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□訳知り顔の兄がため息のように呟いた。
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女はつまらん事でよく怒るからな


訳知り顔の兄がため息のように呟いた。


よっぽど暇なのか、夜行は。
理由が無い限り 今まで生家に寄りつかなかった兄が、まっ昼間っから熟睡していた。
それも、オレの部屋の、オレの布団で。
見つけた時は そりゃー突っ込みどころが満載だった。
今まで見た事の無いふやけた顔や、ヨダレとか、そのまあ色々と。まっさんファンが多いだろうからここでは割愛しよう。
所在なく立ちつづけていても 起きる気配が無い。
つい、自分に問いかけてみちゃったよ コレって、本当に兄だろか…? と。
もしかして式神かもしれない。びびりながらとりあえず…でこぴんを入れてみた。
「…良守、痛いって…」
ああ、ここで消えてくれたらそれで終わりだったのに。
面倒だ、お相手をしないといけなくなった。全方向隙だらけの ぬぼっとした顔がこっちを見てる…自分の中の天才肌で頭領で長老な兄の像に、僅かなひびが入った。いや、べつに尊敬とか、敬愛なんてウスラ寒い物は全くもってしてないが。強いて言うなら、じいさんよりは上位者のラベルを張り付けていたのは確かだった。
がさがさと布団をまくり、起き始めた兄は、くずした面相を取りなおす。痛む額に非難するかのように軽く睨みつけてくる。それを無視し、事にいたった次第を聞いてみた。
「だってさぁ、オレの部屋、ぜんぜん暖かくないんだもん」
一度、自室で寝たらしい。だが、長く留守にしていた為、部屋中埃っぽいし、黒いアレも出てきたし、とにかく残業とかさーおエライ幹部様なのにヘトヘトになるまで使いっ走りにされて壮絶に眠かったらしい。まあ、…半分グチだった…強制的に寝たには寝たが、己の布団が煎餅レベルまでヘタっていて寝心地が悪かったらしく。
だからと言って 無断で隣の部屋に寝にくるもんか? 俺だったら兄貴の布団でなんてぜってー寝たくないぞー!
「良守は意外にオレには冷たいもんな」
「つか、そんなしおらしいの似合わない、キショいって」
「はは…家で一番暖かそうな所だと思うんだけどな」
素直な兄が、なんか怖い…戦い終わって何か憑き物が落ちたんでしょうか。
出来の良すぎる兄に激しいコンプレックスを抱いていた、少し前の自分がいる。兄が自分に対し、何かお節介じみた事をして来る度、半ば拒絶のような態度をとってきた。今になって思いかえしてみれば…兄は昔っからこんな打ち解けた態度じゃなかっただろうか。
まるで家族の情を欲しがり、手を伸ばしていたように。
夜行での兄を思いだす。
あの集団の中では、兄は年少者すべての『父』であり、結果的には擬似的な家族のカタチなのかもしれない。家を離れた兄は どれだけ情に飢えていたんだろうかと身につまされる。
そうさせたのは、自分の態度だ。
けど、大元である”証”は、手の平から消え失せた。
それにどこかホッと感じてしまう。
兄と自分を隔てる物が無くなった事に気がラクになったと同時に、どんだけ自分は身内が好きで大事で堪らないのか、恥ずかしい事を考えて頬がカッと赤くなってしまった。
兄なりに 家族の絆を仕切り直しに来てくれてるんだろうが、デカイ図体で甘えるようにして来られては、鳥肌立つし
落ち着かないというか、居心地が悪かった。ここは自分の部屋なのにさ。
「あーーーもう! ここで寝てても良いから、なんで家に帰って来たのかちゃんと聞かせてくれよ」
「お前こそ、機嫌悪く帰って来たみたいだけど、なんかあったのか」
ちゃんと兄ちゃんに聞かせろよ。
「イテッ!」
ニヤリと笑われながら、先ほどのお返しのように でこぴんを食らわされてしまった。


◇◇

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