dream

□ソレッラ!
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上着を脱いだプロシュートはソファにどっかりと腰を沈めた。途端、それまで忘れかけていた疲れがどっと吹き出、柔らかすぎるソファに疲れと身体が溶けていきそうな気さえした。腕でまぶたを覆い、努めて何も考えずにいるとくつくつと鍋が煮立つ音が耳に入った。
大丈夫かとキッチンの方を向くと丁度ナマエが戻ってきた。
「お帰りなさい。お疲れさま」
「ああ」
鍋の中をかき混ぜるとプロシュートのほうへ歩み寄る。
「無事でよかった」
ナマエはプロシュートの肩に手を置き額に口付ける。プロシュートも髪を梳くナマエの指の動きを楽しみ、深く呼吸を繰り返してはその香りを胸いっぱいに取り込んだ。
「怪我してる」
「大したことねえ。放っときゃ治る」
「だめ。血が出てるでしょう」
「待てよ。行くな」
引き止められたナマエは子どもをたしなめるときのように微笑む。あいている手でプロシュートの手をトントン叩いて放してと促す。
いい子だから、ね? ちゃんと手当てしなきゃ。
それでも放す様子のないプロシュートにまた眉尻を下げる。
しょうがない子。
「ガキ扱いするな。あとしょうがないって言うのもやめてくれ。萎える」
「……プロシュートって、怪我してもこんなの平気だってやせ我慢するタイプかと思ったけど、手当てそっちのけで甘えるタイプだったのね」
ゆったりとしたナマエの声を聴いていたせいか疲れはなんとなく紛れたが、ここに帰る道中に収まった昂りがじわじわ形を変えて思考を侵食してきた。
「プロシュート、くすぐったいよ」
しっとりしたナマエの肌が唇に気持ちいい。香りは勿論、放しては触れるたびにわずかに震える様子すらプロシュートの本能を刺激する。反面どうにか静止しようと声を発するナマエは飽くまで穏やかだ。まるでやさしく子どもに言いきかせるように。それが腹立たしい。
「いけない子ね。プロシュート」
「おまえな……止めさせようってんならもっとマジにやりやがれッ」
「きゃア!」
プロシュートは力任せにナマエの腕を引いた。バランスを崩してソファにもたれかかった彼女を更に引き倒してのしかかる。顔にかかった髪をどかせるとやはり困ったように微笑んでいる。なにも塗っていなくてもふっくらした唇がほんのすこし開いていて、それが言葉を探しているようにもキスを待っているようにも見える。それがこちらの妄想ということも分かっている。
「プロシュート、」
腕は拘束してない。
やっとその気になったのかキャシャな両手はゆっくりとプロシュートの頬に近づい
パァァァアアン!
「いッ てェエェ!」
「おいたが過ぎるわ」
「ッだァ!」
「しばらく頭冷やしなさいね」
ナマエは両頬に平手を喰らったプロシュートの下から素早く抜け出た。更にデコピンを見舞うと、イイッと歯を見せリビングを出て行った。去り際にコンロの火を消すのも忘れない。
「あ〜あ〜ダッサ。全ッ然相手にされてねえ」
濡れタオルで頬や額を冷やすプロシュートを、いつの間にか現れた男が顎を上げて嗤った。
「うるせェ覗き魔が。そう言うオメーはしたくても行動に移せねえんだろ」
「んだと」
「腰抜けは鏡ン中引きこもってスタンドとよろしくやってろ」


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