ゆきうさぎ

□1章 和菓子屋兼茶屋にて
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『あ、そうだ。
神楽ちゃん、新作のお菓子の試作品が有るんだけど試食してく?』


「きゃっほおおお!やっぱりさくらは優しいネ!
もちろん食べてくアル!」


この少女―神崎さくらは、17歳でここの店で働いている。


将来はここで和菓子職人として働くことが夢で、住み込みで修行中だ。


そう、普通の少女。


普通なら名前すら設定されない、
脇役の少女。















そして神楽が新作の和菓子を食べきり…

「さて、そろそろ帰るぞ。」

「そうですね。さくらさん、ごちそうさまでした。」

「ごちそうさまアル。また来るヨ!さくら!」

銀時達は代金を支払い、帰ろうとする。

『あ、銀さん。
また足りないですよ。』


さくらは貰った代金を見せ、ちょっと膨れる。


「あー、悪ィ…ツケで。」


『またですか!?
今月入ってもう四回目ですよ!?
もう…師匠にまた怒られる…。』


「明日!明日、割りのいい仕事入ってっから!
それで払う!」


そう言いながら深く頭を下げられちゃ、さくらも頷くしかできない。


『しょうがないですね…。
じゃ、明日絶対持ってきてくださいよ?
老舗とはいえ、こちらだって商売ですから!』


「本当、いつもすみません。」


今度は新八が頭を下げる。


『まあ、明日持ってこなかったら…
殺しちゃうぞ?』


「「「!?」」」


「怖!さくらさん怖いわ!さらっと笑顔で物騒なこと言ってるよこの人!」


新八のツッコミを他所に、神楽は苦い顔をする。


「…バカ兄貴…。」


『…神楽ちゃん?』


「ん?何でもないアル。」


まさか、さくらの言った冗談が、自分の兄と被るなんて思いも寄らなかったのだろう。

















「じゃあなー!さくら!」


『また来てくださいねー!』


店の外まで見送ると、辺りはもう夕暮れ時だった。


季節は初夏。



まだまだ明日から暑くなりそうだ。



さくらも一日の業務をあらかた終え、
師匠と呼ぶ和菓子職人にごみ捨てを頼まれた。


明日は燃えるごみの日だ。









そして、薄暗くなり、提灯や店の明かりが付いた吉原の街中を歩く。

この街は夜が本番なのだ。
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