短編

□雷の鳴る頃に
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「うぅ…」


―ゴロゴロゴロ…


「怖いよぉ…」


私は毛布にくるまり、両耳を塞ぐ。それでも耳に届く雷鳴に、ソファーの上で身を縮こませ震えていた。

私は雷が大の苦手なのだ。



―ゴロゴロゴロ……ドーンっ!!


「ひぃっ!!」


これ、絶対近くに落ちたよね!落ちたよねぇ!?

雷が何処かに落ちてから数秒後、部屋の全電気が消えた。


「ぎゃぁぁああ!!ででで電気がぁあっ!」


私は縮こめていた身体を更に丸め、ヤドカリの如く布団にこもっていた。


『ちょっと麗(れい)。ウルサイんだけど』
「きゃぁぁあ!……ってあれ?あ、藍ちゃん?」
『隣のボクの部屋まで、君の叫び声が聞こえてるんだけど』


“全く、仕事の邪魔だよ”
そうぼやく藍ちゃんを無視して、私はくるまっていた毛布をかなぐり捨て、藍ちゃんに抱きついた。


「あ゛いぢゃんっ!」
『い、いきなり何?暑苦しい上になんか汚いんだけど』
「ヒドイっ!それが雷に怯え、震えて涙していたパートナーに言うセリフ!?」
『雷?あぁ、そういえばさっきから鳴ってるね。それ以上に麗(れい)の叫び声が煩くて全然気にならなかったよ』
「そんなに!?」
『うん。で、麗(れい)はいつまでボクに抱きついているつもり?』
「雷が鳴り止むまで!」
『鳴り止むまでって…。ボクが言った新曲の訂正箇所は直したの?』
「今はそれどころじゃないもんっ!か、雷が鳴ってて動けないし、停電しちゃったし!」


私は藍ちゃんにしがみついたまま、そう言い訳をした。
未だに窓の外では雷は鳴り続けているし、また近くで雷が落ちたみたいだ。

私が何故、こんなにも雷が苦手なのには理由がある。


――それは小学生の頃。
学校帰りに友達と遊んでいた時だった。突然の雨雲、そしてゴロゴロと音が響き、雷が鳴り出した。
当然、友達とはその場で解散し、ずぶ濡れになりながら私は家に向かって走った。
当時の私は今の様に雷が怖くなく、寧ろテンションが上がっていた。
“うっひゃー!カミナリカミナリ〜!”とか“もっと鳴れ鳴れ〜!”と濡れながらもはしゃいでいたくらいだ。

しかし事件は起きた。
私は近道に公園を横切ろうとした瞬間―…

――ドォォーンッ!!


「ひっ!!?」


目の前の木に雷が落ちたのだ。
私は真っ黒に焦げた木をただ呆然と見つめていた。


「…ふ…っぅ、う…わぁぁああん!」


もしあの木に落ちた雷が自分に当たっていたら…。
そんな想像をし、私はだんだん恐くなり、泣きながら家に帰ったのだ。
それ以来、雷が鳴るとあの時の恐怖がトラウマとなっている。


「だから今日はもう無理!仕事出来ないよぉ」
『まぁ、そんな経験なかなか出来ないよね』
「そういう問題じゃないよ!もうほんっとに恐かったんだからね!」


私は藍ちゃんに抗議をしようと顔を上げた瞬間、窓の外でまた雷が鳴った。


「ひゃあっ!!」
『…麗(れい)、苦しい』
「むりぃ…」
『ボク部屋に戻れないんだけど』
「…一人でいたくない」
『はぁ』


藍ちゃんはため息をついて、しがみついていた私の腕をほどいた。

やっぱりダメだよね…。
そう落ち込んだ私は藍ちゃんから離れると、藍ちゃんは“どこにいくの”と離したはずの私の腕を掴んだ。


『もう時間も遅いし、仕事も出来ないから後は寝るだけでしょ?』
「そうだけど…」
『ほら、行くよ』


“どこに?”と聞く間もなく、藍ちゃんに寝室まで手を引かれていく。


「ぇ?え?」
『なに呆けてるの?麗(れい)が一人でいたくないって言ったんでしょ』
「…もしかして一緒に寝てくれるの?」
『ここまで来て、それ以外に何があるの?』


そう言って藍ちゃんは、一緒にベッドに入ってくれた。



…のだが。
互いに向き合う様に横になる私と藍ちゃん。

正直に言おう。
雷が鳴っていた時よりも今の方が寝られそうにないっ!
違う意味でこの状況が怖いよぉ。


「…あ、藍ちゃん」
『なに?』
「その…先に寝ても、いいよ」
『どうして?』


遠回しとはいえ、藍ちゃんと一緒にいたいと言ったのは私だ。
そんな私が“やっぱり一緒に寝るのはちょっと…”とは流石に言えない。



『麗(れい)』
「は、はいっ」
『瞳、閉じなよ』
「へ?」
『早く』


藍ちゃんの意図が分からないまま、とにかく言われた通りに瞳を閉じた。
すると藍ちゃんは、私との間にあった数センチの距離を埋める。


「あい、ちゃ…」
『人はこうやって他人の肌に触れたり、体温を感じて心音を聞くと落ち着くんでしょ?』


“まぁ、ボクはロボットだから少し違うけど”
と言う藍ちゃんの表情は、抱きしめられていたから見えなかった。
だけど、藍ちゃんはこんなにも人間らしい。
今だって、私が雷で眠れないんだと思って抱きしめてくれてるんだよね?

藍ちゃんは素直で純粋で、本当に優しい。
時には好奇心に戸惑わされることもあるけど。


「…藍ちゃん、あったかい」
『そう?標準体温だと思うけど』
「うん。でもあったかいよ。ありがとう」
『…うん』


私は藍ちゃんの温もりに包まれながら身を任せた。

窓の外ではまだ雷が鳴っていたけど、さっきまでの恐怖心は何処かにいってしまった。


「藍ちゃん…大好き…」
『…ボクも、好きだよ』








End♪

 

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