進撃ブック
□Valerianaceae
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「つまりソーマは囮ってわけか」
朝一番、ソーマが団長室に来てリヴァイを後衛にまわしてくれないかと請うてきたので、二人の仲も良くなった様子だし(というか好転しすぎ)他に拒否する理由も思い浮かばなかったので許可を出した。
そして現在、馬を並走させながら作戦内容をリヴァイに伝えているのだが、どうも納得がいかないらしい。
「囮といっても私とリヴァイがいるんだ。危険はないよ」
「いや、そのことを言ってるんじゃねぇ。寧ろエルヴィンの力を借りなくてもソーマは俺が守る」
『やだリヴァイかっこい!』
頬を染めて胸を打たれた風のソーマは熱い眼差しでリヴァイを見つめ、リヴァイもまたソーマを見つめ、さらには身を乗り出してキスをする始末だ。顔を真っ赤にして慌てふためくソーマは落馬しそうで危なっかしい。
……全く、とんだバカップルになってしまったようだ。
しかしまたこの間の状態に戻るよりは良いので何も言わずバレないようにため息を吐く。
「それじゃあ、どういう意味なんだ………って、二人乗りはやめなさい。馬の体力が持たないぞ」
いつの間にかリヴァイがソーマをお姫様抱っこする形で二人乗りをしている我が部下に頭痛がしてくる。
しかしリヴァイは軽く舌を打っただけでソーマを下ろそうとしなかった。
「俺のソーマを勝手に危険な任務へ就かせるのはやめてくれ」
「え…?」
真っ直ぐに私を見つめる眼差しに射ぬかれて暫く声が出なくなった。
『リヴァイ……どうしたの?』
私の代わりにという風にソーマが吃驚したようにリヴァイを仰ぎ見た。
私はこぼしそうになった手綱を握り直す。
初めてだったのだ。
リヴァイが私にこうもハッキリと文句をつけたのは。
「もしどうしても必要なものなら必ず俺をつけてくれ」
いや、文句というには些か弱すぎるものかもしれない。
これは文句ではなく、小さな子供が欲しい玩具を親にねだるようなそれだった。
そういえば、この作戦を発表した時リヴァイはどこか不満気だったか。
しかしあの時彼は、我慢をしたのだ。
「こいつの心臓は俺のだ」
我慢をする必要はなくなった。
凛とした声で言い放つリヴァイはどこか清々しく、今までの鬱憤を晴らしたかのように晴れ晴れとしていた。
『リヴァイ、流石にそれは無理なんじゃ……作戦は団長が決めることだし…』
ソーマもリヴァイが私に物申すことは滅多にないことを知っているため、苦笑を浮かべている。
「………………」
この少年が。
彼が、あの人類最強でぶっきらぼうで目つきの悪いリヴァイをここまで変えてしまったのか。
それはまた、愉快な話というものだ。
「いいだろう」
『えっ?』
「リヴァイの意見を尊重するよ」
「……ああ」
『え?団長、本気で言ってるの?皆のまとめ役いなくなっちゃうけど?』
「それならハンジに………ダメか」
「ダメだろ」
『ダメだね』
ハンジは奇行種を見つけた瞬間、隊列なんて忘れて飛んで行ってしまうことがしばしばある。とても指揮を任せられるような人物ではない。
……とにかく、ここに本人がいなくてよかった。リヴァイの代わりに前衛に行った彼女は今頃くしゃみをしているだろう。
「まあ、ハンジがいなくても2人が私情と仕事を分けてくれさえすれば問題はないんだが」
『あー………わかったよ』
「…………」
「リヴァイ、返事は?」
「チッ」
(………大丈夫かこの遠征)
割と本気でそう思った。
すると、その心配をあざ笑うかのように空高く煙弾が上がったのだ。