We keep eyes on the stars.

□運命にとりつかれた女
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前世を信じるか?

私は信じない派だった
来世なんてものもない
私の人生は一回きり
私の意識が誰かから受け継いだものだったり、誰かに受け継ぐなんてあり得ない
私は私だ
死んだらそこで終わるだけ

そう思っていた



次にタイムリープはできるだろうか?

これも私は否と答えていた
過去なんてものはその場だけの出来事だ
やり直すことはできない
思い出になるしかないのだ
ましてや未来になんて行けるはずがない



では、超能力はあると思うか?

私はあり得ないと否定していた
テレビでスプーン曲げだのそれ以上の事をやってのける人もいるし、本格的な占いをやってみせる人もいる
しかし、私からすればヤラセとしか思えなかった
人が浮かぶ?人の生い立ちがわかる?
そんなはずない



最後に、異世界はあると思うか?

私はこれもノーと答えた
あり得るはずがなかった
異世界という言葉自体、人間の空想が生み出したものだ
神も悪魔も霊も妖精だとかも同じことだ
ただの夢物語と断言していた





そう思っていた

しかし体験してしまっては肯定せざるを得ない


誰に、ではないが、負けたと思った













物心つく頃に、前世の私は目を覚ました
以前の私の記憶がインプットされた、という感覚

その時は病院のベッドで、火事の現場から奇跡的に助かったのか、と感動していた
しかし、そばにいた女性が(本能では母親だと理解していたが)前世の母親とは似ても似つかなかったのだ
そして、病院に運ばれた理由は崖からの転落事故

そんなはずは、と思いつつも、確かに最後の記憶では、山へキャンプへいって迷子になって、風にあおられ急に足を踏み外し視界がグラついたところだった

当初はかなりのパニックに陥り、なにも言葉が出てこず、誰とも会話をしなかった
幸いにも事故の影響だと診断され、この状況を考える時間ができたのはありがたかった


前世の記憶はもちろんあるが、事故以前の記憶もしっかりとあったことから、家族に慣れるのは十分だった


ただ、前世は少なくとも成人はしており、冷静になった今、子どものような振る舞いができるのだろうかと不安になった

しかしそれは単なる思い過ごしで終わった
というのも感情が今の精神年齢につられるのだ
我慢しようにもあれが欲しいと駄々をこねてしまったり、これは嫌だとわがままを言い、兄を困らせていたりもした
内心恥ずかしくてなんとも言えない気持ちだったが、止められなかった



それからすぐのころ、ここは前世よりも昔の時代だと理解した
最初は死んで生まれ変わったのなら前世よりも未来だと思っていたが、違った
科学技術が随分と前のものだし、携帯機器なんてのも存在しない
そもそも西暦からして巻き戻っていたのだ
その時はカレンダーをまじまじと見て不思議がられた
外国から遊びに来た祖父に、もうすぐ母の日だからと誤魔化した



そして、小学校に入ってからのことだ

いつもは兄について回って遊んでいたのだが、その時はたまたま1人で公園にいた
ああ、確か珍しく兄と喧嘩をしたんだ
喧嘩といっても私が一方的にわがままを言い、拗ねたんだと思う
夕暮れ時で公園には誰もおらず、それが寂しさを掻き立てて泣きじゃくっていた


そしたら知らない男の人に声をかけられ、誘拐されそうになった
されそうになった、だけで未遂で終わったのだがこれには信じがたい理由がある

私の腕を掴んでいた男の人の右手がいきなり燃えたのだ
本人もその現象に心当たりがなかったようで錯乱状態になり逃走した
私も開いた口が塞がらなくて、男の人がいなくなったのに足も動かなかった

どうやって家に帰ったのかは覚えていない


この頃から私の側に他の人には見えない白い布を被った人の形をした何かが存在した
最初こそ警戒していたが、それ以来人に危害を加えることはなかった
私の意思で動いているようで、1人でひっそりとその白い何かの能力を探った
それのせいか中学のころには1人の時間が多くなっていた
白い何かは火と風を操れるらしい









そして、現在
無事高校受験も受かり、平和に過ごしていたはずだった



「ねー、みんな心配してるんだよ?」

「俺には悪霊が取り憑いてやがる
序音がなんと言おうと出るわけにはいかねぇ」

「こんの、分からず屋ああ!!!」




兄の頑固な態度にイライラが最高潮に達す
右腕を大きく振りかぶれば、がしゃん!!と鉄格子が大きな音を立てる
流石の兄も私がこんなに怒ると思っていなかったようで、目を見開いている

こんなに私がイライラしているのは何も兄だけのせいではない


ただ、前世を思い出してから今日、やっと自分の置かれている状況を全て知り、受け入れられないからである
前世の記憶を持ち、過去に生まれ、変なものに付きまとわれ、超能力のようなものをもつという有り得ない話を否定したくても、この事実を証明しているのが自分自身なのだから腹をくくったはずなのに

昨日、母と2人でここにきて、兄が自分の頭を拳銃でぶち抜こうとしたとき、そのときにこの世界のストーリーが頭に駆け巡り、これ以上に恐ろしいことがわかった
今いるこの世界が私の知る異世界だということに


私の知る異世界、と言ったが、なにも異世界を信じていたわけではない
前世の世界での空想物語として描かれた舞台が、今いる世界だというのだ



いや、ヒントはあったんだ
私の家が空条であり、兄が承太郎という名前であることが、最大のヒント
母も祖父もヒントだった
というよりこの3人は答えも同然の存在だ
なぜ私は気づかなかったのか


訳も分からない現状に追い打ちをかけるように兄は頑なに刑務所から出ようとしない

母、ホリィは穏やかでマイペースな人物だ
それに娘の私が言うのもなんだが、親バカでもある
だから、兄が自分の身を呈してまで出るのを拒否するものだから、諦めてしまった
兄も兄で母が強く出れないことを知っていての行動だろう

結果として兄が刑務所を出るのは知っている
兄を心配する気はない
それでも人様に迷惑はかけられないし、なによりも前世で見た空想物語と同じ展開になっていることが嫌でたまらないのだ

だから私は母が外国にいる祖父を連れてくるまでの間、学校帰りにこうして兄を説得しに来ている


兄のいう悪霊は悪霊なんかじゃないし、そんなに本を読み漁っても解決しない
そしてその悪霊とやらは、兄が認識するよりもずっと前に私の側にもいる



「私にもお兄ちゃんのいう悪霊、見えるよ
でもそれはなんの害もないし、私の側にもいる」



本当は家族にも言うつもりはなかった
誰にも見えないから言ったって無駄だと思っていたし、言う必要もないと思っていたから
でも世界事情に気づいた今、隠そうと努力した自分がバカらしい
本当は祖父がきて兄がここを出てからとも考えていたが、少しでも私の知っているものとは違うという証が欲しい
兄に説明して、本来よりも早く出てもらいたいのだ



「トランプベリル」



そう呟けば自然と私の背後に気配がする
視界の端で白い布がちらつく

出会ったあの頃からこの白い何かと二人きりになることは多くなった
そのお陰で現時点では最大限の能力は引き出せるし、制御もできる
呼び名がないのも不便だからと、いつからかこう呼んでいる



「………」

「これでわかった?
お兄ちゃんにくっついてるそれは悪霊なんかじゃない」



いつもポーカーフェイスを崩さない兄だが、今回ばかりは身内の私じゃなくても驚いていることがわかるほど衝撃的だったらしい
それを自覚しているのか、すぐに帽子のツバを下げて顔を隠す兄

何も言葉を発してはいないが、その姿は兄の口癖である「やれやれだぜ」とでも言いたそうだ


まあ、これで兄は出てきてくれるだろう
ほっと一息つき、をトランプべリルをしまう



「いや、そいつぁ悪霊じゃねえな」

「……え?」



後は兄が自分の間違いを受け入れてくれるだけだ、そう思っていたのに予想外の返事
開いた口が塞がらない私とは対照的に、兄は自分なりの答えを導き出したのかスッキリとした表情だ

悪霊ではないけれど、トランプべリルは兄にくっついているそれと全く同じ種類だ



「序音のそいつは霊は霊でもおそらく守護霊ってやつだぜ」



だというに、兄のこと迷推理
兄のいう悪霊が持ってきたのであろうオカルト系の本を読みながらつらつらと説明する兄
なんでも私の霊は青白さのない綺麗な白色をしているからだとか

私の思考回路はショートした

頑固にもほどがある
これがわざとではなく、真面目に考えたのだろうからますますタチが悪い


どうしたものか
頭を抱えたくなる

隣にいる警察官もこのままじゃ自分の立場が危うくなると顔を青ざめている



「孫たちはワシが連れて帰る」


「お、おじいちゃん?!来るのは明日のはずじゃ」




私でも警察官でもない、老いた声
久しぶりに聞くその声はまぎれもない私の祖父

声の方を見れば母と祖父、見知らぬ男性がいた


仕事の都合で明日に着くと、母経由で聞いていた私はドッキリでも仕掛けられた気分だ
その反応に気を良くしたのか祖父は嬉々として話す



「いやなに、1日も早くと思ってな」

「それならそうと言ってくれればよかったのに……」



いたずらが成功した子どものようにはしゃぐ祖父にも慣れた
こういう態度をとられると本当に老いているのかと疑いたくなる

しかし、祖父は普段こそ子どものような振る舞いをするが、真面目な時は年相応だ
兄の方へ目を向ければ、笑顔は消え、空気が変わる
警察官の制止の言葉を無視し、兄へ近づく祖父
兄もベッドから立ち上がり、祖父の正面へと立つ


牢屋の扉が開く



「出ろ、わしと帰るぞ」

「消えな、お呼びじゃあないぜ」



流石、不良のレッテルを貼られている兄だ
祖父の言葉に全く耳を傾けない



「ニューヨークから来てくれて悪いが、おじいちゃんは俺の力になれねぇ」



そう言いながら何か鉄の塊を見せる
それを見た祖父は驚きで目を見開く

祖父が驚いたのは、その鉄の塊が祖父の左の義手の小指だったからだ

扉が開いていたとはいえ、兄と祖父は格子越しにたっていたのだ
それがなくても義手を引きちぎるなんて、簡単にできることではない
今の一瞬のうちに、誰も気づかないまま、兄はやってのけたのだ


その場にいた誰もが固唾を飲んだ



「これが悪霊だ」



俺に近づくな、と言い、兄は奥へと行ってしまった
せっかく開けた扉はまた閉ざされた

しかし祖父は諦めていない
パチンと指を鳴らしたその顔は真剣そのもの



「アブドゥル、君の出番だ」



母の隣にいた見知らぬ男性が、前へと進みでる

特徴的な髪型に、赤い服装
3年前に知り合った祖父の友人らしい

この人物を私は知っている
本名はモハメド・アブドゥル、だったか


兄はアブドゥルを見て、力技で檻から出そうとしているのだ、と解釈しているようだがそうじゃない
兄の言葉を借りるのなら、この男アブドゥルも悪霊に取り憑かれているのだ


兄が初対面にも関わらずブ男と言い放っても、冷静な彼
手荒いマネになる、と宣言した


一瞬の静寂



「っ!!」



突然アブドゥルから赤い何かが飛び出す
頭は鳥のような形をしているが、身体は人間に近いそれ


その名は

ーー魔術師の赤!!




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