変わった。
その後訪れる“二度目の現実”は、たとえ同じことの繰り返しだとしても、それはなんと心の安らぐ時間なのだろう。


何も望まなかった今までが、がらんと変わったこの世界。
変えてくれた金髪の彼は、これ以上はないのではないかというくらい、次々と光をくれる。
眩しすぎて、消えてしまうのではないかと思うほど。

それでも。




『何でも言ってね。出来ることなら何でもするから』




そう書いてくれた、首からぶら下がるノートの1ページを毎朝見て。


初めて、望むものができた。
私が望むにはきっと贅沢すぎるけれど。

心の奥底で願う。
私を闇から光へ導いてくれた、あなたの。







声を聞かせて


(そしてもう一度あの言葉を奏でてくれたら、それ以上の幸せはないだろう)


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