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□嫌われ者の存在証明
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私はアクタベさんが嫌いです。


だってあんな陰湿な人っていないですよ。しかも暴力的だし。
覚えてますか、アザゼルさんと契約したとき。あの人わたしの指ナイフで切ったんですよ?!
というかもうあれ完全に抉ってましたよね。しかもあの楽しそうな顔!その後放置ですよ?アザゼルさんじゃないですけど何のプレイだって話ですよ。私そんな趣味ないですし、やるならアンダインさんとでもやってくれって感じですよね。彼女ならなんでも喜びそうです。

借金だって元を正せばアクタベさんのせいですよね。ソレなのに、ただ私の使い勝手がいいからって脅す材料にするのは人として最低です。知ってます?あの人イチゴのときの写真まだ持ってるんですよ?!ほんと信じられない・・・。

しかもなんであんないつも頑なに黒スーツなんですか。厨二なんですか。というか洗えって思いません?それとも同じ黒スーツを何着ももってるんですかね。それもそれでどうかと思いますけど。

それに外道だし。なんかいつも背後に黒い影引き連れてるし。人の暗い部分ばっか見て喜んでるし。あの人ホントに人間なんでしょうか。魔王だって言われても私は驚きませんね。・・・きっとあの人は、私がどんな思いでアクタベさんを見てるのか、全然知らないんでしょうね。ほんとに厄介な人です。

何より一番嫌なのはーーーーーー










(かなり予定が狂った)
歩くというより最早走るスピードで事務所を目指す。少し長く出かけると佐隈に言って出てきたのが2週間前。1週間程で帰れると考えていたのに、相手が交渉に渋ってグリモアを出さず、無駄に時間をくってしまった。

(さくまさんはもう帰ったよな)
そんなことを考える。終電はもうとっくに終わっているし、居るわけがないのは明らかだが、会いたいな、と思った。
2週間何が辛いって佐隈に会えないことだった。別に付き合っているわけではないけれど、というかそれ以前に嫌われている自信すらあるけれど、芥辺は佐隈を大切な人だと思っている。
(たぶんこれは初恋だ)
ほろ苦くて、甘ったるいこの感情。こんなのは悪魔使いには必要ない、むしろ邪魔でしかないものだと直感でわかるのに、捨てられない。恋というより執着に近いこれを、ひとはーーーー悪魔はなんと呼ぶのだろうか。

(逃がしたくないから、色々手を尽くしてまた嫌われる。・・・我ながら何やってんだか)
事務所のビルに着いた。ふと上を見ると・・・窓に明かりがついている。
「・・・さくまさん?」
なんだか妙な予感がして、階段を駆け上がった。

「さくまさん!」
バタンッとドアを開けると、ぷーんと香る、安いアルコールの匂い。ああ嫌な予感がする。

「・・・あ、おかえりなさ〜いあくたべさーん♪」
上機嫌の酔っ払いが、ソファに一人。・・・もちろん、さくまさんだ。
はーっ、とため息が漏れた。そんなこちらも気にせずに、さくまさんはビール缶をぐびり。これは相当飲んでるな・・・。疲れているので正直放っときたかったが、仕方ないのでその腕を掴み缶を奪う。これが悪魔共だったら一瞬で猟奇的殺人現場の出来上がりだ。被害者アザゼル加害者、オレ。これがやつらに「さくには甘い」といわれる所以なんだろうな、とふと思う。現実逃避。

「さくまさん、飲みすぎ。」
テーブルに缶をおいて(他にも何本も転がっていた。・・・一体どれだけ飲んだんだ)、じっと見つめる。佐隈はきょとんとしていたが、ニコリと笑んで、口をひらいた。

「アクタベさん、私アクタベさんが大っ嫌いです」
「・・・・・・。」

・・・いや知ってるけど。知ってるけど俺はそれを聞いてどうすればいい。というか酔っ払ってる君を介抱しようとしてるオレにその発言ですか。・・・泣き方なんて忘れたと思ってたんだけど、なんだか泣きたい気分だ。
ぐるぐると思考が廻る。そうこうしていると、どんっと腰の辺りに衝撃。さくまさんが抱きついてきた。

「さくまさ、「あくたべさん」
さくまさん、君は嫌いな相手になにをやってるの。そういう前に言葉を被せてきたそのひとは、酔っ払って少し紅くなった、潤んだ瞳でオレを見上げてそして言う。


「・・・何より1番嫌なのは、わたしを置いていなくなっちゃうところ。傍に居てくれないあくたべさんなんて、大嫌いです」
それだけ言って、こてんっと芥辺に寄りかかった佐隈から聞こえてきたのは安らかな寝息。
しばらく呆然としていた芥辺は、思いっきり脱力した。


「ねえさくまさん。君はたぶんまた、覚えてないんだろうね」
そういうと芥辺は佐隈を抱き上げ、仮眠室としてつかっている部屋に向かう。

「でも今回は、逃がしてあげない」
ベッドに寝かしてその隣に腰掛ける。幸せそうに眠るその横顔をそっと撫でた。
「・・・馬鹿だね、さくまさん」
君はオレがどんな思いで君を見てきたか知らないだろ。めちゃくちゃに壊してしまいたい、大切にしたい。閉じ込めて誰にも見せたくない、君の可能性を奪いたくない。

正反対の感情は、ぐるぐるぐるぐる廻るばかりで。
「一体どれが正解なんろうね。」

けれど。間違いでも構わない、どんな罰でも甘んじて受けてやる。俺は君の隣に居ることにしたよ。きみを手に入れることにした。
だって、どんな罰だって君がいないことに比べれば、ただのごっこ遊びみたいなものでしょう?

「とりあえず、オレを大嫌いって言ったことを後悔してもらおうかな」
明日が楽しみだね、さくまさん。



にやりと笑ってそう呟くと、言葉とは裏腹に、そっと優しく佐隈に口付けた。








さあまずは外堀から埋めようか。
(明日の芥辺探偵事務所は諸事情の為、大変勝手ながら休業させていただきます。)

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吹っ切れたアクタベさんは最強だよねって話。

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