dream

□おやすみ†
1ページ/1ページ



おやすみ。

メローネの声に何人かが振り返った。何を言っているのかわからない、誰も口を開くことはなかったけれどその表情からは困惑がありありと見て取れた。
「願わくば安らかな眠りを……ほら気分だよ気分。言うだけタダ、願うだけは自由! そういうの大事だろ」
誰一人阿呆みたいな表情を崩さないから言ってやった。
「……あァ。大事だな」
「そうだな。おやすみ」
「おやすみだ」
ひらひら手を振って笑って見せると、皆もどうにか口角を引き上げた。メローネに倣い、ぽつりぽつりとソルベとジェラートに別れを告げる。それが終わると掘削した墓穴に二人を納めて、また交代で上に土をかけていった。メローネはその順番を待ちながら、死んだメンバーをまともに弔うことは、自分が知る限り初めてだと思い至った。
二人を埋葬してやりたいと言い出したペッシに対して、くだらねーと言うやつはいなかった。
ペッシはガラスケースに入れられたソルベを泣きながら解放し続けた。皆も後からそれに倣った。足の爪先から始まってどうにか頭部までたどり着いたころには、ペッシは悲しみで嗚咽しているのか嘔吐しそうになっているのか、誰にも区別はできなかった。
「おやすみ」
普段ならああだこうだと喋くるホルマジオが無言で土を固め終ったころ、それまで一切言葉を発しなかったリゾットがようやく口を開いた。

酷くさびしい夢だった。
二年も前の出来事だし二人の死はちゃあんと理解しているのに、何故今更こんな夢を見たのか。
実のところ、ソルベとジェラートは数日あけて発見されたため別々に埋葬された。当時メンバーが半々に分かれて処理したのだ。それにペッシは目の前に並んでるのがソルベの死体だと分かった瞬間ゲロっちまって、とてもケースから出せる状態じゃあなかったし、いざ別れのときになっても誰からもおやすみなんてセリフは出てこなかった。
メローネは自分が泣いてしまった気がして眼を拭った。そして違和感に気付いた。いつも手袋を欠かさないはずが今はしていない。
「随分と辛い夢を見ていたようですね」
心臓の中をひゅっと風が吹いた。声の主からは同情するとかでなく、感じたことをただ口にしただけという印象を受けた。
静かな声の主のほうへ体をよじると、椅子に品よく座った金髪の少年が頭だけこちらに向けていた。メローネは即座に自分の置かれた状況を理解した。誰だと訊くのは愚問だ。
なんの用だい。ずっとオレを見ていたのか、悪趣味だな。
ニヤリとしてやったが喉がかさついてまともに声が出なかった。
「おはようございますメローネさん。ぼくはジョルノ・ジョバァーナ。起きがけに申し訳ないけれど、ぼくはあなたに辛い話をしなければならない」
「……最悪の寝覚めだ。いや、悪夢ってことならさっきの夢がまだ続いてるのか? どっちでも良けど寝直すよ……おやすみ」
もう一度眠って、せめて二人を埋葬した後からどうにかやり直せないだろうか。我ながら下らねえと思ったが、そう思わずにはいられない。そばにいる少年や自分のこれからの処遇についてよりは、今は死んでいった仲間のことが悲しくて仕方がなかった。




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ