黒バスブック

□●○カラフルな先輩たちと赤司厨な後輩○●
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 帝光中学校 第一体育館

 中では、バスケットボール部の部員たちが冬だというのに半袖で熱気にまみれ、激しく動き回っていた。

高身長の部員たちの身体から汗が噴き出している。

そんな中、身長154cmの緋色環奈は、一人の部員をその吊り上げた大きな瞳で追っていた。

『!』

次の瞬間、環奈にロックオンされている部員が大きな音とともにダンクシュートを決めた。

そこで環奈の瞳はさらに吊り上がる。

『ちょっと、きー先輩!いまのシュートなんですか!?』

「えっ?何かいけなかったっスか?」

きー先輩――もとい、黄瀬涼太は手の甲で鼻の汗をぬぐいながらコートの外で腰に手をあて立っている環奈の傍に寄る。

『何って』

下から黄瀬をねめつける。

『つい先刻あなたがしたダンクです!』

「あぁ〜…」

視線をそらさないままビシッとリングを指さす環奈に頭をかきながら黄瀬は言った。

「もしかして、かっこよくなかった?」

『は…?』

「?」

わずかな沈黙が流れる。

暫くして、環奈は大きくため息をついた。

『あなたはバカですか?』

「なっ?!環奈っちヒドイっス!!」

『これっぽっちもひどくなんかありません!』

ビシイッ!

「っ!」

今度はリングではなく己に指された指に黄瀬はわずかにのけ反った。

『きー先輩はなんでこうもあんな簡単にハジけるダンクしかしないんですか!あんなの私でもハジけますよ!』

「え、環奈っちが?」

『?』

「でも環奈っち、前リングに手届くかなってジャンプして届かなかっ…………なんでもないっスよ☆」

『…………』

言いかけた言葉を途中でやめた黄瀬のウインクから発射された星。

環奈はそれをすかさずはたき落した。

『うぜぇ』

「ヒドイ!!」

うわーんと泣きだした大きな先輩に目の下をピクピクと痙攣させる小さな後輩。

暫くして、いつまでたっても泣きやむ様子のない黄瀬に環奈は呆れたように説教を再開した。

『いい加減わかってくださいよ。力押しがどの対戦相手にも通用するわけじゃないんですから。というか、きー先輩の力はそれほど強くないので、まず力押しはやめてください』

「そんなぁ……環奈っち、そこまでハッキリ言わなくてもいいじゃないっスか〜!オレだってダンクやりたいんスよ〜!」

目に涙をためて子犬のごとく環奈にすり寄ろうとする黄瀬。

だがそれは、環奈の腹パンによって制止された。

「ぐふぅ…っ!!!」

『気安く抱きつこうとしないでください』

蹲(ウズクマ)った黄瀬に冷徹な瞳で蔑むというトドメとさした環奈は、気持ちを切り替えて再び部員の観察を―――

しようとした。

『?』

何かがあたった。

「よー、環奈」

「…………あお先輩」

いや、あたったのではない。

それは確かに掴んでいた。

「お前、相変わらず黄瀬には目厳しいよな」

『目厳しいって何だよ。手厳しいのことか』

何を掴んでいたか?

「あ?そーなのか?……どっちでもいんだよ。似たようなもんだろ」

それは―――

   似てんだよドチクショウがああああああああ!!!!

ギャアアアアアアアアアアア!!!!

「あおみねーーーーーーっち!!!」

その小さな体のどこからそんな力が出てくるのか…

環奈はついさっきまで自分の胸を掴んでいた(揉んでいた)青峰の手をもぎ取り、背負い投げを発動したのだ。

周りでは一旦練習が中断され、部員たちの「また始まったよ…」という呆れた声が聞こえてくる。

「青峰っち!大丈夫っスか!?」

壁に叩きつけられて床にのびてしまった青峰を環奈にくらった腹パンから回復したらしい黄瀬が揺さぶっている。

「うぐっ…」

やがて、気がついた青峰は苦痛に悶えながらうめき声とともに言葉を発した。

「セ………」

「セ?!セがどうしたんすか!!」

「セ……セ……」

「青峰っちィ!!!」

「セミィ……」

「………セミィ?!セミィってなんスか!それが最後の言葉なんスか!?それが、青峰っちを殺った奴を見つけ出すヒントなんスねヴォアッ」

『退けや』

環奈の華麗なる跳び蹴りが黄瀬の側頭部にクリーンヒット。

吹っ飛んだ黄瀬はそのまま動かなくなった。

「ぐ………環奈…!」

『…………』

冷やかに見下ろす環奈。

見降ろされている当人、青峰は先ほどの攻撃を受けて動けないのか、顔を苦痛に歪めて環奈を見つめるばかり。

『――――す――――して――――る』

「………?」

ブツブツとわずかにその小さな口を動かし、呟き始めた環奈。

気のせいか、その朱色の髪が禍々しいオーラによって揺れているように見える。

体育館内はあっという間に緊張感に包まれ、部員たちは青峰の行く末を見守っていた。

見守られている当人は引きつった顔で喉を震わした。

「お……おい、環奈。そんな怒るなよ。おっぱい揉んだくらいでよ…」

(((((怒るだろ)))))

思わず部員たちの心の声がハモる。

「減るもんじゃねーし……そ、それに!お前おっぱいねーんだから揉んで大きくした方がいいじゃん!!」

(((((言ったーーーーー!!!)))))

『…………』

青峰がない脳みそをフル活用してやっとのこと導き出したフォローの言葉。

しかしそれは、この場を最も震撼させ、また環奈の怒りを最高潮にさせるには十分な言葉でもあった。

「………………環奈……さん…?」

いくらアホ峰と言えど、場の空気を読みとることはできるらしい。

音もたてず体を起こして正座した。

「あの――」

『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺してやる殺してやる殺してやる殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺してやる殺してやる殺してやる殺す殺す殺す殺す殺す』

「「「「「「ヒィイッ!!!」」」」」」

まるで呪文のように次々と環奈の口から発せられる"殺"の文字。

「環奈!正気を取り戻すのだよ!!」

おっとここで緑ママの登場だー!

「くっ…!俺一人では押さえきれん!む、紫原っ!手を貸すのだよ!!」

身長154cmという部内では超小柄な少女を押さえることができないらしい緑間は環奈を羽交い締めにしたまま叫んだ。

「えーみどちん一人でやってよ。環奈ちん捕まえたらお菓子食べれないじゃん」

緑間に償還されたし紫原は気だるげにポテチを頬張っている。

「そんなことを言っている場合か!!というか体育館内で菓子を食べるな!四の五の言わずに手を貸せ!」

しっかり注意する緑ママだった。

「えーいや〜」

「早くしろ!そろそろ限界なのだよ!」

「いやだって言ってんじゃん」

「くっ…!」

やりとりを続けている間にも環奈は歩を進め、腰を抜かして後ずさっている青峰に近づいていく。

そして、緑間は今月のお小遣いにさよならを告げた。

「ええい!!帰りに菓子を奢ってやる!だから――」

「ポテチとまいう棒新味とチョコとアイスね」

次の瞬間、緑間の負担は急減した。

「おぉっ?!」

『ウガァーーーッ!!!』

「ほらほら落ちついて環奈ちん〜」

環奈の脇を持って高く、高く持ち上げた紫原。

だが環奈の憤りはおさまらない。

「…………ヘッ!とんだじゃじゃ馬娘だ。おっぱい小せぇ分、気も短ぇんだよなッブル!!?」

「青峰ーーーーー!!!?」

「あらら〜」

油断をして立ちあがったのが運のつき。

青峰の顔面に環奈の強烈な蹴りがヒットした。
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