私は男のようです。相棒編
□貴女に涙は似合わない
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昔のことを思い出す
まだ私が私ではなくて俺だったときの最後の記憶
どれだけ昔の家族や友達の顔が日に日に思い出せなくなっても、あのときの事だけは鮮明に覚えている
忘れない、決して忘れることのない光景
大切な相棒を無くしたときの絶望感
何にも出来ない焦燥感
思い出すだけで鈍器で殴られたように頭が痛くなる
私――俺は自分のことがよく分からない
あの時、違和感を感じた俺
初めてのことではなくて、たまに違和感を感じることがあった
その違和感の対象となる人は必ず何かある
不幸なことだったり幸福なことだったり
何故俺にこんな力がある?
この無意識に違和感を感じる能力は大嫌いだ
大切なやつを失うきっかけを作ったこの能力なんていらない
だけどここに来て俺は解放された
何も感じなくてやっと本当に普通の人と一緒になれたと思った
なのに、
「まさか、俺ここでも……」
「どーいうこと?」
今の自分は女だと言うことも忘れ、昔の自分が蘇る
たまたまマネージャーの仕事をしていたときにすれ違った高尾和成という男
そいつは第二の楓の相棒
初めは気に食わなかったけど前回の試合で見せたプレーでちょっと認めていたあいつ
そいつを見かけたとき何故か一瞬だけ俺の意識がそいつに集中して
でも、その事実を認めたくなくて気づかないフリをした
「高尾のやつ、多分上級生のやつと一緒にいて、なんか違和感感じて……まさか、この世界でも感じると思ってなかったから……」
「なっ、場所は?!どこに向かってた!!」
両肩を捕まれて怖くなった
楓の焦った目が俺を責めているようで
聞かれたことにはか細い声でしか答えられなくて
指先も震えていて
また、楓より先に泣いてしまいそうになった
「ごめっ、俺……楓っ」
泣いちゃダメだって分かってるのに
泣きたいのは楓だって分かってるのに
溢れ出てくる涙は収まらない
楓に縋ってしまう
「紅葉、しっかりしてっ…
今のアンタは――お前は楓だろ」
「う、んっ…」
そう、だ
俺は――私は楓だ
情けない
これからは楓――紅葉を私が守ると決めたのに、いつになっても守れない
守られてしまっている
今度は情けない自分に対して涙が出てくる
もう、やだ
「幸男!俺が帰って来るまで楓のこと見といてくれ!」
そう言って去っていった紅葉の背中を見ることすら出来ず、私の視界はぐにゃりと歪んだ
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