dream

□そんなワケはねえ
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いつもの買い出しの帰り道、ナマエとホルマジオは手のひらサイズに小さくなった食材や酒を片手にアジトへの道を歩いていた。

「私は味覚どうこうの話をしてるんじゃあないよ? そんなのみんな生まれも育ちも違うんだから好みも違って当たり前な話で」
「ああ」

ナマエが珍しく声を荒げてまくしたてている一方で、ホルマジオは聞く気があるのか無いのか(いや間違いなく無い)、彼女より少し後を歩きつつ意味のない言葉を返すだけだった。

「ただ食べ物の好き嫌いとか大人としてどうかと思うのよ」
「ん〜」
「ちょっとは私を見習って、ていうかたまには食べ残しのない日があっても……ってさっきから聞いてるの!?」
「ん? お、おうよ」
「ウソ、さっきから生返事ばっか」

ナマエは振り返ってホルマジオが追いつくのを待っている。

「アジトじゃそうでもないのに、最近外に出るといつもそんな調子だよね」
「んなことねえよ」

いつの間にか怒らせちまったかとホルマジオは焦るがナマエは口調とは裏腹に沈痛な面持ちになる。

「黙って下向いて心配ごとでもあるの? それとも私、何かした?」
「んなワケねーよ。いや悪ぃ、実は聴いてなかった」
「それは分かってるよ」
「悪かったって、ああ何の話だっけ?」
「何もないならいいんだけど……みんな無理はしてない? 時々すごく心配になるんだよ」

オメーはメンバーの母親かとホルマジオは突っ込んでやろうかと思ったが、止めた。

「オメーこそ当番制だったのにいつの間にか家事全般やってんじゃねーか。かなりの労働量だろうがよ」

それこそ家政婦か大家族の母親のようにだ。かといってホルマジオは買い物くらいしか手伝う気がないのだが。

「私のことは良いんだよ。まあリゾットはさて置き、プロシュートはあれでいて世話好きだしあんたは要領が良いし、みんなもあんなだし、まあ大丈夫だろうとは思うけど」
「さみしーなァリゾットばっかじゃなくオレらのことも労ってくれよ」

ホルマジオがナマエの肩を抱くと、彼女も腰に手を回してくる。

「……ホルマジオっていつもしょうがねーで済ませちゃうよね。もしかしたら実は色々抱え込んじゃってるのかもって思ったの」
「ナマエよぉ、今日はどうしたァ? やけに優しいじゃねーか」

(つーかオレは悩みも何も、オメーの尻眺めてただけだからな……)

ついでにどうやったらさり気なく触れるか考えていた。まあ触ったら間違いなく、今本当のことを言っても殴られるのは目に見えている。

「グラッツェ。でもオメーがそんな心配するようなことなんて何もねーから」
「そう、なら良いんだ」

安心したと言うナマエの笑顔にホルマジオはほんの少し居心地が悪くなる。殺しとなれば眉一つ動かさず実行してみせる彼女だが、普段は情の厚いイイ女なのだ。
ホルマジオはいつもの口癖を零す代わりに彼女の頭を撫でてやった。



 

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