黒バスブック
□●○先輩と私○●
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『あああっ!!クソッ!!!』
「もっと右です!」
「いや左だろ!」
「環奈ちん、100円」
「環奈っち!もっかいガンバっスよ!」
テンションが最高潮に突入し、環奈の女子らしからぬ言動も出てきたところで、彼等の熱い試合はようやく終止符を打つことになる。
その重役を果たすのは彼以外には考えられないだろう。
その"彼"とは――――
「環奈」
『えっ・・・・』
ボタンを叩き割る勢いで押している手にそっと添えられる大きな手。
「もうやめろ。試合は終了だ」
私を見つめる大きな猫目。
自分より背の低い私の顔を覗き込む時にサラリと垂れる柔らかそうな赤い髪。
「帰るぞ」
僅かに目を細め、美しい微笑みを浮かべる彼。
そう、彼とは、
『キャ・・・・・』
帝光中学校バスケットボール部主将、赤司征十郎だった。
『キャプテーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!』
「ゴフッ!!!」
ハァハァキャプテンクンカクンカスーハースーハー
『キャプテンキャプテンッ!!お疲れ様ですっ!!環奈はキャプテンをずっと待ってました!!あふぁあ会いたかったですキャプテンンッ!!』
「あ・・・・ありが、とう環奈・・・・・うぐっ・・・・・・・は、離」
『イヤアアアアアン!!キャプテンからお礼の言葉をいただけるなんて恐縮です!!』
「・・・・すさまじいのだよ」
「なんかいつにも増して依存してね?」
環奈に押し倒されたまま思い切り抱きしめられ、体中の骨が粉砕しそうになっている赤司を哀れな目で見ながら言う緑間と青峰に激しく頷くその他の面子。
その中には赤司と一緒に来たらしい桃井の姿もあった。
「最近環奈、赤司くんに会えてなかったからねぇ・・・」
アハハと苦笑を浮かべる。
「え?でも休憩時間になる度に会いに来てるって聞きましたけど?」
「ああ、部活中の話だよ」
「部活中〜?んなのたった3時間くらいじゃねぇか」
「それがダメなの」
「どういうことー?」
首を傾げる紫原に桃井は小さく笑って人差し指をピンと立てた。
「"部活中の赤司くん"が足りないの」
「「「「「"部活中の赤司くん"?」」」」」
「そ!バスケをしている赤司くんと、指示を出している赤司くん」
「「「「「あー・・・・ハイハイ」」」」」
そういえば、部活中の環奈は暇ができればいつも赤司を見て頬を染めていたものだ。
それは休憩時間だったり、アドバイスを出すために選手を呼び、選手との会話が始まるまでの間だったり、会話中に選手が言葉をど忘れして思い出している時だったり、とにかく0.00001秒でも暇ができれば赤司を観察しているのだ。
「・・・・・・赤ちん、大変そう」
しんみりと先輩たちは頷いた。
『キャプテン!!私キャプテンに似たぬいぐるみを発見したんです!!とっても可愛いんですよ!フフッ!』
赤司を色んな角度から抱きしめている環奈。
抱きしめられている当人は白目をむいていた。
それを見た緑間は、これはいかんと慌てて止めに入る。
「おい環奈やめるのだよ!このままでは赤司が死んでしまう!」
その言葉でようやく我に返った環奈は赤司から飛び降り、今度は「死なないでくださいキャプテン!!」と激しく揺すり始めた。
「なんていうか・・・・赤司っち、よくやるよね」
「な」
「・・・・どうしてあそこまでされているのに環奈さんが飛びつくのを止めないんでしょうか?」
その謎には全員が首を傾げた。
骨を折るなり死にそうになったり、猛スピードで突進され突撃されるなり死にそうになり、毎度死にそうになる赤司は全ての原因である環奈を殺人未遂で警察につき出すどころか突き放しもしない。
強制退部ということだってできるのに。
だが、赤司はそれをしない。
なぜなら――――
「俺が環奈を受け止めなかったら、お前達が受け止めなくちゃならなくなるだろう?」
「「「「「「・・・・・・・キャプテンンンンンンンンンン!!!!!!!!!」」」」」」
かっこいい!!!
抱いて!!!
もう一生ついていきます!!
「ちょっ・・・!?も、乗ってくるな!!流石にむ・・・・・・り」
部員たちは環奈のことを2tトラックか何かと思っている。
赤司はとんでもない治癒力を持っている。
緑間の今日の日記にはそう書き込まれた。
今日も帝光中バスケ部は賑やかです。