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□君と世界を天秤にかけて
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八田ちゃんが赤の王で伏見はそのクランズマンなパロ。八田ちゃんの剣が落ちると他の王の暴発連鎖やらなんやらで世界の一部が消えるよっていう滅茶苦茶な設定。救いのない唯々暗いです。




「そんなの美咲の方を取るに決まってるだろ」

後ろから八田を抱きしめる体勢でベッドに座っている伏見は、あっけらかんとした口調でそう答える。何となく予想はしていたが、あまりにも想像通りの伏見の返答に八田呆れたようには溜め息を吐く。

「世界が壊れたらお前も消えちまうんだぞ」

肩越しにそう言ってみても、伏見は八田の忙しく跳ねた髪を弄りながら「んー」とやる気のない返事を返す。

「美咲のいない世界なんて生きてたって意味ないし」

伏見は欠片も興味が無さそうに、無機質な声色でそう溢す。唯々幸せそうに八田を抱きしめていた伏見を振り返り、八田はその襟首を掴み引き寄せる。

「…俺が殺してほしいって言ってもか?」

伏見の視線を己の鋭いそれと交わらせそう問う八田に、伏見は瞳を細めたのち、にこりと微笑む。

「殺さない。美咲にだって美咲は殺させない」

伏見の暗く濁った瞳の奥には、確固とした決意があった。八田のダモクレスの剣はすでにボロボロだ。いつダモクレスダウンを起こしても不思議ではない程に。かつての赤の王は、ダモクレスダウンを引き起こしかけ、そして剣が落ちるその前に、青の王によってその命と引き換えにダモクレスダウンを免れた。ダモクレスダウンを防ぐ方法は、剣の所有者である王の命を絶つしかない。

「…俺、ずっと美咲の傍にいる。剣が落ちるその時も、ずっと美咲の傍にいるよ」

伏見の眼鏡の奥の暗い瞳に、八田はぼんやりとかつて二人で王という存在に心を奪われていた頃の事を思い出す。幼い頃から二人で羨望していた王という立場を手に入れた結末はあまりにも残酷で、幼い頃の自分たちには想像もつかなかったような過酷な現実が目の前にあった。背中に感じる伏見の温もりを感じていられるのはあとどれくらいだろうか。当然、伏見を巻き込むことはしたくない。生きてほしい。そして、世界が壊れる前に自分を殺してほしい。しかし、伏見は絶対にそれを承諾しない。

「俺にとっての世界は、美咲そのものだから」

伏見はそういって聞かない。ずっと、二人だけで生きてきた。自分たち以外に、自分たちを認めてくれる者なんて存在しなかった。伏見には八田がいて、八田には伏見がいる。二人には、それだけで十分だった。

「なんか世界を巻き込んだ心中みたいだな、美咲」

「世界からしたら、傍迷惑な話なんじゃね」

嬉しそうにそう言って子供のように笑う伏見に、八田も自然と笑みを溢す。こうやって伏見と話していると、世界がどうとか、剣がどうとか、何もかもがどうでも良くなる。二人一緒に命を終えられるというのも、悪くないのかもしれない。

俺達の世界には、二人しか存在しないのだから。






END.
 

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