短篇集

□ドSの裏のマゾヒズム
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※暴力的な性表現がありますので、苦手な方はご注意下さいませ!(シリアスではないです)
本編の十九歳伏見が吠舞羅にいる設定です





普段何事にも興味がない伏見猿比古が唯一自分からしようと思うのは、性行為だけである。最初の頃は普通に女を抱いていたが、何がきっかけだか男に挿入れられる方が気持ち良いことに気付き、それ以降は同性とばかり致すようになった。

しかし受け身の側とはいえ、相手に主導権を握られることが気に食わなかった伏見は常に自分の思い通りに事を進めていた。体位はほとんどが騎乗位、そうでなくとも相手には自分の言う通りに動かせた。たまに無理矢理組み敷こうとしてくる輩もいたが、元来喧嘩の強かった伏見はそんな輩共は骨折のおまけ付きで余すことなく返り討ちにしていた。

そんな伏見が吠舞羅に入ったのは、男漁りが目的だった。尊さんが凄いだの何だの騒ぐ中学時代からの腐れ縁である八田を余所に、伏見は吠舞羅の幹部を中心とした顔面偏差値の高さに心のなかで歓喜した。わざわざ危険を冒してこの赤のクランに来たのは正解だったようだ。

そして、伏見が最初に狙いを定めたのはNO.2である草薙出雲。吠舞羅の参謀で、ゴロツキ連中が多い中でも際立って品のある、常識人である。顔に関しても申し分ない。

「さてと…行くか」

今日は煩い童貞チビがいないため、一人でBAR.HOMRAに向かう。その他の吠舞羅の面々(名前すら覚えていない)は皆鎌本の引っ越しの手伝いで出払っている。故に普段喧騒としているBAR.HOMRAには、今日はマスターである草薙出雲しかいない筈である。

こんな絶好のチャンスはない。草薙が勤務中とはいえ、外扉の表札をCLOSEにして鍵を閉めてしまえば中には客は疎か誰も入ってこない。傍から聞けばメチャクチャな話だが、自分が誘えばなびかない男などいないという伏見の考えは強ち間違っている訳でもなく、今までもこんな陳腐な考えで幾人もの男を魅了し、食ってきた。

軽い足取りでBAR.HOMRAの前へと足を運んだ伏見だったが、表札がCLOSEになっている事に気付く。本日が定休日、ということはない。昨日、草薙が次の日の準備を進めていた事は確認済みである。不審に思いながら、伏見は扉に手を掛ける。カラン、と軽快な音を立てて中に足を踏み入れれば、普段とは打って変わって室内は静寂に包まれている。無人か、と思ったが、ソファに人影が見える。

「あ…」

あー、俺としたことが迂闊だった。伏見は心の中で舌打ちをする。赤のクラン、吠舞羅の王周防尊。凄まじい存在感でそこに座していた周防は、無気力に伏見を一瞥し、「おう」と地を這うような低音で一言溢す。この男が、引っ越しの手伝いになど赴く訳がなかった。

瞬時に周りを見渡しても周防以外には誰もいない。伏見は、室内に周防と自分だけという状況に再び内心で舌打ちを溢す。吠舞羅の中で、外見やその体格からすれば周防は伏見にとって大変魅力的な相手である。しかし、その常人離れした王としての圧倒的な力と、理性は二の次という彼の野性的な性格が伏見は恐ろしかった。


「…ども。草薙さんはいないんすか?」

心の内を隠すように努めて冷静に振る舞う。草薙がいないという時点でこの場にいる意味はない。申し訳程度の会話を済ませたらすぐに立ち去ろう。あー、予定が空いちまった。誰か適当にヤれる奴呼び出すか。伏見が頭の隅でそんな事を考えていると、少しの間を置いて周防が口を開く。

「あ"ー…私用で出てる。夜まで帰らねぇってよ」

完全に自分のペースを持っている相手に、やはり苦手だと再確認するが伏見の表情は相変わらずのポーカーフェイス。

「そうですか。じゃあ、出直します。お邪魔しました」

別にここは周防の家でも何でもないのだが、他に言葉も見当たらず適当にそう言って踵を返す。もう次の行動を思惟していた伏見に以外にも声が掛かる。

「おい、草薙に何か用か?」

周防は自分の存在など空気程度にしか認識していないと思っていたために驚きはしたが、まぁ至極当然な疑問かと思い直す。

「この前食わせてもらった料理のレシピ、聞きたかっただけなんで」

思い付いた出任せを適当に並べる。まぁ、この人なら興味など無さそうに軽く流すだけだろう。そう思っていたが、周防の視線が真っすぐに自分を捕えている事に気付く。何か不味いことでも言ったか…?伏見が警戒していると、周防は珍しく気怠げな表情を崩し、口元に不敵な笑みを浮かべ自身の首筋をとんとん、と軽く叩く。


「キスマーク」

「…!」

周防の言葉に条件反射で首元をばっと押さえる。不味い反応をした、とすぐに気付き伏見は内心動揺する。蚊にでも刺されたんじゃないすかね、とでも濁しておけば良かったものを。伏見は身体に情事の跡を残される事が大嫌いだった。まるで相手に下ったようで、吐き気がする。あれだけ跡は付けるなと言ったのに…次会ったら殺してやる。

「ちょっと付き合えよ」

「…え、わっ」

伏見が頭の中で相手を殺すシミュレーションを巡らせていると、突然身体を浮遊感が襲う。周防に担ぎ上げられたのだと理解するのに、そう時間は掛からなかった。

「ちょ、なに…ッ」

「お前のそれ見たらヤりたくなった」

「は…!?」

頭が追い付かないまま、二階へと運ばれベッドに放られる。周防は訳がわからず唯々混乱する伏見のズボンを脱がせに掛かる。頭の中がぐちゃぐちゃに乱れまとまらないまま、伏見は必死に抵抗するが力の差は歴然。伏見の抵抗など気にも止めることなく、周防は伏見のズボンを剥ぎ取り適当に床に放る。そして当然のように続けて下穿きに手を掛ける周防に、伏見は青ざめる。

「っ、なにっするん、ですか…っ!ッやめて、くださっ」

「あ"ー…言わなかったか?ヤるって」

「っな、に言って…っちょ、やめ、っ…ぁ…ッ!」

伏見が足をばたつかせるため下穿きを下ろせず、面倒臭そうに頭を傾けた周防は、あろう事かそれを力にものを言わせ引き裂き、床に捨てた。布切れと化した自分の下着を見て、伏見は動きを止め茫然とする。

おいふざけんなよ何してくれてんだ、これじゃ帰れねぇじゃねぇか替えなんてねぇぞ、と混乱した頭の片隅で普段の状況なら口から飛び出したかもしれない言葉の羅列を並べる。まず下着を引きちぎられる時点で普段も何もあったものではないが、そこまで優秀な筈の伏見の頭は思考しなかった。

足を内股にして剥き出しになった部分を出来るだけ隠そうと奮闘しながら、伏見は今可能な限りの冷静さを装って振る舞う。

「ッ…あんた、自分のクランズマンにこんな事して、正気ですか…他の連中に知れたら、王の面目、が…っ」

立たないんじゃないすか、と。言い掛けて、伏見は気付いてしまった。自分がこの男を恐れていたのは、その獣のような本質に恐怖したからだ。僅かでも理性の利く相手ならばまだしも、この男には伏見の言葉など唯の雑音でしかないだろう。周防の野性じみた瞳を目の当りにしてしまった伏見は、そう悟ってしまった。

そしてこの先自分の身に降り掛かる出来事が頭を過り、伏見は慄然とする。力の差は歴然、その上口で丸め込むことが不可能な以上、伏見が目の前の自らの王である周防から逃れる道は、ない。その事実に、伏見はぞくりと背筋が粟立つのを感じる。しかし、それが恐怖からくるものではない事に伏見は気付かなかった。

伏見の葛藤を余所に、周防が伏見の閉じていた両足を掴み開脚させたことで、伏見の恥ずかしい部位が露になる。

「ぁっ…ちょ、うそ…やっやだ、みことさ、む、むりっこんな、やっ、ひッ」

ぐ、と秘部に周防の自身が押し当てられ、信じられないといった表情の伏見の喉からは引きつった悲鳴が上がる。うそだろ、慣らさないでそんなでかいの、入るわけ、ない――。完全に普段の余裕を無くし怯えた表情で身を固くする伏見を一切気遣う事なく、非情にも周防は腰を進め自身を伏見の中へと挿入した。

「ぐ、あ"ぁ―――……っ!!!」

一切慣らされることなく男根を突き入れられ、伏見の痛々しい悲鳴が部屋に響く。無理矢理性器を銜え込まされた後孔からは血が滴り、突き上げられる度に周防の先走りと交ざり合い薄く色付いた液体がじゅぷじゅぷと音を立てて泡立っている。

「ひっぐ…っや、あ"…ぃ、ぐ…い、たぁ…ッぁ"…っく、…ひぃっ!」

「ぁー…狭ぇな」

伏見はあまりの痛みに瞳を見開き周防の腕に必死に爪を立てるが、そんな伏見への気遣いなど欠片も見せずに、周防は容赦なく飢えた獣のように欲望のままに伏見を犯す。強く掴まれた伏見の白い腰には赤い跡が残り、必死に逃げを打とうと藻掻く伏見を簡単にねじ伏せ、その細腰を激しく揺さ振る。

「…ひッや、ぁ…い、たぃっ……く、ひぃ……ッ…」

その痛みと苦しさに伏見は経験したことのない一方的で暴力的な凌辱に本気で泣き喚く。今まで、少しばかり強引な性交はおろか、自分の思い通りにならない行為を一度もしたことのない伏見にとって、こんなレイプ紛い(というかレイプである)な行為は血の気が失せるような恐怖と嫌悪感に塗れたものである。

痛い止めて、と意味を成さない悲鳴の合間に必死に懇願する伏見のある変化に気付いた周防は、口元に厭らしい笑みを浮かべ、乱暴に伏見の髪を掴み上げるとその耳元で囁く。

「おい、勃ってんぞ」

「ッ、ふ、ぇ……?」

痛みで鈍った伏見の頭が周防のその言葉を理解するのに、暫く時間を要した。漸く思考が追い付きのろのろと自分の下腹部に視線を向けた伏見は、朦朧としていた意識を現実へと引き戻される。

「ッ…ぁ…なン、で…っ…」

先走りを垂らし立ち上がる自身のそれに、伏見は目を見張り絶句する。こんなに辛くて嫌なのに、なんで。自分の身体が制御の利かない全く別の何かのようで、現実に心が追い付かない恐怖に伏見の身体がかたかたと震え出す。

身体を片手で容易く押さえ付けられれば、ぞわぞわとこんな状況で湧くはずのない感覚が芯を走る。伏見はこの感覚に覚えがあった。情事中に相手を好きなように従わせ、自分が優位に立って行為を行う際の征服感を味わった時の快感に、それは酷く似ていた。真逆の状況の今それを感じているという事実を信じたくない。伏見は現実から逃れるように固く瞳を閉じる。

「はっ…しっかり感じてんじゃねぇか」

「っ…や、ちがぁッ、ひぐっい、たァ…ぅあァッ…ひっ!」

「ほんとに痛ぇのか?」

乱暴に自身を握られ、伏見はか細い悲鳴を上げる。痛いに決まってる。慣らしもせずに中を抉られて、苦痛しか感じない、筈なのに。ぞくぞくと休みなく下半身を走る快楽に、伏見は怯えたように顔を歪める。うそだ、こんな、こんな…!

いつのまにか痛みよりも快感が上回り、伏見はびくりと身体を揺らし涙を散らす。きゅうぅ、と自身を締め付ける内壁に、周防は極まりより深く伏見の腰を引き寄せる。

「っ…」

「あぅッ、く、ひゃ、ンあああァ…ッ!」

どくどくと胎内に白濁を注がれ、伏見の身体はびくりと痙攣を起こし、自身から勢い良く精を吐き出した。

「っく、ァ、はァッ、はっ、ッあ…ひぃっあああ…ッ!」

達してしまった事に茫然自失する伏見だったが、絶頂の余韻に浸る事も許されず、身体を引き上げられ周防の腹に跨がる体勢を強いられる。勿論、後ろに男根を銜え込んだままの状態で。

より奥深くを抉られ、伏見の瞳からぼろぼろと涙が溢れる。歪んだ視界で周防を見下ろしながらも、当然自分が優位に立っているなどとは微塵も思えない。やり慣れた体位の筈なのに、経験したことのない未知の不安に伏見は瞳を潤ませ眉を下げる。伏見の中に沸き上がるのは不安と恐怖と、そして認めたくもないこの先の行為への期待。今支配されているのは完全に自分で、伏見の意志など一切考慮される事はない。そう思うだけで下半身が疼くのを感じ、伏見は切なげに身を捩る。

「おい、てめぇが動け」

そう言って軽く腰を揺すられ、伏見の口から甘い喘ぎが漏れる。傍若無人な王の絶対的な命令に、伏見が抗える筈はなかった。




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