dream

□スカーフェイス
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館から出ようと扉に手を伸ばしたとき、おれが開くより一瞬早く女が中に入ってきた。
女はちろりとこっちを見た。そのまますれ違うと思ったら、足を止めておれをまじまじと見上げてくる。
「アンタよ、おれの傷痕がそんな珍しいか」
「間違ってたらごめんなさいね? もしかしてあなた『呪いデーボ』?」
「はァ? ちょっと待て。実際おれがそのデーボって奴かどうかの前に、人に訊くよりまず自分から名乗んなきゃいけねえのが世界共通の礼儀じゃないのか」
「ごめんなさい。私はナマエ、DIO様に雇われてるの。どうぞよろしくね」
ナマエと名乗る女はさも嬉しそうに右手を差出した。
胡散臭ェ。
「あなたの噂はかねがね聞いてるわ。是非一度会いたいと思ってたけど、まさかこんなところで叶うなんて」
「……てことはアンタ、おれと同業か?」
それかおれの情報が他の連中に知れ渡ってるのか。
「アタリ。いつもはアジアを中心に仕事してるんだけど、それ相応の報酬を貰えるなら世界中何処にでも行くわ」
「いつもナマエで通ってるのか?」
殺しでメシを食って長いが、今までその名を聞いた憶えはねえし、かといってこの女には素人臭さがねえ。
と、女は所在のない右手でスカーフを取り、髪をかき上げた。ベラベラ喋られるとイラつくが、黙ってれば眼や仕草がなかなか色っぽい。
「質問が多いのね……それだけ興味を持って貰ってるってことかな? でも通り名だろうがなんだろうが知られるようなヘマはしないわ」
「おい今なんつった?」
「知れてる時点で二流。ましてやあなたは傷だらけで特徴的。この館に出入りするくらいだからスタンド使いなんでしょう? 仕事でもそれを売りにしてるんでしょうけど、勘の良い相手なら手の内がバレちゃうんじゃないの」
この女、自分が何言ってるかわかってんのか?
「言いたいこと言ってくれるじゃねえか。なんなら今自分で確かめてみるか? おれが超一流の殺し屋だってことを」
おれが仕事にしろ何にしろいつも後手に回ってるわけじゃねえことを見せてやろうか。わざわざスタンドを使うまでもねえ。
「それよりひとつ賭けをしましょうよ。あなたと私、ジョースター一行を一人でも先に始末した方が勝ち」
「ハ……面白れえ。良いぜ、だが何を賭けるってんだ」
「お金じゃあありきたりだし、命なんて賭けてもお互い何の得にもならないし。そうね、勝った方は負けた方を一晩自由に出来るっていうのは?」
「はあァ?」
「アラ お気に召さない?」
「いや アンタ、まさかおれに抱かれたいとでも言うのか?」
「女の私の口からは言えないわ、間違いないとしか」
「ウハハハハハハ! アンタ気は確かか?! それとも男ならなんでもいい淫売か?」
「いたって正気。守備範囲も結構狭い方だと思ってるんだけど」
「こいつは驚きだ。DIOの周りの女どもは例外なくヤツのことしか見えてないのかと思ったが」
「確かにDIO様は恐いくらい魅力的ね。あんな男今までお目にかかったことなかったし、これからもないでしょうね……それでも、DIO様では全然『足りない』の」
言うに事欠いて足りないときたか。ヤツは得体の知れない男だが、ツラの良さやカネ回り、育ちも良さそうだし、他にも人が羨む何もかもを持ってそうだ。それを足りない、と。
面白ェ。
「あなたは違う」
「お、……」
女はぬらりと唇の端を舐めてみせる。
さっきまでは気にもしなかったが、ここの土地に合わせたダブついた外套の下は、想像以上にエロい身体をしてるんじゃあないか?
残念だが今は確かめようがない。別に不可能じゃあないが、力ずくでってのは野暮なこった。
「コレが私のヤサ。今はこの館にお世話になってるけど、そうじゃないなら大抵そこにいるわ」
艶然たる笑みを浮かべた女はついと紙キレを差出した。
「マジモンかよ? 警戒心なさすぎだろ」
「いつもこんなことしてるわけじゃないわ。ここぞというときだけ、ね?」
「そうかい」
要はこの女、しょっぱなからヤる気満々だったわけだ。尻も脳ミソも軽い、何でもナメてかかる性格。余程今までの仕事がラクにいったんだろう。
「で、あなたはもう行くの? 道中会うかもね」
「いっちゃん始めに日本人のガキをけしかけたそうだな。 それが寝返っちまって、他にも何人か行ってるらしいが……どうだかな」
「まあ気をつけて。返り討ちにならないようにね」
「ケッー」
いちいちつっかかって来るのも、おれの気を引くためと分かればカワイイもんだ。
「誰にもの言ってんだぁ? アンタの実力がどんなもんかは知らねえが、そっちこそやられんなよ? おれの好きにされるまではな」
「勿論。あなたを好きにする気満々だもの……ふふ……今回のは普段の仕事とは比較にならないくらいの報酬だけど、もう今はそんなの二の次だわ」
「ほォ。そんだけラブコールされちゃあ張り切らないわけにはいかねえな」
結構なことだ。とっとと仕事終わらせて、その身体、望み通り好きにさせてもらうぜ。



「足りない」のは傷痕



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