佐伯孝正 短編
□君の言葉を聞かせて
1ページ/10ページ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[君の声を聞かせて−佐伯side]
「佐伯、いらっしゃい!」
「こんばんは、クニさん」
いつもの挨拶を交わしメンバーのいる席に着く。
今日は俺が一番最後に到着したみたいだ。
「あれ?ハニーは?」
今日はバイトの日なのに名無しさんの姿が見えない。
「あぁ、名無しさんに今買い出し頼んでんだよ。さっきみりんの瓶落としちゃってさ」
「ふーん」
早く名無しさんに会いたかった俺は少しガッカリしてしまう。
「佐伯何飲む?」
「俺、ワインお願い。赤ね!」
「ほいほーい」
すでに数杯飲んでいるメンバーは上機嫌で話をしている。
「佐伯さんはやっぱワインとか似合っちゃうからいいよなー」
「勇太くんだってビールが似合ってるよ。CMとかにいつ抜擢されても可笑しくない」
「佐伯さん!ありがとー」
勇太くんが嬉しそうにビールを傾ける。
「佐伯、今日は仕事だったの?」
「あぁ。今日は次のクールのドラマの打ち合わせでね」
「相変わらず忙しいなぁ」
そんな世間話をしながら大和がグイッとコップを空にするとテーブルの上の酒瓶を物色する。
「お、これまだ開いてないじゃん…ってコレは!」
大和の言葉に自然と視線が集まる。
大和の手にあったのは、このメンバーには御馴染みの禁断の酒だった。
「それって…確か蓮の…」
俺の言葉に蓮が小さく頷く。
「…ダニエルがいっぱいお土産で持ってきた。…俺そんなに飲めないから…」
そう。
大和の手にあったのは蓮の祖国の地酒。
しかもただの地酒じゃない。
現地では〈正直になるお酒〉と言う別名を持つ代物だ。
大和が途端に苦い顔をする。
そうこのお酒の犠牲者になったのは大和だ。
花見の席でしらずこの酒を飲み、赤っ恥をかいた。
「また大和が飲んだらぁ~?」
からかう様に言うと大和が激しく首を振る。
「絶対ヤダ!お前が飲め!」
「俺はいつでも正直に生きてるからねぇ~♪」
「まぁ確かに佐伯はあんまり変化ないかもな、ほい、ワイン」
クニさんからワインを受け取ると大和が悔しそうな顔をする。
「…名無しさんに飲ませたら?…」
「「「「え?」」」」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−