短編

□甘いキスをきみに
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『ねーぇー』
「ん?」
『ねぇってばー』
「なーに?」
『麗(れい)ちゃーん』
「だから何って」
『ぼくちんヒマなんだけどー』
「…はい?」


今日は二人ともオフと言うことで、久しぶりにデートをしてきた。
互いに多忙を極めているアイドルで、同じ日に休日をもらえるなんて何ヶ月ぶりの事か。
今日は午前中からショッピングにランチ、海までドライブをしてディナーも食べて…
とても充実した休日を過ごすことが出来た。
明日は嶺二が午前中から収録、私は午後から撮影と言うことで、今日は私が嶺二の部屋に泊まりに来ていて、今に至るのだけれど…。


『だってせっかく麗(れい)ちゃんが泊まりに来てるのに、ぼくちんの事ほったらかしにするんだもん』
「まだ数分でしょ?部屋を汚くしてた嶺二が悪いんじゃない」
『そうだけど、リビングは綺麗にしてるんだからいいじゃない』
「へぇ。それじゃあ私に、脱ぎ散らかしてある服や雑誌、CDが散乱している寝室で一緒に寝ろと?嶺二はそういうワケだ?」


私がそういうと嶺二はさすがに言葉を詰まらせたが、構うもんかとそのまま私の背中に抱きついた。


「って、ちょっと!おーもーたーいーっ」
『れいちゃんは麗(れい)ちゃんと一生離れませんっ』
「いや、そのセリフは嬉しいけど、今言って欲しいタイミングじゃないからね?」


離せ離せと暴れるも一向に離れる気配のない嶺二に、私は降参して嶺二に向き合う。


「…嶺二?何かあったの?」


今日は1日、互いに楽しく過ごしていた筈だ。
デート中はいつも通りだった嶺二が、急にここまで甘えてくるのは珍しい。
私はそう考え嶺二に尋ねると、嶺二は顔を上げ、私をじっと見つめてくる。


『麗(れい)ちゃんの今回の撮影で、おとやんとキスシーンがあるって聞いたんだけど?』
「え?何で知って…」


確かに、今回のドラマはラブコメ学園もので、ヒロインの相手役が嶺二の後輩である音也くんだった。
相手役なのだからキスシーンもあるわけで。


『おとやん。ぼくに気を使って教えてくれたんだよ』
「そ、そうなんだ。けど、嶺二が考えてるようなキスシーンじゃないよ?ぶつかった拍子で触れるだけだし」
『それでもキスには代わりないでしょ』


プクーっと頬を膨らましながら不貞腐れる嶺二に苦笑いが溢れる。


「でもそんなこと言ったって、嶺二も前の連ドラで綺麗な女優さんとキスシーンあったでしょ?」
『うっ…』
「しかも濃厚なやつ…」
『うわぁぁ!ゴメン!麗(れい)ちゃんゴメンね!』
「…てゆーか私らの仕事上、仕方のない事でしょ?嶺二の方が芸歴長いのに…」
『“芸歴が長い”は言わないでよ〜。でもさ、ぼくも本当はわかってるんだ』
「……」
『こんなのはただのヤキモチだってこと。ぼくが本気で好きになったのは君だけだから』


嶺二はそう言いながら、私をゆっくりと押し倒した。
そして私の唇を指でなぞりながら、熱を帯びた瞳で見つめてくる。
私は心臓が大きく脈を打つのを感じた。


「れい…」
『麗(れい)ちゃん。キス、しよっか?』
「ぇ?んっ…ふ、ぅ…ん」
『んっ…。確かに、ぼくも役でキスをすることはある。だけど、これだけの愛を込めたキスをするのは君にだけ』
「れ…じ、ぅ…んっ」


啄むようなキスから深く角度を変えてくる嶺二のキスに、私の思考はそれ以上考えることを放棄した。


『君のその、可愛くてとても厭らしい顔は、ぼくだけに見せてくれてるんだよね?』
「ふぅ…んっ」
『ん。…仕事では仕方ないよ。でも、今の君は心の底からぼくを求めてくれてる』
「れい、じ…」
『そうでしょう?』


…あぁ。この男はどこまで私を夢中にさせれば気が済むのだろうか。


「私には嶺二だけだよ。だから、これ以上夢中にさせないで?」


私の中がこれ以上嶺二でいっぱいになったら、嶺二以外何も考えられなくなる。
そう言った瞬間に、再び荒々しく唇を塞がれた。


『…っ。ぼくの方が君に夢中だよ。マイガール』
「ふ…ぅんっ。れい、じ…っ」




私は蕩けそうな程の甘いキスに酔いながら、“片付けは明日になりそうだ”と頭の片隅で考えていた――…







End♪

 

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