短編

□アナタがいるだけで幸せ
1ページ/1ページ





―バタバタバタ、ガチャンっ!



「はっ…はぁ、はぁ。すっごい汗かいたーっ」
『はぁっ、はーっ…。だから、言ったでしょう?あんな人混みの中であんな事していたらこうなりますよ』
「だって!…どうしても記念に撮りたかったんだもん」
『…同じ撮るなら写真でもいいでしょう?』
「写真だといつどこで落としちゃうかわからないし!これだと見られないところに貼れるし、小さいから…」


そう、私が手に持っていたのは、先ほどトキヤと一緒に撮ったプリクラだった。








今日はトキヤの誕生日。
今年は珍しくトキヤの仕事が夕方で終わり、私も1日オフということで、せっかくだからと外食をしようという話になり、外で待ち合わせをした。

しかし、お店に向かう途中で見つけたゲームセンター。
そこでプリクラの機械に集まる可愛い女子高生たちの姿に“私にもあんな時あったんだよなぁ”なんて思い返したりして。
そんな私の様子にトキヤは“どうかしましたか?”と声をかけてきた。
私は隣にいるトキヤと女子高生たちを交互に見た後に彼の腕を引き、ゲームセンターに向かった。


『麗(れい)?何処に行くのですか?』
「あそこのゲームセンター」
『は?本気ですか?』
「本気ですー。折角だから今日の記念に一緒にプリクラ撮ろう!いやぁ、プリクラなんて久しぶりだから扱えるかなぁ」
『何言ってるんですか!いくら変装をしているからと言ってもバレないわけじゃないんですよ!』
「はいはい」


そんなトキヤの言葉を無視して、私はゲームセンター中に入っていった。

音楽ゲームやクレームゲーム、対戦ゲームなどの様々な音が店内に響き渡っていた。
統一感のない音たちは煩くもあるが、不思議と私の気分を高揚させた。

キョロキョロと辺りを見回す私の後ろを、トキヤは呆れ半分諦め半分でついてくる。


「わぁー。ゲームセンターなんてホント久しぶり!何年ぶりだろ〜」
『あーもう、そんなにはしゃがないでください』
「あ!あそこのクレームゲームにピヨちゃんがいるよ!」
『麗(れい)!…まったく、こういう所は誰かさんを思い出させますね』


トキヤが何か言っていたようだけど、私の耳には届かず、目の前のクレームゲームを食い入るように見つめていた。


「ピヨちゃんかわいー」
『麗(れい)、よそ見していないで行きますよ』
「えー?ピヨちゃん取りたいよー」
『ダメです。プリクラを撮るんでしょ?それに長居をしていたらその分バレる危険性が高くなりますから』
「ちぇー。いーよーだっ。今度なっちゃんに取ってもらおうかなー」


私は唇を尖らせながらプリクラの方へ向かおうとした。が、トキヤによって腕を掴まれ、行く手を阻まれた。


『今、なんて…?』
「え?」
『なんて言いましたか?』
「こ、今度なっちゃんに取ってもらうから?」
『彼氏に向かって堂々と浮気発言ですか?』
「いや、違うからっ!本気じゃなくて冗談を言っただけで…」
『そういう問題ではありません』


私の方が拗ねていたはずなのに、何故だか今度はトキヤが拗ねている。


「…トキヤさん?」
『麗(れい)は今日が何の日か忘れてませんか?』
「トキヤの誕生日、でしょ?」
『そうです。だから今日は私の事だけ考えていてください』
「あ、うん」


“行きますよ”
そう言いながら私の手をひくトキヤ。髪の隙間から見えた耳が赤くなっていた事を、私はバレないように小さく笑った。







「えーっとー。とりあえずお金を入れてー」


私がコイン口を探しているときにトキヤは“私が出します”と財布を出してきた。
だけど、今日はトキヤの誕生日だから、例え数百円でも出してもらうのは私の気が引ける。
それに私だってちゃんと稼いでるんだしね。
“イイよ。今日は特別、だからね”
そう笑顔で答えると、トキヤも笑顔で“ではお言葉に甘えて”と答えた。


「うっわぁ。なんか随分新しくになってる」
『私は初めてなのでお任せします』
「え?トキヤ、プリクラ撮ったことないの?」
『ありませんよ。そもそも私はこのような事に興味が無かったので』
「ふーん、そっかぁ。じゃあ私と付き合う前も撮ったことないんだ?」


ふと出た言葉に私はしまったと思った。
嫌味っぽく聞こえただろうか。
私はトキヤの方を振り向けずにいると、クスっと笑い声がした。


『今度は麗(れい)がヤキモチですか?』
「なっ!ちがっ!///」
『…初めて、ですよ』



顔をあげれば、目の前にはトキヤがいた。
吸い込まれそうな、綺麗な空の色にも似た澄んだ瞳。


『全て、貴女が私の初めてです』
「トキ…っん」


触れるだけのキス。
突然の出来事に呆然としていると、その瞬間になるシャッター音。


「あぁーーっ!」
『どうかしましたか?』
「い、今の…っ!」


私があたふたしている横で、トキヤは何事もなかったかのようにプリクラの画面を操作していく。


「しかも当たり前のように操作してるし!」
『見れば大体の使い方はわかりますよ。ほら、麗(れい)』


と、またシャッター音。
トキヤに向かって思わず変顔をしているところを撮られてしまった。


『ふふ。これも記念になりそうですね。とっておきましょう』
「ぜーったいダメ!!あ、ほらトキヤもっ」


私はトキヤをカメラの方に向かせ、その後ろにまわって頬っぺたを左右ひっぱってやった。


『にゃっ!にゃにひゅるんでひゅかっ!』
「あははっ!トキヤかっわいーっ」


その後も私とトキヤの攻防戦は続き、撮り終わった頃には二人とも息が若干上がっていた。


「んもぅ、なんでプリクラで汗かいてんだろ…。あ、あとは私が選ぶからトキヤは休んで」
『わかりました。イイやつ、選んでくださいね』


なんて笑顔で言いながら去っていくトキヤ。
くっそぅ。絶対にトキヤの変顔を選らんでやるっ。

…だけど、昔のトキヤだったら私とでもこんな事しなかっただろうな。


「音也くんと寿先輩のおかげ、かな?」


あの二人と一緒にいるようになってからトキヤは変わった。
垢が抜けたというか、前よりも周りに笑顔を見せるようになったし、雰囲気も柔らかくなった。
それに比例して、人の事を弄るようになったのはいただけないけど。


「っと、写真選ばないとね」


私は写真の選択画面の中から撮った内の6枚を選択する。
どうしようか悩んだけど、トキヤとキスしているやつも、一応選らんでおいた。
正直言えば凄く恥ずかしいけど、トキヤがこんな事するのも珍しいしね。


「そういえばトキヤは何処に行ったんだろ?」


辺りを見回すと、トキヤは近くの自動販売機で水を飲んでいた。
確かに、あれだけはしゃげば喉も乾くよね。

プリクラの出来上がりまであと数十秒、というところで誰かがトキヤに話しかけていた。


『あの、一ノ瀬トキヤさん…じゃないですか?』


声をかけた女の子と他3人の女子高生がトキヤを囲うように立っていた。


『いえ、人違いですね。良く言われるんですが…。それに多忙を極めているアイドルの彼であれば、こんな所に来るはずはないですよ』


そう女子高生たちに話しながら、私に視線を送るトキヤ。
私はそれに頷いて、出てきたプリクラを持ち、外に出ることにした。
きっとトキヤの事だから上手く誤魔化せるだろうけど…。


それから数分後、トキヤはゲームセンターから出てくると私の手を掴み、そのまま走り出す。


「えっ、トキヤっ?!」
『いいから行きますよっ!』


そこから私とトキヤは全力疾走で来た道を戻り、結局家まで帰ってきてしまった。










「…ごめん。トキヤと一緒にああいう所ってなかなか行けないから私はしゃいじゃって…。楽しくなかった、よね?」
『いいえ、楽しかったですよ。けどそれは、貴女と一緒だから楽しかったのです』
「トキヤ…」


汗で張り付いた私の前髪をトキヤは手で払い、そのままおでこにキスをした。


『だから、せっかくの誕生日に貴女との時間を誰にも邪魔されたくはない』
「わ、私だって…、今日はトキヤと二人きりで、いたい、よ?」
『麗(れい)…』
「ん…っ」


トキヤは私の唇を塞ぐと、啄むようなキスを繰り返す。
トキヤと触れた部分が熱を持って、そこからじわっと全身にその熱が広がっていく。


「ん、ふ…っん、トキ、ヤ」
『…ん、どう、しましたか?』
「…誕生日、おめでとう。これからも、ずっと一緒に…いてください」
『えぇ。ありがとうございます。それはプロポーズと受け取っても?』
「ぇ、あっ、えっと///」
『本当に、貴女は可愛らしい人ですね』


“プロポーズは、時が来たら私から必ずします。待っていてくれますか?”


そんな風に言われたら、待つしかないじゃない。

なんて言っても、私だってトキヤ以外の人と一緒になるなんて想像できないけどね。


―私には、アナタがいてくれるだけで幸せなのだから―



HappyBirthday.to.Tokiya






End♪

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ