短編

□美風先輩には敵わない
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※拍手:もしもシリーズCの続編です。








美風先輩にキスをされたあの日から、私は落ち着かない日々を過ごしている。





『ほら、またここ間違ってるよ』
「み、美風先輩。そ…そんなにお顔を近づけなくても…」
『なに?』
「な、なんでもないですっ」


あの日、生徒会室で美風先輩と二人きりで仕事をしていたときに、私は持っていた最後の飴を口にした。
しかし、それに目敏く気付いた美風先輩が自分の分はないのか?みたいなことを言ってきた。
あの時、最後の一つだったとは言え、一人で食べてしまったのは確かに悪かったと思う。

…けど!それだけを理由にファーストキスを奪われ、更に意味深な言葉を言われた私は、おかげさまで毎日美風先輩の事を考える始末だ。


『ねぇ。君が勉強を見てほしいって言うから教えてるんだけど?』


そもそも私からと言うのは語弊がある。

遡ること数十分前。
先日行われた期末考査の成績がよろしくなかった私は、生徒会室で成績表を広げ、頭を抱えていた。


「これはヤバイ。非常にヤバイ事態だよ…」


この間の美風先輩との事を思い出しては消し…を頭のなかで繰り返し、テスト勉強に集中出来ずに酷い結果になってしまったのだ。

と、そこに現れたのは前生徒会長の寿先輩と美風先輩。


『おぃっすー!っとと、麗(れい)ちゃん?難しそうな顔してどうしたの?』
「寿先輩!と、美風先輩…」
『なに?ボクがいたら何かまずいの?』
「い、いえ!そういうわけではなくて…」
『あっれれ〜?それってこの間の期末考査の結果?』
「あっ!」
『何この成績。キミ、よくこんな点数取れたね』
「それは…っ!」


“美風先輩のせいです!”と声を大にして言いたい。
大体、私だって今までこんなに酷い結果を出したことはないんですってば。
いつもなら学年で中の上くらいは取っている。
それが今回は中の下…、いや下になったと言っても過言ではない。
急な成績の落ち込みに担任の先生も心配したくらいだ。
とりあえず3日後にある補習を受けることになったのだけど…。


私は意を決して、美風先輩の方に向き直った。


「―ということなので、3日後の補習が終わるまで生徒会をお休みさせてください!」


そう美風先輩に伝えると、彼はただ私を見つめ返すだけだった。


「あ、あの―」
『……』
『はっはーん。なるほどね〜』


美風先輩には見つめられ続け、寿先輩は何故か一人で納得してる。
私が困惑しているの他所に、寿先輩は名案が思いついたと言わんばかりに笑顔で手を叩いた。


『そうだよ麗(れい)ちゃん!一人で勉強するよりも、アイアイに教えてもらった方がいいんじゃない?』
「えっ!?ぃ、いやでもっ!」
『…まぁ、君がそこまでいうなら教えてあげないこともないけど』
「ゃ、だから…っ」
『よし決まりー!それじゃあ麗(れい)ちゃん頑張ってね〜』
「ちょっ!寿先輩ーっ!?」


寿先輩に伸ばした私の手は虚しく空を切り、彼は鼻歌を歌いながら生徒会室を後にした。


「……」
『……はぁ』


背後でため息をついた美風先輩に私は身体を強ばらせる。


「ぇ、と…」
『なにボサッとしてるの?さっさと始めるよ』
「は、はいっ」


―…で、今に至るわけですが。


『…ねぇ』
「はぁ…」


そもそも寿先輩が来なかったらこんなことにはならなかったはずだよね?
どうしていつも余計な一言を言っていくんだあの人は!

私は寿先輩に対して心のなかで文句を言い、もう一度ため息を吐いた。


『聞いてる?』
「ぅ、わぁっ!だ、だから美風先輩さっきから顔が近いです!」
『とゆーか、ボクはキミの為に時間を割いているんだけど?』
「そ、その事なんですけど!」


そうだ!今、言わなきゃこの後2日間も美風先輩に勉強を教えてもらわなくちゃいけないんだ…っ。
私は美風先輩にはっきりと言った。


「こ、寿先輩はあぁ言ってましたけど、実際自分一人でも全く問題ないので、教えていただかなくても大丈夫ですっ」


よし!よく言った私!


『…とか言うわりに、ここも間違ってるけど?』
「っ!」
『キミさ、ボクといるとき異様に心拍数が上がってるよね?』
「な、何故それを!?」


てゆーか、心拍数?!
美風先輩はそんなことまでお分かりになるんですか?!


『…この間の事、気にしてる?』
「っ!あ、当たり前じゃないですか!」


しれっとそんなことを言う美風先輩に私はついカッとしてしまった。


「だって、あの日から毎日美風先輩の顔が頭から離れないし、触れた唇の感触も忘れられないしで、正直言って凄く迷惑なんですよ!おかげでテストの結果は散々で人生初の補習なんて受けなきゃならないし、もう本当にどうしたらいいんですかっ!」


感情を吐き出したら止まらなかった。息継ぎもしないで喋った私は肩で息をしていた。


『……』
「はぁ…はぁ…」


暫しの沈黙。
その間も美風先輩はただ私を見つめているだけだった。
私はそんな状況に耐えられず美風先輩から視線を逸らした。


『…それは、キミがボクの事を好きってこと?』
「は、はぃ?」
『ボクの事が頭から離れなくて、傍にいると心拍数があがって動機が激しくなるんでしょ?』
「そ、そうですけど…」
『…レイジの言うこともたまには当たるんだね』
「へ?寿先輩?」
『なんでもないよ』


私が、美風先輩の事を…好き?
大体、私は今まで男の人を好きになったことがないし、どういう状態になればソレが恋愛としての好きなのかが私には分からない。


「み、美風先輩の方こそどうなんですかっ?」
『ボク?』
「そうですよっ!なんであの時私にキ…キスしたんですか?」


普通はあんな理由でキスをしたりなんかしない。
それに美風先輩は恋愛には興味が無いと思っていた。むしろ他人に興味があるのかすら疑問だった。

すると美風先輩は、一度瞳を閉じてから再び私を見つめた。


『キミの事が、好きだからだよ』
「っ!?…うそ、ですよね?」
『どうしてこんな事で嘘をつかなきゃいけないわけ?』
「で、でも。どうして私…なんですか?」


美風先輩なら私よりも可愛くて美人な人の方が絶対にお似合いだと思う。
実際、美風先輩は後輩、同級生、先輩からも絶大な人気を集めている。
そんな人が私の事を…?


『どうしてだろう』
「へ?」
『ボクもわからないんだ。どうしてこんなにもキミに惹かれてるのか。キミといるとボクも心拍数があがるんだ』



美風先輩は私の瞳を真っ直ぐ見つめ、言葉を続けた。


『レイジに聞いたらボクはキミに恋をしてるって言ってた。ボクが何故キミに惹かれたのか、一緒いればその理由がわかると思ったんだ。あの時のキスは、無意識にしてた』
「美風先輩…」


美風先輩の瞳からは真摯な想いが伝わってきた。
私は美風先輩の事は苦手、だと思っていたけど、今はそうでもないかもしれない。


「私、は…」
『キミから返事がもらえるまでボクは待つよ』


美風先輩はそう言うと、私の頬にキスをした。


「ぇ、えっ?///」
『でも、キスがしたくなったらするから』
「ぃや、美風先輩それっ!言ってることとやってること違いますよ!」
『そう?』


ほら。またそうやって私の事を困らせるんだ。

ホント、美風先輩に敵わないんだから――…








End♪

 

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