ひとりぼっちのヒーロー

□弾き出された異端者
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瞬きをした一瞬のうち、いや、随分と長かったかもしれない
ふと気がついたときには見知らぬ景色が広がっていた
静かな住宅街を歩いていたはずなのに、目の前は近未来的でガヤガヤと騒がしい街



「え、なに、ここ」



立ち止まり辺りをキョロキョロと見渡す
行き交う人たちは外国人のように彫りが深い人が多い
けれど見た目は統一されておらず、色白だったり色黒だったり
そして、建物が日本とは違い見た目が美しい

え、ここって海外?
飛行機にも船にも乗った覚えないんだけど
日本だよ、日本
自分に言い聞かせる

とりあえず携帯で親に連絡して迎えに来てもらって、あ、ここの住所わかんない
しかも携帯の充電もない
あざ笑うかのように画面は真っ暗

もう一度周りを見渡せば、コンビニが目に入った
財布の中身に野口さんが三人いることを確認する
おこづかいもらっといてよかった
ついでにここの住所も聞けばいいや



「いらっしゃいませー」



よかった、言葉はわかる
ということはやっぱり日本だ
足を踏み入れば、私の知っているコンビニと大差がない
珍しいのはテレビが天井の隅に取り付けられているぐらい

すぐさま目的の充電器を探す
商品の説明文をみてもよくわからなくて、挿し口の形で判断する

レジをしているおじさんの名札を見ればオーナーと書かれていて、それならここの土地に詳しいだろうと安心する



「あの、ここってどこだかわかりますか?」

「え?」

「あ、あの、道に迷ってしまって」



そう告げれば、ここに来たばかりなのかと聞かれ、曖昧に頷く
嘘ではない、初めてここに来た



「大都市シュテルンビルトっていうのは分かるよね、嬢ちゃん」

「しゅてるん……?」



大都市だったら片田舎に住んでいたって名前ぐらい聞くはず
だけど日本にそんな土地はない
大都市と呼ばれるならば東京

首を傾げる私に困った顔をするおじさん
しかし手は休めず、充電器をレジに通す



「シュテルンドル……?円じゃないんですか?」



言われた値段にギョッとする
慌てて財布の中から野口さんを出せば、おじさんが首を傾げる

なんだ、この紙は
そう言われて息が詰まる

どうしたらいいんだろう
お金が払えないから、やっぱり買わないと言わなければ
そしてちゃんとした住所を教えてもらって、公衆電話を捜して両親に連絡しなければ
小銭もここと違うかったら誰かに理由を話して借りて
そうすれば私は無事家に帰って、迷子になったって笑い話をするはずだから

なのに、どうして私はーー



「いらっしゃ……ひっ!」



グイッと何かに引っ張られ、おじさんとの距離が広がる
おじさんの顔は何故か真っ青で、今の私のようだ
どうしたのだろうか

カチャリと、硬くて重いものが蟀谷(コメカミ)に当たる
後ろから程よく筋肉のついた男特有の腕が私の首を絞める
けほ、と噎せて一瞬視界が眩んだ



「おい、じじい金を寄越しな」



低い声が真上から聞こえ、どういう状況なのか理解する
声とガタイからして私を捕まえているのは男性で、この人はコンビニ強盗
そして、私の蟀谷から離れ、おじさんを脅している黒い塊は、本物の拳銃

頭が理解をすると、恐怖が押し寄せる
途端に全身がガタガタと震え出す
助けて、なんて声も出ない



「おい!さっさとしろ!時間稼ぎなんてすんじゃねーぞ!」



おじさんは震えながらもレジを開け、男が用意した袋にお金を入れていく

大丈夫、お金を渡せば私もおじさんも助かるんだから
お金のことは警察に後から言えばいい
少し我慢すればいいんだから



「……もし、今、コンビにに……が」



微かに聞こえる声
女性の震える声が耳に届くと同時に大きい銃声、劈く悲鳴



「おい、女ァ、何してんだ?」



震える身体がピタリと止まる
駄目だ、そう思った
咄嗟に口元を手で塞ぐ
今声を出したら殺される
泣きわめけば、男は私も撃つ
けれど涙は言うことを聞かず、外へと出てくる



「ふっ……くぅ……」



撃たれた女の人は腕から血が出ていて、痛い助けてと叫んでいる
どうしてこんなことになったんだ
私はただいつも通り学校から帰る途中で、どこにも寄らず家に着くはずだった



「全員変なことでもしてみろ、同じことしてやるよ」



しーん、と静まり返る
皆自分が可愛いのだ
助かりたいが助けを呼べば殺される
ならば終わるまで耐えるんだ、と



「おいじじい、まだか」



男は焦っているのだろう
警察に通報された
いつこちらに向かってくるかもわからない
早くしなければ、逃げ場を失うのだから



「おい、何してんだじじい!!」

『HERO-TV!!』



男の怒鳴る声に負けないテンションの高い声
その声はテレビの中からした
何かの生中継のようだが、知らない番組
だけれど映し出された建物は知っている
今、この場所だ



「やった、ヒーローが助けてくれる!」



誰かがそう言った
それを皮切りに空気が和らいだ
どうしたんだ
ヒーローってなに?警察?



「チッ、遅かったか」

「いたっ……」



男の腕に力が入る

男はおじさんがお金を詰め終わるのを見て、袋を乱雑に奪う
しっかりと入っていることを確認し、私を連れて外へと出た

外には数台のパトカーと警察官
そして、カラフルなスーツを着て顔を隠した人たちがいた



「人質がいればお前らヒーローも何もできねえだろ」

「人質を離せ!」



ヒーローと思わしき人たちの顔は隠れて表情は読み取れないが、焦っているようだ
警察もいつでも撃てるように銃を構えてはいるが、動く気配はない



「離せと言われて離すやつがいるか!」



また首を圧迫されて、顔がゆがむ
本当になにがどうしてこうなったんだ
私はこれからどうなってしまうんだ
いやだ、帰りたい
なんで私が人質にならなければいけない
私じゃなくてもいいじゃないか
こんな状況じゃあ、誰も助けてくれない



「おか、さ……とうさん……しに、た…ないよ」



我慢が出来なくて、引っ込んでいた涙が蘇る
声も抑えることはできない
手で覆っているはずなのに漏れていく



「その子を離せ!!」



いきなりだった
誰も予想していなかった

白いスーツを着た人が青白く光り、こちらへ突っ込んでくる
そのスピードは驚くほど速くて、いきなりのことに強盗犯は白いスーツに銃を向けるが遅い
白いスーツの人が強盗犯の腕を蹴り上げ、銃は手放された
そのまま流れるようにして男を薙ぎ倒し、私は解放された



「大丈夫か、嬢ちゃん」

「は、はい」



この人は何なのだ
まるでテレビに出てくるような本物のヒーローみたいだ

腰が抜けてしまった私に気づいたのか、優しく手を差し伸べてくれる白い人



「ぐ……お前、だけでも……死ねぇ!!!」


「っ!!」



のびたと思っていた強盗犯はまだ意識があって、落ちていた銃を拾っていた

咄嗟に白いスーツの人が私を庇う

駄目だ!!助けてくれたのに!!
この人が死んでしまう!!!



「だめえええええ!!!」



バァン!と音がする

けれど声を上げたのは強盗犯で、銃が変形しており、弾丸が中で破裂し、持っていた右手の指は無くなっている



「なんなの、?」

「アンタ……NEXTなのか?」



顔をあげれば何故か白いスーツの人にまじまじと見られて、そう聞かれる
NEXTってなに
質問の意味が分からなくて思考が停止する

私と白いスーツの人が固まっている間にも警察が強盗犯を取り押さえていた



「NEXTって、なんですか?」



私の精一杯の質問だった
そのときの私は白いスーツの人と同じように、青白く光っていた




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