私は男のようです。帝光編

□食べ物の恨みは恐ろしい
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いつも通りゆるーい練習は終わって(そろそろちゃんとした練習しないとやばい)、今日は寄り道して帰る

向かう先は高尾家

練習前にメールしたからそろそろ返事がきているだろうとメールボックスを開く



「……あれ?」



どういうことだ
未送信のフォルダに入っているメール

気づかなかった
俺の送ったと思っていたメールは電波障害か何かで送れなかったようで、送られないまま眠っていたようだ

今から送ったところで和成は気づくのか


電話をしようにも、家に着いてしまった
どうしようか、出直すのもありだか……



「あれ?紅葉さん?」



いい案が見つからず困っていると、高尾家の扉が勝手に開いた
そこから出てきたのは和成と同じつり目の女の子、妹ちゃんだ



「いきなりごめんね
和成って帰ってきてる?」

「んー、もうすぐ帰ってくるだろうし、上がってってよ!」



長居するつもりはなかったが、お言葉に甘えよう
早く早くと急かす妹ちゃんは流石和成の妹
コミュ力が高くて無邪気
楓もこれぐらい女の子らしかったらなー












腹減ったー、と隣を歩くチームメイトが言う
その言葉につられて今日の夕飯はなんだろうと思考を巡らし気づく
昨日から親は旅行行ってるんだった
しかも今日の風呂当番が妹で、夕飯は俺だ

うわー、こんなときに紅葉ちゃんがいたらなー

そういえば紅葉ちゃんは料理が得意だったな
久しぶりに手料理が食べたい
でも、学校は違うし、連絡はとるけど、会っていない
来週ぐらいに遊びに誘おうかな



「んじゃまたなー」

「おー」



チームメイトに別れをつげ、空腹を我慢して足早に家を目指す
途中コンビニに目が眩むが残念
今の俺の財布は空っぽ



「ただいまー」

「お兄ちゃんおかえり……」



やっとの思いで家に着き、扉を開ければいつもよりテンションが低い妹のお出迎え
毎回元気な声で玄関まで来てくれるのに、なぜか暗い顔をしてこちらにきた

なんでそんなにテンション低いの?と聞く前に妹の口元に目がいく



「なんか食べカスついてるけど」

「え、うそ
ちょっと紅葉さん!言ってよ!」



バタバタとリビングへ戻ってくる妹

あれ?今紅葉さんって言った?紅葉ちゃん?え?
……え?!

靴を脱ぎ捨ててリビングまでダッシュする



「お、お邪魔してまーす」

「な、なんで紅葉ちゃんがうちにいるの?!」














和成が帰ってきた
連絡が届いていなかったから凄く驚いている

さあ、どうしよう

俺の目的はただ和成にマフィンを渡すだけだった
だけど、たまたま妹ちゃんと遭遇して、家に上がらせてもらった
なんで来たのかと聞かれて素直に答えた
そしたら、まあ、あれだ
妹ちゃんの分は考えてなかったから、さ
欲しいって言われて、ね?
半分だけなら食べていいよって言う前に妹ちゃんが食べたんだよね



「いや、調理実習で作ったお菓子をお裾分けしようと思ったんだけど、」

「え!マジで?!ちょーだい!!」



こんなに反応されるとは思わなかった
どうしよう

チラッと妹ちゃんを見る
食べカスまだついてるよ



「ご、ごっめーん!お兄ちゃんの分私が食べちゃった!」



あはは、と乾いた声が部屋を凍らせる



「食べた、の?」



プルプルと震える和成の肩
怒っているのか
下を向いていて表情が分からない



「か、かずなり?」

「俺も食べたかったーー!」



バッと顔を上げた和成は涙目で、妹ちゃんの肩を揺すりながら、はけー!!なんて言ってる
吐いたところで食べれないよ汚いよ

俺も妹ちゃんも謝るけど食べたいとしか言わない和成
これは、最終手段だ



「食べたい、お腹すいた……」

「和成、ごめんな?
父さんと母さんの分は残しておきたいからさ、半分こしよ?」

「……する」



よかった
妹ちゃんと一緒に胸を撫で下ろす



「けど、今日は親二人とも帰って来ないから紅葉ちゃんがご飯作って!」



マフィン一個分の恨みにしては大きくないか?




 

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