進撃ブック
□Daylily
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「……………ソーマ…」
歪んだ顔は今にも大声で泣き出すんじゃないかと思うほど涙を誘っていた。
"人類の敵って言われなかったことに心底ほっとした"
一体誰がそんなことに心の底から安心するだろうか。
壁の中で平和ボケした面を浮かべた家畜どもがどうやってそんなことで心臓を痛めるだろうか。
それを、長寿を全うしあらゆる価値観を得た老人が知るのではなく、何故まだこの世に生を受けて十数年の子供が知っているのか。
「つくづく残酷な世界だ」
小さく震える体を柄にもなくそっと抱き寄せるとその体は思っていたより遥かに細く、少し力を入れれば折れてしまいそうに弱弱しい。
これが本当に人類最強を支える奴の体か、と疑うほどだ。
銀色の髪は時折きらめき、鈍い色を放っている。
その光を隠すように頭を撫でてやると震える手が俺の背中をかき抱いた。
顔こそ見えないが、きっとこいつは泣いている。涙こそ流していなくとも心はボロボロになり壊れる寸前といったところか。
「…………忘れさせてやる」
見上げる紫の瞳は濡れ、大きく揺らいでいた。
「お前に起きた悲劇、全部俺が食いつくしてやる」
生後直後の記憶はなく、幼くして育ての親を失い、人類に心臓を捧げ調査兵団に入るも"巨人の仲間"と虐げられる、そんな残酷の象徴とも言える少年―――
「文句ねぇな?」
『ん………ない』
一丁前に笑いやがって。