present

□おまもり
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ホルマジオは帰ってくると言った。
結果から語れば帰ってこなかった。死んでしまったからどうしようもない事ではあった。
私の薬指を彩る指輪は既に無用の代物だった。恋人不在でその指に嵌めていても仕方ない。
私は悲しむ事より指輪を左手の薬指から外し写真を全て処分し連絡先から彼のアドレスを消す事を真っ先に行った。
私は1人で生きていかなくてはいけない。

日々は単調だった。毎日仕事に行き帰宅する。休日は友人と過ごす事が多くなり彼に関して尋ねられれば「別れたの。」その一言で終了した。
ホルマジオは死んでしまったというのに。
毎日順調に進んだ。
仕事で昇進し新しい恋人を作り彼は過去になりつつあった。
ここまで淡々と新しい事を受け入れる心に私は彼の事が好きだったのか疑い始めた。
私は何故ホルマジオと付き合っていたのだろうか。私はスマートな男性が好みだ。職業も安定した人が良い。静かな男が好きだし全て真逆だった。

自分の正直な気持ちに気付いた切欠は単純だった。
恋人が指輪をくれた。
プラチナのそれは美しく私の指に綺麗に嵌った。恋人は高給取りだ。こういった散財は惜しまなかった。
「折角嵌めてもらうなら綺麗なものが良かったんだ。右手の小指の指輪とも合うだろ?。お気に入りみたいだから。」
私は、はっとする。

私の指は華奢だった。かつて指輪を購入してもらった時に驚かれた。ピンキーリングに近いと。
ジュエリーショップでペアのそれを彼は私の分のみ購入した。不満を漏らすと困った顔つきで笑った。
「迎えにいけるようになったら、一緒に嵌めてやる。」
彼はギャングだった。お別れは気安かった。人の価値なんて思ったより軽い、という現実の厳しさを私に遠まわしに教えた男だった。

急に泣き出す私を嬉し涙と勘違いしたのだろうか?。
「泣かないでくれよ。結婚が正式に決まればもっと素敵なものになるのに。」
私は辛うじて「ごめんなさい。ありがとう。」を繰り返す。

私は間違いなくホルマジオを愛していた。
今更永遠に私から軽々と奪われた事を信じたくなくて嵌める指を変えただけだった事を実感した。1人が怖くて指輪がある限りホルマジオに守ってもらっている気分だった。

本来、人を好きになる事に理由付けなんていらなかった事を思い出した。
私はホルマジオだから恋をした。
心から打算抜きで愛した。

形を変えても愛しているのだ、今でも。



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