rose story

□1本の薔薇
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仕事の帰り道。
花屋で見かけた深紅の薔薇の花。
とても情熱的で美しかった。

その薔薇に魅了され、淳は思わず店の中に入っていく。
店の中には他の客もおらず、色とりどりの花々がひっそりと咲き乱れていた。



「なにかお探しですか」


あまりにも食い入るように見つめていたためか、店員に声をかけられた。


「いえ…薔薇、綺麗だなと思いまして」

「今でも当店で一番の人気を誇っていますよ」

「そうでしょうね…」


滴る水さえも深紅に染まったように見える。
もともと花は嫌いではないが、こんなにも惹かれることが不思議であった。


「一本いただけますか」


思わず口走る。
買う気などなかったのだが、何かの縁かもしれない。


“面白そうだから研二っちにプレゼントしてみよ”


ちょっとした冗談のつもりで、そんな事を考える。
淳は薔薇を一本手に取った。
それを店員に渡し、レジへ向かう。


「プレゼントですか?」

「まぁ、一応…」

「それでは簡単にラッピングしますね」


店員は慣れた手つきで一本の薔薇にラッピングを施していく。
たった一本だけ、その上プレゼントの相手は男だっていうのに…と淳はなんだか申し訳なくなった。


「すみません、一本だけって…」

「いいえ〜、意外と一本だけ買われていく方って多いですよ」

「そうなんですか?」

「ご存知無いですか?薔薇は本数によって意味が違うんです」


初めて知った事実に、淳は興味をそそられる。
一本はどういう意味なんでしょう?、と店員に尋ねた。



「一本はですね、


“一目惚れ”


ですよ」


綺麗にラッピングされた一本の薔薇を差し出しながら、店員は静かに微笑んだ。



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