magi
□さすればその時は、
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※注意!
ちょっと暗い。
王の部屋の扉をいくらノックしても返事が無い、という報告を受けたのは、つい10分ほど前だった。
さてはまた抜け出したか、とジャーファルは舌を打つ。早速紫獅塔へと足早に向かい、分厚い扉の前に立った。
「シン!ジャーファルです、開けますよ。」
返事が無いのは分かっているので、返答は待たずに扉を開けた。昼間だというのに中は薄暗く、微かに酒の匂いが漂っていた。
眉をひそめつつ、ジャーファルは寝室へ向かった。脱走した形跡は見当たらなかったため、当分長すぎる昼寝でもしているのだろう。いい御身分だな仕事放り出して。叩き起こしてやる。ついでに急ぎじゃない仕事も押し付けてやろう。
「シン!あなた昼間っから酒なんか飲ん…、え、あれ、起きてたんですか?」
天蓋のカーテンを勢いよく開けると、ぐうたら眠る半裸状態の主の姿はそこには無く、代わりに神妙な顔をして胡座をかいたシンドバッドが居た。
「シン、大丈夫ですか?」
「…あぁ、ジャーファルか。どうした。」
「侍女からあなたの反応が無いと連絡を受けましたので、確認に。」
「…そうか、すまないな。」
「…何か、ありましたか?」
「何故、そう思う?」
「…あなたの目に、この世界の何も、写っていません。」
ジャーファルを見つめたシンドバッドの目は、暗い闇をたたえていた。確かに金色の瞳はジャーファルを捕らえていたが、彼が見つめているのはもっと奥深くの深淵のような気がした。
「ジャーファル、」
「はい。」
「愛してる。」
「…本当に、どうしたんですか。」
「…だから、」
とさり、と柔らかく腕を引かれるままに、ジャーファルは寝台に倒れ込んだ。途端に、目の前にシンドバッドの整った顔が現れる。あぁ、押し倒されたのかと変に冷静な頭で、ジャーファルは判断した。
「だから、何です?」
「殺せ、俺を。」