短編

□Merry X'mas
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12月25日、街中がたくさんのイルミネーションで着飾られている中、更に光輝くとある会場で、シャイニング事務所主催のクリスマスライブが開催された。

ST☆RISHとQUARTET☆NIGHTがメインのそのライブは、ソロ曲からデュエット曲までを歌い上げ、ライブは大盛況。
さらに、この日に発売したばかりの新曲も初披露され、これまでにないほどのファンの声援を受け、クリスマスライブは無事に幕を降ろした。





そして、ライブ成功の熱気が冷めやらぬ内に打ち上げ会場に集合。
ST☆RISHとQUARTET★NIGHT、そして事務所のスタッフ達などが集まる中、皆の前に出たのはグラスを持った嶺二だ。


『えー、皆様。今日は本当にお疲れさまでした!ひとまず長い挨拶は省略して、一緒にクリスマスライブの成功を喜び合いたいと思います!それじゃあ行くよー!せーのっ、かんぱーいっ!』
『『『かんぱーーい!!』』』


嶺二の挨拶を合図に、グラスのぶつかり合う音が会場内に響き渡った。
私はそれを会場の後ろの方で眺めながら、持っていたグラスに口をつける。

後輩である春歌ちゃんやST☆RISHの子達も楽しそうに談笑したり、食事をしている姿が目に入り、笑みが溢れる。
キャストやスタッフ達の笑顔を見ると、今回のライブが本当に良いものになったんだと、私も嬉しくなった。


「…本当に、楽しかったなぁ」


小さい頃からクリスマスは、私にとって楽しみでもあるが楽しみきれない1日だった。
だけど今年のクリスマスは、このライブのおかげで最高な1日になった。
そう一人で余韻に浸りながら、私はもう一度グラスに口をつけた。


『やっほー!麗(れい)ちゃん、お疲れちゃん!』
「嶺二、お疲れさま。ライブ最高だったね」
『うんっ!今年はぼく達の後輩も一緒だから、更に大盛り上がり!楽しかったねっ』
「あ、でも嶺二。またアドリブ入れてたでしょ?リハと違ってた」
『ありゃ、バレてた?』
「てか、皆気づいてるでしょ。また怒られるよ?」
『えー?でもあの方が盛り上がったと思わない?』


まぁ確かに、嶺二は観客を盛り上げる術には長けてると思う。伊達に芸歴は長くないよね。
けど、嶺二は褒めると調子に乗るから言わないけど。


「どうかな?」
『もー!麗(れい)ちゃん、つーめーたーいーっ』

「はいはい。てか、何か用があってこっち来たんじゃないの?」
『え?あー、まぁ…ね』
「?」


さっきまでのテンションとは打って変わって、嶺二は急に歯切れが悪くなった。
“どうしたの?”と聞こうとしたら、嶺二の後ろから後輩の音也くんがこちらに走ってくるのが見えた。


『れいちゃん居た居たー!あ、麗(れい)さん、お疲れさまです!』
「音也くんもお疲れさま。ライブよかったよ」
『へへっ。ありがとうございます!すっごく楽しかった!』


キラキラの笑顔でそういう音也くんに私も笑顔で返すと、嶺二が咳払いをした。


『こほんっ。おとやーん?ぼくちんに用事があったんでしょー?』
『あ、そうだった!れいちゃんにこっちに来てもらいたかったんだよ!』
『えっ?い、今なの?』
『そうそう!こっち来て!』


音也くんはそう言うなり、嶺二の腕を引いていく。
私は二人に手を振ると、嶺二がこちらを振り返った。


『麗(れい)ちゃん!ぼくの用事、まだ済んでないから待っててねんっ』
「え?」


私にウィンクをして去っていく嶺二。
…まぁ、さっきの嶺二の様子も気になるし、ここで大人しく待ってようかな。

そう壁の花を決め込んでいたら、今度は蘭丸がお皿一杯に料理を乗っけながら近づいてきた。


『よぉ。お疲れ』
「お疲れさま。…凄い量だね」
『たりぃめーだろうが。食い放題なんだから食っとかなきゃもったいねーだろ』
「そう、なんだ?」
『つか、お前は食わねーのかよ?』
「うん。軽くつまんだりはしてるよ。それに蘭丸見てたらお腹いっぱいになった」
『…そうかよ』
「………」
『………』


な、なんだろう。
挨拶に来ただけかと思ったけど、隣でご飯食べ続けてるし…。


「あの…、蘭丸?」
『ん?』
「皆のところに行かないの?」
『……お前は行かねーのか?』
「私はここでライブの余韻に浸ってるから、」


“だから気にしないで皆のところに行っていいよ”そう言おうとしたら“俺もここでいい”なんて言うから、続けようとした言葉をそのまま飲み込んだ。


『あ、ココにいた』
「藍。お疲れさま」
『うん、お疲れさま』
「どうしたの?私の事、探してた?」
『そう。キミに用事があったんだけど…。ランマルは何してるの?』
『あ?飯食ってんだろうが。何か文句でもあんのかよ』

『…別にないけど。でも、珍しいよね。ランマルがこういう席でテーブルから離れるなんて。いつもならずっとご飯食べているでしょ』
『っ!お、俺だって、たまには落ち着いて飯が食いてぇ時が、あんだよ…』
『ふぅん』


藍の視線に気まずそうにする蘭丸に、私も首を傾げた。


『まぁ、いいや。ところで麗(れい)は、今忙しかった?』
「ううん、何もないけど…」


嶺二もまだ戻ってこれなさそうだし。


『…っおい!』
『なに?ランマル』
『……抜け駆けかよ』
『何言ってるの?ボクは思い立ったらすぐに行動しているだけだよ』
『…ちっ』
「……おーい」


なんだか二人で盛り上がっているみたいで会話に入っていけない。
とりあえず視線を泳がせると、こちらに近づいてくる人影が視界の端にうつった。


「あ、カミュだ。お疲れさま」
『あぁ。…む、なんだ。黒崎と美風もいたのか』
『んだよ』
『カミュのほうこそどうしたの?』
『貴様等には用はない。おい麗(れい)』
「ん?」
『こちらに来い。お前に渡したいものがある』
「へ?」
『おいっ!』
『ちょっとカミュ。ボクが先に彼女と約束してるんだけど』
『そんな事は知らんな。俺は今、こいつに用がある。後にしろ』


カミュに腕を引かれ、連れていかれそうになると、反対の腕を藍が掴んだ。


『カミュ。さっきから横暴にも程があるよ』
『……なに?』
「えぇっとー」


なんだか私の周りだけ気温が下がった気がするのですが…。
蘭丸に助けを求めてみたけど、藍と一緒になってカミュと対峙してるし。
どうしたものかと思案していると、背後から私を呼ぶ声が聞こえ、そちらを振り向いた。


「嶺二っ!」
『麗(れい)ちゃーん、おまたせーっ!って何々?!ランランにアイアイにミューちゃんまでどうしたの!?』
『ちっ。うるせー奴が来やがった』
『がっびーん!ランラン相変わらずぼくちんにきーびしーっ!』
『事実であろう』
『全くだよ。今、ボクたち忙しいんだから後にして』
『ちっちっちー!じ・つ・は、ぼくちんは麗(れい)と約束してるんだなぁ。とゆーわけで、彼女は借りるよんっ』
「きゃっ!」


カミュと藍に捕まっていた私は、何故か嶺二の腕の中にいた。


『待たせちゃってごめんね。マイガール』
「れ、嶺二…」

『寿!貴様、なんのつもりだ!』
「何って、君達より先にぼくが彼女と約束してたんだよ?」
『…本当か?』
『ボクより先に嶺二と約束してたの?』


蘭丸と藍が私を見つめる。
別に悪いことはしてないはずなのに、なんだろうこの罪悪感は…。


「う、うん。でも嶺二は話の途中でいなくなったから、その間に藍の話を聞けるかなぁって思って…」
『そゆことー!皆の衆、お分かりかな?ぼくが最初に麗(れい)ちゃんと約束をしてたのでーす!』
『んだよ。それならそうって言えよな』
『てゆーか、ランマルは麗(れい)と一緒にいただけでしょ?何かしたの?』
『ぐっ…。俺も、コイツに用があったんだよ!』
「え?そうだったの?」
『………おぅ』


もしかして蘭丸のあの沈黙は、話をなんて切り出そうか考えてたから、とか?

しかし、このままでは埒があかない。
皆が私に用があると言うなら、今、この場で全員に聞けば一度で済むよね。


「あの、さ。皆それぞれ私に用があるみたいだけど、今ここで聞いてもいい?」
『そ、それは…』
『まぁ、確かにその方が効率的ではあるよね』
『あー、まぁ…』
『ふん。恐らくこやつらも同じ考えなのだろうな』
「どういうこと?」


すると嶺二は、私の目の前にラッピングされた袋を差し出した。


『ハッピーバースデー、麗(れい)ちゃん』
「え…」
『…今日はお前の誕生日なんだろ』
「う、うん」


蘭丸はジャケットのポケットから取り出した包みを私に手渡した。
二人からのプレゼントに私は目を見開いた。


そう、12月25日は私の誕生日でもあるのだ。
昔からクリスマスと誕生日を一緒にされて、子どもの頃は素直に喜べなかった。
友達は誕生日とクリスマスでそれぞれ祝ってもらえるのに、と何故だか損した気分になっていたから。
勿論、そんな考えは大人になれば無くなってはいたが、上京し、仕事をするようになれば自分の誕生日なんて祝える暇もなくて。
ましてや事務所の皆にもわざわざ誕生日がクリスマスだなんてことも言ったことがなかった。

だから今、目の前で起きている事態に頭がついていかなくて。


『誕生日おめでとう。キミ、いつも寒そうにしてるから』


綺麗に包まれたプレゼントを私は藍から受け取った。



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