短編

□ドキドキで壊れそう
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新年を迎えてから、早20日以上が経った。
社会人にもなると、こうも1日が、1週間があっという間に過ぎ去るものなのかと感じる日々だ。

そしてまた、彼の誕生日も目の前に迫っていた。





「…ふぅ。これでよし、と」


カミュ先輩にお祝いのメールを送る為、私は携帯を握りしめていた。

彼の事を想いながらも打った文面は、あくまでも仕事仲間へ送るシンプルな内容だ。


“お誕生日、おめでとうございます。
カミュ先輩にとって、今年も素敵な1年になりますよう願っております。
若輩者の私をいつも指導してくださり、日々感謝しております。
これからもご指導の程、よろしくお願いいたします”


「…ちょっと固い、かな?」


だけど、これが私の精一杯。
作った文面を何度も読み返しては書き直して、出来たのがこれだった。

そうしている内に携帯の時計が23時59分になり、私は送信ボタンに指を添えた。
心臓がバクバクと音を立てていて、指先も少し震えている。
ただメールを送るというだけで、こんなにも緊張したことなんて今までにない。

私は0時になると同時にメールを送った。
携帯の画面に表示された“送信しました”の文字を見て、脱力した身体をそのままベッドにダイブさせた。


「…はぁ〜。メールひとつで緊張するなんて」


今、カミュ先輩はTwitterでファンの人たちと交流をしている。

なんでもシルクパレスでは、誕生日は周りの人に感謝し、もてなす日なんだとか。
だからカミュ先輩はファンの為に自分の誕生日という時間を使う為、祝い事は遠慮すると皆に話していた。

…だけど、やっぱりお祝いは伝えたくて。
迷惑かもしれないけど、メールだけでも送ることにした。


「…メール、見てくれたかなぁ」


メールの返事を期待しているわけではない。
だけど、送ったメールを見たカミュ先輩が、私の事を一瞬でも思い浮かべてくれたら…。


「って、それじゃただの変態みたいじゃない」


私は自分の思考に呆れながら、ベッドの中に潜り込んだ。

カミュ先輩を想いながら―…





―RRRRR


「え!?」


瞼を下ろし、完璧に寝る体勢だった私は、突然の着信に驚いた。
携帯を見ると、そこにはカミュ先輩の名前が出ていて、落ち着かせたはずの心臓が、また煩く音を立てた。


しかし、このまま電話に出ないわけにもいかず、私は意を決して通話ボタンを押した。


「…はいっ、お疲れさまです!」
『夜分遅くにすまない。寝ていたか?』
「い、いいえっ!まだ起きてました!」
『そうか』


カミュ先輩からの突然の電話に、苦しくなる胸に手を当てて、私は小さく深呼吸を繰り返した。


「あっ、あの…私、何か失礼を…」
『あぁ。メールを寄越していただろう?先ほど目を通してな。わざわざ起きていたのか?』
「す、すみません!お忙しい所にメールしてしまって…っ」
『いや、こちらこそ気を使わせたな。まさか、お前からメールがくるとは思っていなかったものでな』
「え?」
『感謝する』
「―っ」


なんていうか…私。今、嬉しすぎて泣きそう。
でも我慢しなきゃ。電話で泣いたってカミュ先輩を困らせるだけだもの。


『ところで、明日は仕事か?』
「あ、いえ。…実は、明日はカミュ先輩たちの舞台を観劇しようと思って休みを頂いていてたんです。明日は夜公演のみでしたよね?」
『あぁ。俺も明日は、夜公演まで休みをもらっていてな。午前中にはアレキサンダーと散歩にでも行く予定だ』
「わぁ!いいですね!」
『一緒にどうだ?』
「………ぇ?」


今、カミュ先輩はなんと仰いましたか?
一緒、に?え?私が?


『何か他に予定があるのならば…』
「いえ!ないです!午前中から夕方まで暇をもて余しています!」
『それは、日本語として正しいのか?』


反射的に返事をすると、カミュ先輩に電話越しで笑われてしまった。


「す、すみません…」
『いや、構わない。お前のそういう所が周りの人間を笑顔にさせるのだろう』
「…カミュ先輩、もしかして少し酔われてますか?」
『…何故だ?』
「何故って…」


今日のカミュ先輩が、いつもと違って優しすぎるんです!
私の心臓が持ちません!


『とにかく今晩はもう遅い。明日、支度ができ次第、連絡をしてくれ』
「え、お時間は…」
『お前に合わせよう』


そんな!カミュ先輩が私に合わせてくださるなんてっ。
絶対に寝坊なんて出来ない!!


『では、またな。sweet dream.』
「っ!おやすみ、なさい…」


電話が切れ、私は暫く放心状態だった。
私は明日、プライベートのカミュ先輩と一緒に散歩を…。


「あぁ…っ。もうダメ…。私は今、一生分の運を使い果たした気がする…」


しかし、確かにカミュ先輩と約束をしたのだ。
夢ではない、はず…。


「…痛い」


古典的だが、私は自分の頬をつねってみた。
確かに残る頬の痛みが、今起きたことが現実なんだと教えてくれた。


「早く、寝なきゃ…」


もう一度ベッドに潜るも、ドキドキといつまでも鳴り続ける心臓のせいで、なかなか寝つけなかったのは言うまでもない。














『今日の夜、お前のために席を用意しておいたぞ』

「本当にどうしちゃったんですかカミュ先輩!」

『…だから何がだ』



カミュ先輩のせいで、私はドキドキで壊れそうです!!







End♪

 

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