黒バスブック

□●○日常茶飯事○●
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『どっせ〜〜〜い!』


力士を想像させる掛け声とともに環奈は机につっぷした。

本日の授業が全て終わり、周りの生徒たちは蜘蛛の子を散らすように教室を出ていく。

環奈は左頬を机で潰したままその光景をぼうっと見ていた。

すると、バタバタと慌ただしい足音が聞こえてくる。

それは次第に近づいてきて、バンッ!と激しい音がすると同時に机がグラリと揺れた。

もちろん机に突っ伏していた環奈にもその衝撃は伝わり、潰していた頬の皮膚があらぬ方向へとねじ曲がり悲鳴を上げる。


『いびゃっ!!?』


誰だこのぶんどらカスめ!!

今の怒りを言葉にしたらこうなる。

しかし、その言葉は顔を上げた瞬間飲み込んだ。

衝撃を与えた人物を見るなり脱力して怒りの言葉の代わりに溜め息をつく。


『なんだ、マナか……罵声浴びせる所だったよ』


"マナ"と呼ばれた長身の女子。

緑間と同じくらいの背はあるだろう。

女子にしてはかなり高い身長だ。

明るい茶色のショートヘアをカールさせて緩く化粧をしているマナはうるりと目に涙をためて環奈に飛びかかった。

……いや、抱きついた。


「うわぁああああん!!環奈ーーーーー!!!!」

『ボエッッ!!?』


飢えたハイエナが虫の息のシカに飛びかかるようにそれは見えた。

現に環奈は顔を青くして今にも息絶えそうだ。

いつも赤司に同じことをしているツケが回ってきたのだ、赤司はこんなにも苦しい思いをしていたのだ、よし今度からやめよう…


『こ……これ、が、キャプテンだ、った……ら…よかっ……のに…!!』


なんて反省の色さえ見せないのが緋色環奈である。


『ゲホッゴッホ……ぐぉっ』


ようやくがたいのいい長身女子が離れて止まりかけていた呼吸を整えつつ押し潰されたあらゆる臓器をオッサンになって元に戻す。

暫く吐き気を催したり咳き込んだ後、環奈は涙目でさっきからずっと謝っているマナに視線をよこした。


『……さて、私が死にそうになったわけを話してもらおうか』

「ごっごめんってー!許して!!」

『なんで謝るの?私べつに怒ってないし』

「えっ、ほんと?」

『ほんと』

「…………目が笑ってないんだなこれがァァーーーーー!!!!」


いいから話しなよ、と一見純真無垢な笑みを浮かべる。

しかし、彼女をよく知っている奴らから見ればそれは悪魔の微笑み以外の何でもない。

マナは小さく返事をするとポツポツと話し始めた。














『へーまたフラれたんだ』


毛先を眼前に持ってきて枝毛探しなう。


「ちょっとォ!!ちゃんと聞いてんの?!アタシ今ブロークンハートなうなんだけど!!!」

『聞いてるって。一週間付き合ってフラれたんでしょ?』

「そ、そうよっ……ていうか慰めの言葉ちょうだい!!」

『…………』

「…スゲー嫌そうな顔すんじゃねェ!!!―――…あ」


可愛いアニメ声から一転、声変わりが完了した完全に男子の声が飛び出す。

「やっ、やだァ〜〜!環奈が慰めてくれないから悲しくって変な声でちゃった〜〜〜!!」

『……………』

「…………ごめんって」


一色マナ

長身かつがたいのいい女子の本性は、帰宅部所属の歴とした男子高校生だった。
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