まめをSS

□悲しげな笑顔
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もう、美術室には来ないで

そう言った咲は、悲しそうに笑ってみせた。
今まで俺の恋を1番近くで応援してくれた人に、遠まわしな別れ≠告げられ、ほんの少し沈黙が生まれる。

「なんでだよ!美術室に来るなってことは、咲から離れるってことだろ!?」
この場所は俺たちの出会った思い出の場所。放課後になるといつもここでたわいもない話をしていた。
恋人ができたから、咲と居られる時間は今より少なくなるのは事実。けれど毎日じゃなくても、たまにきてこうして話をするくらいならいいじゃないか!!

咲は大切な友達が。多分、この世で1番と言っても過言ではないくらいに。
もしも咲が俺に気を使ってくれているなら、それは間違いだと伝えなければ。

「咲、あのな、」
「私ね、風太が好きだったよ。」

予想していなかった言葉を言われて、再び沈黙が生まれる。
咲が、俺のことを、好き?
だって咲は。俺の恋を1番応援してくれて、告白の後押しもしてくれて……。

「私ね、風太に彼女ができても傍に入れたらいいなって思ってた。」
何も言わない俺を無視して咲は話を進める。
「でも、やっぱり無理みたい…。だから、」


ごめんね。


ただ、聞いていることしかできなかった。頭を整理するのに必死で、目の前にいる悲しそうな笑顔の咲に何も言えなかった。
そして、ふと、今まで自分が咲にしてきたことが蘇ってきて、激しい自己嫌悪に襲われる。

「おれ……、おれ……、今まですごく酷いこと…」
「どうしたの?風太は悪くないよ。私が勝手に好きでいたんだから。」
「ごめん咲、おれ」
「謝らないで。…風太が謝ったら。私の恋が悲しい思いでになっちゃうよ。」
「でも…」
「もう、大丈夫だから…。大丈夫だから…。」


大丈夫だから。≠ニいう言葉は、まるで自分自身に言い聞かせているように聞こえた。
ふと咲に手を伸ばそうとすると、咲はくるっと向きを変えて離れた。そして再び振り向き、悲しそうな顔で告げた。


「さようなら、ありがとう。」


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