黒バスブック
□●○カラフルな先輩たちと赤司厨な後輩○●
2ページ/2ページ
いつもはバッシュのスキール音やボールを打つ音、指示を出す声などで賑やかな体育館だが、今日はまた別の意味で賑やかである。
『殺殺殺殺殺殺呪呪呪殺殺殺殺殺呪呪呪呪怨怨怨殺怨殺殺殺殺』
「ギャアアアアアアア」
「二人とも落ちつくのだよ!」
「黄瀬ちーん……黄瀬ちーん?死んでる〜?」
「………生きてるっスよ…紫原っち…」
青峰と環奈、緑間の追いかけっこ。
紫原はそこら辺に転がっている黄瀬をつい先ほどまでアメがくっついていた棒でつついている。
ちなみにこの5人以外、体育館には誰もいない。
とばっちりをくらっては大変だと外へ避難したのだ。
「くっ…なんてすばしっこい奴なのだよ!…こうしていてもきりがない!黒子、おい黒子!」
今度は黒子のミスディレクションを使って環奈を捕まえようと考えた緑間。
だが、彼の呼名に応える当人はいない。
「黒子?」
もしやまた影の薄さに存在に気付かず、見過ごしているのかもしれないと自分の身の回りからステージの上までぐるりと見渡す。
「………いないのだよ」
存在に気付かないのではない。
存在自体がどこかに消えていたのだ。
そこで緑間は考える。
黒子の性格上、この現状を放ってどこかに逃げるような奴ではないと。
やがて緑間はある結論に至った。
「あいつを呼びに行ったか…」
"あいつ"――
"あいつ"とは。
バァアーンッ!
「「「「!!?」」」」
『…?』
突如、轟音(?)とともに開いた体育館の扉。
色んな意味で薄暗くなっていた館内に眩しい太陽の光が差し込んだ。
「お待たせしました緑間くん!最終手段にして最強の手段を呼んで来ました!」
声高らかにそう言った黒子。
「おお!でかしたのだよ黒子!」
「フッ」
開け放った扉からさっと中に入った黒子の顔が一瞬ドヤッていたのは…
気のせいではない。
「お前は僕を何だと思っている」
黒子の後に続き体育館へ入ってきた者――
そう、彼こそが…!
『キャプテンンンンンンンンンンンンンン!!!』
「ぐふっ!?」
『キャプテンキャプテンキャプテンキャプテンキャプテン……キャプテン!!!!』
「く……苦しい……環奈…っ」
そう、今まさに環奈に愛の抱擁を受け顔を真っ青にして苦しんでいる彼こそが帝光バスケットボール部キャプテン、赤司征十郎だ。
「いい加減にするのだよ環奈っ!」
ベリィッ!とでも聞こえてきそうな程に赤司に張り付いていた環奈を引きはがす緑間。
「紫原、しっかり持っているのだよ!」
そしていつの間にか赤司を出迎えに傍に来ていた紫原に環奈をペイッとパス。
「はいはーい」
『キャプテーン!!!』
紫原に完全ホールドされた環奈は倒れ込んで荒い息をしている赤司に向かって手を伸ばし「キャプテンキャプテン」と延々と叫んでいる。
「た、助かったよ緑間…」
「いつも大変だな、赤司」
「お前もな」
「あぁ…」
ほぼ毎日のように起きる青峰と環奈の喧嘩を止める緑間(止めれたことはほとんどない)。
環奈からの愛を絶え間なく受け続ける赤司。
この部活での一番の苦労人はこの二人でまず間違いないだろう。
「ふむ……僕等にしては最終手段にして最強の手段ですが、赤司くんにしてはただ単に最悪の手段でしたね」
「なあ、黒子。これで何回目だと思っている?そう思っているなら僕を呼ぶな」
「違いますよ。僕はまだ部活に来ていない赤司くんを呼びに行っただけです」
「……お前ってやつは…」
上手く言い返した黒子にため息をつく赤司だった。
『キャプテン!本日もとても麗しいですねっ!環奈は幸せでありますっ!』
「キャーッ!」なんて奇声を上げながら未だ赤司に抱きつこうと紫原のホールドの中でもがいている環奈。
赤司は呆れたように少し笑って、ふと視界の隅に映るものを見た。
「緑間、黒子、あれは何だ?」
視線の先には重なるようにして倒れている青峰と黄瀬。
「そうですね……しいて言うなら屍、ですか」
「環奈が憤った結果なのだよ」
やれやれと頭を抱えて深くため息をつく緑間。
黒子も少し困ったように眉を垂れさせた。
「どうやって処理すればいいんでしょうか」
「え、そこ?」
黒子さんは今日も通常運転。
「…思ったんだが、いつも犠牲になっているのは黄瀬と青峰じゃないか?」
「そうですね」
「青峰はこの状況の原因だからわからなくもないが…」
「黄瀬は何だ?なぜいつも転がっている」
「黄瀬くんだからでしょう」
「あぁ…!」
「赤司、納得するな」
心底納得したように手をうった赤司を緑間がツッこんだということで一件落着。
「どこがなのだよ?!」
ナレーションのボケにもツッこむ緑間は面倒見が良いお母さん。
「あー!」
「今度は何なのだよ!?」
ハードな部活と喧嘩の仲裁、それにツッコミ担当と忙しさに息切れしながら振り返ったそこには呆然と立ち尽くしている紫原。
紫原。
「紫原だけ…だと…?」
そう、彼ががっしりホールドしていたはずの環奈の姿がそこにはなかったのだ。
緑間は目をひんむいて赤司を振り返った。
『キャプテン!!本日の練習の報告があるんですがー!!』
「報告なら止まってから言え!なぜ僕を追いかける!!」
『キャプテンを愛しているからですー!!』
「わかった!わかったから追いかけてくるな!!」
『だってキャプテンが逃げるんですもん!!キャプテェエーン!!』
「お願いやめて!!!」
「「「……………」」」
ハートを散らしながら無駄に速い足で追いかける環奈から必死に逃げ続けるキャラが不安定の赤司。
そしてそれを諦めムードを漂わせながら目で追う緑間、黒子、紫原の3人。
その後方には死屍累々。
「……練習を再開するのだよ」
「あ、じゃあ皆を呼んできますね」
「お菓子なくなっちゃったから足してくるねー」
悲鳴と奇声が飛び交う中3人は冷静に行動しだした。
「………ねぇ、青峰っち」
「……なんだよ」
「もう環奈っちに絡まないでくれないっスか?オレが辛いんスわ」
「………そだな」
今日も帝光バスケットボール部は平和である。