黒バスブック
□●○先輩と私○●
1ページ/3ページ
キーンコーン――――
放課後、部活終了のチャイムが鳴り、忙しなく動き回っていたバスケ部員たちは一気に脱力した。
それをきっかけに、緋色環奈は手を鳴らして声を張り上げる。
パンッパンッ
『皆さんお疲れ様です。早く着替えて下校時間に遅れないように校門を出てくださいね』
四方八方から湧く部員の思い思いの返事を聞くと環奈は踵を返して体育館を後にした。
「環奈っちー!」
『?』
体育館を後にして暫く歩いていると、後ろから力の有り余った声と複数の足音が近づいてきた。
「きー先輩はメニュー3倍にしても良さそうだな」と、胸の内でそう呟いて振り返る。
『どうかされましたか?』
手を振りながら走ってくる黄瀬を始め、青峰、緑間、紫原、黒子が自分の周りに集まれば、環奈は顔を上げてぐるりと5人の顔を見渡した。
それを見て環奈の頭を撫でる紫原。
その隣で背後にブンブンと激しく振られる尻尾が見える黄瀬がワン!とでも言う勢いで話し始めた。
「帰りに皆でゲーセン寄るんスけど、環奈っちも一緒にどうっスか?」
『ゲーセンですか?』
まったく、こいつは定期テストが近いというのに何を言っているんだと先輩に対しての台詞ではないことは流石に言えないので、思いきり眉間に皺を寄せることでその旨を伝える。
しかし黄瀬は、目が見えないのかとんでもない顔をしている環奈に構わず続けた。
「ほら、最近環奈っち忙しそうだからたまには息抜きでもどうかなって」
『……………』
不意の黄瀬の言葉に面食らう。
確かに黄瀬の言うとおり、監督との作戦練り、他校の情報収集などで忙しいキャプテンの赤司とマネージャーの桃井はここ最近部活に出ておらず、部のことはほぼ環奈に任せっきりとなっていた。
「根の詰め過ぎはよくないのだよ」
「お前、真面目すぎんだよ。ぜってー友達いねーだろ」
「環奈ちんだけにおススメのお菓子教えたげるー」
ニコニコとウザいほどキレイな笑顔を近付けてくる黄瀬を押しのけつつ、環奈の視線がそっぽを向いて眼鏡のフレームを押し上げる緑間、食べかけのまいう棒を差し出してくる紫原へと流れ、最後に黒子を見る。
「おい、俺は無視か」
「この頃、一緒に帰ることもできてませんし…どうですか?」
あろうことか、このメンバーの中で一番目立つであろう青峰がミスディレクションを発動しているらしい。
黒子は自分を見上げる後輩に優しく微笑んだ。
『……………余計なお世話です』
片頬を膨らませて俯いた環奈。
その朱色の髪の隙間から覗く頬は淡く染まっている。
そんな可愛らしい後輩の様子を見て、朱色の頭の上で虹色の先輩たちは顔を合わせて笑った。
「そんじゃ早速行くっスよ!」
『わっ!?』
環奈の手をとり走りだした黄瀬。
しかし、その手はするりと抜け、環奈は紫原の肩に乗せられた。
「あー!ずるいっスよ紫原っち!」
「だってこっちの方が早いじゃん」
「というかお前ら、まだ更衣が済んでいないのだよ」
「あ、ほんとだー」
「急がないとヤバイかもですね」
『完全下校まであと5分ですよ』
「マジか!おい、お前ら急げ!」
青峰の掛け声をきっかけに、皆走りだす。
カラフルでしかもデカイ奴らが集団で走っているのは傍からみるととても奇妙な光景である。
環奈はその集団の中でずば抜けて高い位置で下を見た。
『もちろんキャプテンともも先輩にも伝えてあるんですよね?』
「当然なのだよ」
「でも2人ともちょっと遅くなるってー」
『そうですか…』
途端に紫原の髪をツインテールのようにわし掴んでいる環奈の表情が落ち込む。
「大丈夫ですよ、すぐに来ます」
「ほんっとお前、赤司とさつき好きだよな」
『何言ってんですか、あお先輩以外はみんな大好きです』
「俺以外!?」
「まあ、いつも喧嘩しているしな」
その喧嘩を止めるべく奔走している緑間は自分の苦労を思い出す。
「やった!オレのこと大好きなんスね環奈っちぃ!」
まるで犬が嬉しさのあまり跳ねあがったように黄瀬がキラキラとした笑顔で紫原に肩車をしてもらっている環奈に近づく。
環奈はそんな黄瀬を一瞥した。
『番犬として』
「番犬として?!」
『きー先輩と外歩いてると変な人が寄ってこないんですよ』
「なるほど…すでに黄瀬くんが変な人ですから周りの変な人が寄る必要がなくなったということですね」
「黒子っちそれどういう意味!?」
「ていうか変な人に集られてる環奈ちんにビックリだし」
「心配なのだよ…」
引きつつも不安になる緑ママだった。
更衣室へ到着し、男子たちは急いで更衣を済ませ、着替える必要のない環奈は外で夕日の色に染まった空を見上げていた。
「夕日…キレイ…」
夕日の光を受けてキラキラと輝く環奈の瞳はとろんと溶けてしまいそうに細められる。
そしてマフラーに口を埋めて笑った。
『私とキャプテンみたい』
フフッ!と堪え切れずに笑みをこぼす環奈。
その表情はやや変態じみていた。
空は赤と朱色に染まっている。
その色を赤司と自分に例えたらしい。
そう考えついてしまった環奈は止まらない。
『フフフッ!あぁ、なんて素敵なことなんでしょう!今、世界中の空で私とキャプテンが溶け合っているんですね!!キャアーッ!!他人にそれを見られていると思うと若干、不快ですが。でもでもついに私とキャプテンが………キャアアアーーッッ!!!!』
ゴッ!
『ぎゃわっ!?』
「何してんだよ気持ち悪ィな」
更衣を終えた青峰が環奈の脳天にタンコブを作って環奈の思考はシャットアウトされた。
その頃、職員室では。
「っ!?」
ブルリと赤司が肩を震わせていた。
「どうした、大丈夫か?」
「あ、はい。すみません」
「風邪か?」
「いえ、違うと思います(…なんだこの寒気は…)」
窓の外の夕焼けを見て再び赤司は身震いをした。