私は男のようです。相棒編

□やるなら今しかねぇ、だろ?
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「次の試合のメンバーを発表する」



とうとうこの日がやってきました

と、言っても俺より年上のヤツなんていっぱいいるし、選ばれはしないだろう
別に次もぎ取ってやればいいし
幸男とか幸男とか幸男とかから←

間近で試合が見れるんだったら今はまだ出れなくても



「補欠で橙堂と高尾と――」



出れなくても……って、え?



「えぇ!?」

「橙堂!お前静かに聞け!」

「はいぃ!!」



監督は皆を苗字で呼ぶ
双子の俺らも苗字
だから俺はもちろん、楓も条件反射で大袈裟なほどにびくついた
監督怖いし

そしたらクスクスと周りで笑いを堪え切れてない声がする
それにまた監督は怒鳴ってシーンとした
監督の隣に立っていた楓は俺を呆れた目で見てきた
その目はお願いだから怒られるなと言っていた

監督は最初にあったときとずいぶん違う
優しそうだと思ったらすんごいスパルタ
気づいたときは騙されたとしか思えなかった
でもこの人ならついていっても苦ではない
冗談通じる人だし、なによりやりやすい

何はともあれ初試合だ



「紅葉ちゃん、頑張ろ」

「おう」











「パス回さなくてどうするんだ!!」



第2クォーター後半
俺達のタイムアウト

早くも和成が交代し、接戦だった試合が二ケタの差をつけた
リードしているのは相手チーム
上手くパスが回らなくて、ほとんど和成のところでスティール
いや、和成以外と言ったほうが正しいのかもしれない

でもそれに本人すら気づいていない

監督はチーム全体に怒鳴ったんだろうが、周りの空気は和成を責め、和成自身も自分を責めているようだった
見ていられない



「仕方ない
 ちょっと早いが橙堂、笠松と交代」

「はい」

「な、俺まだ行けます!他のやつらを!」

「ダメだ、限界超えてんだろ
 後半にお前は温存だ」

「っ!」



初めて見た
幸男のこんな悔しそうな顔

練習のときも俺見て悔しそうな顔してたけど全くの別物だ
もっとしたいけど、身体がいうこときかなくてそんな自分に嫌気がさしてる

幸男の分も頑張ろう



「監督、高尾はかえないんですか?」

「……コイツはいい」

「なんでですか!殆どコイツの失点じゃ!」

「うるせぇ!ボールを取りに行こうとしないヤツが他人のせいにすんな!」



驚いた
監督はスパルタだけど本気でキレたことはなかった
皆も見たことがなかったんだろう
誰もが驚いて何も言えなくてシーンと静まり返った

そこに凛とした冷静な声が一つ



「監督、そろそろ時間が」

「あぁ、」



楓の言葉に怒りを引っ込めこれからの戦略を指示する監督
割れながら俺の妹は凄い

試合に出る俺達以外に控えの選手も監督の指示を頭に叩き込む

タイムアウトの時間も終了し、コートに入っていく選手
隣にいる和成の表情はどこか暗い
ホントに最後までやれんのか、コイツ



「あ、そだセンパイ」

「あ?」



先程監督に怒鳴られたセンパイに言うのを忘れるところだった、とベンチの方へ身体を向ける
和成が訝しげに俺を見ているが無視



「和成が入ってからの失点を俺と和成で全部チャラ……いや、倍にして返したら文句ないっすよね?」

「紅葉ちゃん!いくらなんでも無茶苦茶っ……」



いくらなんでも二人じゃ無理だよ、なんて和成が言ってるけどそうじゃない
二人じゃ無理、じゃなくて二人だからできんだよ

俺達が年下だからって嘗められたものだ
センパイは顔に出やすいタイプなんだろうか
どうせ無理だろ、と顔が言ってる
その顔面を殴りたい衝動を抑えて、コートに入る



「さっきの見たでしょ!?俺のせいでこんなに差がついたのにっ……」

「うるせぇ、さっきまで和成のせいじゃないと思ってたけどやっぱお前のせいかもな
 自分のせいだと思ってんなら諦めんな、弱音吐くな、勝ちにいけ

 怖いんなら俺が支えてやるから」



俺のせい、その言葉を聞いて頭がカッとなった
だったら無理とか言って弱音を吐くな
無理なら無理なりに足掻いてみろよ

1人じゃ出来ない事でも2人ならどうだってなるだろう?



「紅葉ちゃん……
 俺に、一人でやれる勇気はないからさ

 力、貸して」

「言うのがおせーんだよ、アホ
 待ちくたびれたぜ」



もう和成の瞳に不安な色はなかった




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