短編

□春と恋ばな
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「はーるちゃん!」
『きゃ!麗(れい)さん?ビックリしました〜』
「えへへー。春ちゃんがあんまりにも可愛いから抱きついちゃった」
『私がですか?私よりも麗(れい)さんの方がキレイで素敵ですよっ』
「くぅー!可愛いこと言ってくれるねぇ。このこの〜っ」
『く、くすぐったいです〜』


春ちゃんこと、七海春歌ちゃんはST☆RISHの作曲家で、私たちの後輩だ。
ひょんな事から私と春ちゃんは仲良くなり、時間が合えば作曲のアドバイスや他愛のない話などをしている。


「ところで、あの野獣どもは春ちゃんに変なことしてないかい?おねーさんはそれが心配だよ…」
『や、野獣ども…ですか?』


野獣と言うのは勿論ST☆RISHの男共だ。
春ちゃんとひとつ屋根の下で一緒に暮らしているからって、隙あらば春ちゃんに手を出そうとしている。


「マスターコースの寮に来てから1ヶ月は経ったけど、変わりない?何かあったらいつでも頼ってね?」
『ありがとうございます!麗(れい)さん大好きです!』


〜っ可愛い!可愛いよ春ちゃん!
こんなに可愛い春ちゃんが野獣の巣窟にいるのが心配だ。
しかし、何だかんだ言っても春ちゃんも思春期な女の子。
もしかしたら、あの野獣共の中に間違いでも好意を持っている輩がいるのかもしれない…。
うん。ここはズバリ聞いてみよう!


「…あのね、春ちゃん」
『はい?』
「もしかして、さ。ST☆RISHのメンバーで気になる人とか…いる?」
『ぇ、えっ?!』


あからさまな動揺、だと!?
間違いないっ!一体どいつだ!私のマイエンジェルのハート射抜いた不貞の輩は!


「まさかと思うけど、レン…ではないよね?」
『ぇ、と。神宮寺さんは声もルックスも本当に素敵な方だと思っています。でも…』
「そういう対象ではないと?」『私には勿体無い方です』


ふん!レンの奴め。入寮当日に春ちゃんのプニプニ頬っぺたにキスなんかしやがって!(春ちゃん談)
よし。先ず一人消えたな。


『…はっ!春ちゃんはHAYATOが好きだったんだから、もしかしてトキヤ…とか?』
「い、いいえ!HAYATO様は今でも大好きですし、一ノ瀬さんはとてもプロ意識の高い方で何でも出来るし尊敬しています!」
『しかし、恋愛対象ではない…と』

「一ノ瀬さんには私よりももっと素敵な女性がいると思います」


春ちゃん!君は素敵な女性だよ!
しかし、トキヤは紳士の仮面を被った変態なんだよ。入寮当日に春ちゃんとぶつかったのも奴の計算通りだったに違いない!


「それじゃあ、なっちゃんか真斗くん?」
『お二人は学園時代同じAクラスでしたし、今でもとても仲良くさせてもらってます。私はドジておっちょこちょいなので、お二人には良く助けてもらってました!』
「そっかぁ。良かったね」
『はい!』


うーん。これは違うよねぇ。
しかし、なっちゃんは天然だけどそれが逆に何をしでかすか分からないし(いつでもどこでも春ちゃんに抱きつくし。翔談)真斗くんは、聞けば春ちゃんの部屋を掃除していたというじゃない!好きな子の部屋を事前にチェックするとはなかなかのムッツリだよ!

でも、そうすると残るはあの二人だけど…。


「じゃあ、音也と翔ちゃんのどちらか…だよね?」
『っ///…あ、あの!麗(れい)さんは先輩たちにモテてますよね!』
「ふぇ?私?」


まさかの春ちゃんからのカウンターにすっとんきょうな声が出てしまった。


『寿先輩はいつも麗(れい)さんの傍にいますし!』
「いや、あれは傍にいるって言うより付きまとってるんだよ。ウザイよ?特に用もないのに付きまとわられるのは」
『…黒崎先輩も少し気難しい方ですが、麗(れい)さんには心を許しているような気が』
「蘭丸はね、一度ご飯を奢ったからじゃないかな。野良猫を手なづけた感じ?」
『えと、美風先輩もいろいろと麗(れい)さんには丁寧にアドバイスをされて…』
「うん。藍ちゃんはね、的確なアドバイスをしてくれるけどね。あれは心が折れるね。翔ちゃんとなっちゃん大変だろうなぁ」
『カ、カミュ先輩は…』
「あー。アイツは確かに仕事は出来る。完璧。外面はいいし。だけどただの甘党!異常なまでの!」
『ぇ、えーっと…』
「春ちゃん、ありがとう。けどアイツらは個性的なイケメンアイドルで、私の事は同じ事務所に所属しているただの作曲家程度なんだって」
『…そう、でしょうか?』


春ちゃんは遠くに想いを馳せるように、先日の出来事を話してくれた。


『麗(れい)さんがお疲れだったのか談話室で仮眠を取られてた時、私はたまたま廊下を歩いていたんですが嶺二先輩が向こう側からいらして…』


春ちゃんが言うにはうたた寝をしていた私に、嶺二は自分のジャケットをかけた後、ほ…頬っぺたにキスをして、微笑みながら頭を撫でてたとか…っ!


「う、嘘だよ!嶺二はそんなキャラじゃないよっ!」
『ほ、本当です!…あ。寿先輩にナイショだよって言われていたんでした』
「それは気にしなくていいよ!」


まさか、いや、そんな…っ。
確かにあの時は、ジャケットが嶺二のだってわかって返しに行ったときも、いつも通りのテンションでそんな素振り全く無かったし。
いつも昭和臭さを漂わせながら残念なイケメンキャラの嶺二が、そんなイケメンみたいなことをするわけが…。


『それに美風先輩や黒崎先輩はよく麗(れい)さんの事を聞いてきますよ?』
「な、なんて…?」
『黒崎先輩は“あいつ、ちゃんと飯食ってんのか?”とか美風先輩も“アイドルみたいに表に出ないとは言え、身体が資本だよ。彼女休んでるの?”とか』
「そ、それも本当なのっ!?」
『は、はいっ』


信じられない…。
私の知ってるあいつらじゃないよ。


「ま、まさかカミュまで…?」
『カミュ先輩は……あっ!』
「なっなに!?」
『カミュ先輩は、麗(れい)さんの淹れるコーヒーは美味しいと言っていました!だから私も見習うようにと…』
「…うん。なんかそれはちょっと違う気が…」


しかし、カミュに誉めらるなんて今までに一度も無かったことだ。
私は春ちゃんから聞かされた事実に戸惑いを隠せなかった。


『だから先輩たちは麗(れい)さんのこと好きなんだと思います!』
「えー…。すき?…んー、スキ…好きって……」
『麗(れい)…さん?』
「あぁぁぁーっ!!」
『えっ!!?』
「…ふぅ〜。うん。なんか頭パンクしそうだから今の話は聞かなかった事にする」


そうだよ。春ちゃんの言うことを疑うつもりはないけど、私はそんな素振り見せる4人の姿を直接見たわけじゃないし。


「急に叫んじゃってゴメンね?ビックリしたよね」
『い、いえ。私の方こそ変なこと言ってしまってすみません…』
「あぁ!春ちゃんは落ち込まないで!それもこれも変なアイツらのせいなんだから!」


そう春ちゃんを慰めていると背後から人の気配を感じて…―


『おーい七海ー!麗(れい)さーん!』
『おいっすー!二人ともお疲れちゃん。いつも仲良しさんだねぇ』


現れたのは音也と嶺二だった。今、一番会いたくなかったのに何故このタイミングで来るのか…。
神様、私は何か悪いことでもしたのでしょうか?


「うっわ…」
『音也くん!それに寿先輩もご一緒だったんですね!』


春ちゃんは瞳を輝かせながら二人に話しかけるのとは対象的に、私はよく分からない感情が胸の中を渦巻いていて、二人…特に嶺二から顔を反らした。


『ぼくとおとやんは、今度のドラマの台本の読み合わせをしてたんだよん』
「お二人とも共演されるんですよね!私、絶対見ます!」
『ありがとう!ところで、七海と麗(れい)さんは何してたの?』
「え?あー…」
『あ、あのっ。わ、私たちは今、会ったばかりで少し雑談をしていて…』
『ふーん。そうなんだ?でも、そのわりに麗(れい)ちゃんのテンション低くない?いつも後輩ちゃんといるときは、ぼくよりテンション高いよね?』
「なっ…!」


私の顔を覗き込むように見上げてきた嶺二に、思わず後退りをした。


『ん?麗(れい)ちゃん?』
「な、なんでもないっ!」
『だけど…』
「だ、大丈夫だから!それ以上近づかないでっ///」
『??』


どんな顔をして嶺二と話したらいいのかわからなくなった私は、その場を立ち去ることにした。


「ぁ、あーっ!私、締め切り近い仕事を残してたのを思い出した!それじゃあ春ちゃん、またねっ!」
『あ!麗(れい)さんっ!』
『…麗(れい)さん、どうしたのかな?』
『えぇーっと…』
『…ふーん。そっかぁ』


私は早く嶺二から離れたくって、足早に三人に背を向けた。
嶺二の意味深な笑顔には気づかずに…―










「あー!もうっ!!」


自分がわからない!
熱くなる顔も、鼓動が速くなっている心臓も。

こんな時は兎に角、曲作りに集中して雑念を払おう!!
締め切りが近い仕事は既に終わらせていたが、私は何かをせずにはいられなかった。

その日は1日スタジオに籠り、ピアノを何時間も奏でていても、頭の中を駆け巡るのは嶺二の顔や春ちゃんが教えてくれた話ばかりだった―――










End♪

 

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