dream

□絶対隷奴 †
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愛想のない女。それがナマエの第一印象だった。
オレ向きの仕事があるということでアジトに顔を出した。リビングは珍しく静かだった。人の気配がする事務室ではリゾットが見知らぬ女と話していた。
「ナマエ、ギアッチョだ」
「ナマエっていうの、よろしく。それじゃ私は失礼するわ」
女は最低限の挨拶を済ませるとさっさと出て行った。リゾットと同じくらい表情が乏しい。
「何だありゃあ」
「明日イルーゾォと仕事をすることになった。これから時どき顔を合わせることになるだろう」
リゾットの話だと、ナマエは主にカジノを管理する別チームのメンバーで、普段は何かあればそいつらと行動する。えらく有能らしく見てくれもそこそこだから、女がいた方が良いと判断された時に限ってこっちに参加するということだった。にしてもそんなテーブルの塩を右から左に移動するみたいに簡単なモンなのか? ナイフや銃の使い方や情報の扱い方は知ってるのか。そうなら良いが、少なくともあの女について今の今まで聞いたことがなかったし、メンバーの誰かがそういった訓練をしてやる様子もなかった。もし知らなければ実戦で覚えろってことか? 容赦のないこった。
「使いモンになる前に死ななきゃ良いけどなァ」
リゾットは何も返すことなく次の仕事の説明を始めた。

他の奴らから漏れ聞いた限りナマエは愛想のカケラもない女だ(当初オレが感じた通りだ)。仕事の打合わせでは突き詰めたやり取りをする代わりに、プライベートの話は一切しなかった。休日の過ごし方を訊かれても、挨拶程度の口説き文句やジョークも流したし、ごくたまに機嫌が良さそうなときでも毒を含んだ言葉で返した……つーかそれって機嫌が良いって言えんのか?
皆ナマエの笑った顔を見たことがない。
イルーゾォいわく、喧しくなくていいが変に緊張する。
ホルマジオいわく、もう少し愛想があればこっちも楽なんだが。
プロシュートいわく、あまりに可愛げがなくて時どきはっ倒したくなる。
メローネいわく、その素っ気ないところがたまらない。
……下らねえ。組織の中でも出来る限りオレらのチームとは関わりたくねえと思ってる奴らが殆どだ。ナマエもその類いだろ。
「人を殺そうがカジノを仕切ろうが大差ないわ……汚ない仕事」
ある時、一緒に組むことになったナマエは、こともなげに言い放った。こっちを見ようともしない。ただ、心なしかオレや他の奴らに対してというよりナマエ自身に吐き捨てたように聞こえた。
次に一緒に組んだときのことだ。ナマエがエサになって標的から情報を引き出し、その後オレが始末するというシンプルなものだった。実際目立った妨害も予想外の要因もなかった。普段と違ったのはオレがスタンドを使って標的を始末したことぐらい。死体を残すなと指示されていた。ホルマジオやイルーゾォがいるだろうと抗議したが別件で出ていた。銃やナイフで殺っても良いがその後自分でバラさなきゃならない。なのでオレは相手の身体を凍結させてバラバラに砕いた。
「それがあなたの『スタンド』?」
ナマエは舞い散った細かな粒を見つめていた。どこか安らかと言うか恍惚とした表情で。
「すごく……綺麗……」
「あ゙ァ? フキンシンな女だな」
「へぇ……不謹慎なんて言葉、ギャングの口から聞くなんて思わなかった」
「ほォ、つーことは何か? オメーはオレらが倫理のカケラも無え殺しを愉しんでるようなゲス野郎だと思ってるってことか」
「気に障ったのなら悪かったわ。ちょっと意外だと思っただけ」
ナマエはイラつくオレに構わず元来た通りを引き返した。さっきまで人間だった、今はみぞれ状のものを踏みしめながら。ひでえ女だ。
ナマエとはその後も何度か組む機会があった。ナマエ自ら望むことはなかったが、前みたいに標的を凍らせて始末すると目を細めてそれに魅入っていた。そうじゃない場合は明らかに落胆した様子だった。異様な死に様に興奮する異常者か。
「いや、もしかしてオメー……あんま雪見たことねえのか……?」
ナマエはバリバリのネアポリス訛り、行動もよく見てると一切の隙がなくてここの土地の人間臭え計算高さが伺える。ナマエはほんの一瞬だけはっとした表情になったが直ぐにフンと鼻で笑いやがった。
「あなたには関係ないでしょう」
 
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