短編

□ハッピーハロウィン
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『麗(れい)!麗(れい)!』
「ん?どうしたのセシル?」
『トリックオアトリート、です!』
「へ?」


私が談話室で次の仕事の資料を読んでいると、背後から突然現れたセシル。


『麗(れい)?今日はトリックオアトリートと言う日なのでしょう?』
「え?あー、今日はハロウィンだったね」
『イエス!トリックオアトリートとはお菓子をくれなきゃ抱きしめる、と言う日。那月が教えてくれました!』
「なっちゃん…」


若干間違った知識ではあるが、純真無垢な瞳で見つめてくるセシルに私は弱い。


『麗(れい)?ワタシ、何か間違ってましたか?』
「ううん。そんなことないよ」
『では、何がアナタにそんな顔をさせているのです?』


私が思わず苦笑いをしたのが気になるのか、セシルは私の返事をジッと待つ。


「セシルはどんな時でも素直で、真っ直ぐだなぁって思っただけだよ」
『そう、ですか?』
「うん。セシルは可愛いよね」


そう言うと急に頬を膨らますセシル。
私、変なこと言ったかな?


『ワタシが可愛い、は違います。可愛いのは麗(れい)です』
「私が!?それはない…」
『ノン!麗(れい)は可愛いです!そしてキレイ。アナタはどんな事にも挫けない強い心、そして相手を思いやる優しい気持ちを持っている。そんなアナタの創る音楽にはたくさんの“愛”が込められています』


セシルは、私から瞳を逸らさずに言葉を続けた。


『だから、そんなアナタの奏でる音楽にはミューズが宿っているのです』
「セシ…んっ」
『ん…。愛しいマイプリンセス。アナタの音楽がワタシを輝かせるのです』


そんな愛の言葉を囁いたセシルは、もう一度触れるだけのキスを私の唇に落とした。


「ま、待ってセシル!ここ談話室!誰に見られるか分からないのに…」
『大丈夫です。周りには誰もいないことを確認しています』
「なっ!…って、そうじゃなくて!アイドルは恋愛禁止なんだから、同じ事務所内の人にも見られたらダメなの!」
『むぅ。しかし、音楽に愛は不可欠です。ワタシは歌うとき、いつもアナタを想って歌っています』
「セシル…」


どうしてセシルは、こんなにも真っ直ぐでキラキラしているんだろう。
ときどき私は、彼が遠くに行ってしまうんじゃないかと思うときがある。


『麗(れい)?大丈夫ですか?』
「え?」
『先ほどよりも悲しい顔をしています。ワタシのせい?』


あーもぅ。
本当に私はいつも自分のことばっかりだ。
セシルはこんなにも私の事を大切にしてくれているじゃない。
それに今日は―…


「ねぇ、セシル」
『イエス』
「もう一回、“トリックオアトリート”って言ってくれる?」
『??はい。麗(れい)、トリックオアトリートです』
「はい」


最近、仕事も増えてきたセシルとは中々ゆっくり話す時間が減っていた。
勿論、今日も互いに連絡を取れていなかったので、会えるなんて思ってもいなくて。


『これは…』
「…今日はハロウィンだけど、私にとってはそれ以上に大切な日だから」


後でセシルの部屋に届けようと思って持ってきておいてよかった。


「HappyBirthday、セシル」
『〜〜っ!大好きです!麗(れい)、愛しています!』
「もう!だからココで抱きつかないでってば〜っ」










今日も貴方にとって、素敵な1日でありますように――…






〜HappyHalloween&HappyBirthday〜






End♪



 

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