短編

□夢の中で逢えたら
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「…ふぅ〜。クライアントからもOK出たし、談話室で少し休んでいこうかな」


ほぼ徹夜で曲作りをしていた私は、さすがにこの睡魔では寮まで帰れる自信がなく、談話室のテーブルにうつ伏せになり仮眠を取ることにした…のだが。


『おっ!そこにいるのは誰かな誰かな〜って、麗(れい)ちゃんじゃない!なになに?もしかしてれいちゃんのこと待ってた、とかとか〜?』


タイミング悪く、嶺二も談話室に入ってきた。


「……この一週間、ろくに寝ないで曲作りしてたから、仮眠取ってから寮に帰ろうと思ったの。だから寝かせて」
『なんと!麗(れい)ちゃんお疲れちゃんだねっ。ご苦労さま!れいちゃん子守唄歌っちゃおうかな〜』
「だから静かにしてってば…」


人の話を一切聞かないで、マイペースに話を進めていく嶺二。
いつもなら適当にあしらうところだけど、今日は本気で疲れているから返事もまともにすることが出来ない状態だ。
まぁ、疲れてなくても嶺二の相手は体力使うけど…。


『そうだ!そんなに疲れてるなら、ぼくが麗(れい)ちゃんの為にご飯作ってあげるよん』
「……ごはん?」
『そう!寿弁当の息子の腕を侮っちゃいけませんよー?麗(れい)ちゃんもれいちゃんが作ったご飯を食べたら疲れなんてふっとんじゃうかも!』
「ごはん…」


確かに缶詰になって作業をしていたから、ご飯もちゃんと食べてなかったし。


「……たべる」
『うんうん!それじゃあ、麗(れい)ちゃんの部屋で作る?あ、でも材料とか器具はぼくちんの部屋の方が揃ってるからな〜』
「すぐ食べれるなら嶺二の部屋でいいよ。それに私の部屋、今汚いし」
『…へっ?ホントにいいの?』


嶺二は自分から提案したにも関わらず、私に再度確認をしてくる。
私は首を傾げながら、もう一度“いいよ”と答えた。


『あ、あー…そう。それでは我が城へご案内いたしましょう、マイガール?』


眠気まなこを擦りながら、私は嶺二に連れられ、彼の愛車に乗り込んだ。


『そう言えば麗(れい)ちゃんはぼくの車に乗るのって初めてだよね』
「うん」
『ぼくも女性を助手席に乗せるのは久しぶだから緊張しちゃうかも〜』
「ふ〜ん」
『ってー!そこは何か気にならない?』
「…何が?」
『ウーン。……ぼくちん、もしかして男として見られてない?』

「嶺二?何言ってるか聞こえないけど」
『う、ううん!何でもないよん。それじゃあ、れいちゃんのお家へレッツゴーゴーゴー!』


事務所から嶺二の家まで、私は仮眠を取らせてもらった。正直、睡魔に勝てなかった。
本来なら運転手を差し置いて、助手席で寝るなんて失礼なんだけど、嶺二は“気にしなくていいよ”と言ってくれて、心地良い車の振動とエンジン音に身を任せて私は瞼を閉じる。

暫くして次に目を覚ましたときは、嶺二のマンションに着いていた。


『ささっ!どうぞお上がりくださいな!』
「…お邪魔します」


嶺二の部屋は意外と綺麗にしていて、生活感があった。


「嶺二って部屋は綺麗にするタイプなんだね」
『う、うん!もちのろんさ!れいちゃん綺麗好きだからね〜』
「へぇ」
『(昨日、たまたま掃除しておいてよかった…)』


嶺二は早速キッチンに向かい、鼻歌を歌いながら料理を始める。私はその間ソファーに座り、テレビを見ながら待つことにした。


『フフンフフフフフフ〜ンっと。そういえば麗(れい)ちゃんは嫌いな食べ物とかはないの?』
「大丈夫だよ。食べ物は何でも食べるから」
『オッケー!それじゃあ、出来上がり楽しみにしててね』


徐々にキッチンから香ってくる美味しそうな匂いに、私のお腹がまだかと催促をするように鳴ってしまい…。


『あはっ。そんなに楽しみにしてもらえるなんて作りがいがあるなぁ』
「ちが…っ///」


否定しようにもお腹が鳴ったことは事実で、顔が赤くなったのを誤魔化すように私はテレビに視線を移した。
するとそこには嶺二の顔がアップで映っていて…


「っ!嶺二が映ってる!」


…なんて、まるで子どもの様なリアクションをしてしまい、私の声を聴いた嶺二が“呼んだ?”とキッチンから顔を出してきた。


「あ、ごめん。今、嶺二がテレビに映っててビックリしちゃって…」
『なになに?れいちゃんのカッコ良さに今頃気づいたのかな?』
「それは違う」
『ガーン!そんなキッパリ言われるとれいちゃん傷つくよ!』
「…それより、料理ほっといて大丈夫なの?なんか匂いが…」
『おぉっと!それはマズイっ!』


再びキッチンに戻った嶺二にため息を吐き、私はテレビに視線を戻した。


「……まぁ、カッコ悪くはないけど」


そう嶺二には聞こえないように呟きながら、料理の出来上がりを待つこと十数分。嶺二がリビングにやってきた。


『おまたせ〜!れいちゃん特製スペシャルデラックスオムライスだよん!』
「うん。オムライスね」
「食べて食べて〜!きっと美味しくて麗(れい)ちゃんの頬っぺたもトロけちゃうかも」
「…いただきまーす」


嶺二からの熱烈な視線を感じ、そんな中ご飯を食べる気まずさに耐えながら、私は一口目を口に運んだ。


「………おいしい」
『ホントに!?よかったー!』
「うん。凄く美味しい」
『れいちゃん特製オムライスはソースも手作りだからね!愛情たっぷりだよ!』


嶺二が作ってくれたご飯は本当に美味しくて、ここ暫くまともなご飯を食べていないせいもあってか、私はオムライスをあっという間に平らげてしまった。


「ご馳走さまでした」
『お粗末様でした。ねぇ麗(れい)ちゃん、食後のハーブティーも飲んでいかない?』
「え?でもご飯もご馳走になったのに…」
『いーのいーの。帰りもちゃんと送っていくからさ。遠慮しないでよ』
「…じゃあ、お言葉に甘えて」


再びキッチンに向かった嶺二の背中を見つめていると、なんだか胸の辺りがくすぐったい様な感じがして落ち着かない。


『ん?どうしたの麗(れい)ちゃん』
「な、なんでもないっ」
『そう?はい。カモミールだよん』
「…カモミールって初めて飲むかも」
『そっか。カモミールは美容にもいいし、気分転換にもなるんだ。お疲れな今の麗(れい)ちゃんにピッタリだなっと思ってね』


私、嶺二のこういう然り気無い優しさにいつも助けられてるんだなって今、気づいた。


「…ありがとう」
『んー?』
「嶺二って、私がいつも疲れてたり悩んでたりしてると、励ましてくれるでしょ?」
『うん。まぁ、ぼくが勝手にやっていることだし、何より君の笑顔が見たいからね』
「…キザな奴」
『あっれー?もしかして照れちゃった?』
「う、うるさい!///」


私は赤くなった顔をそらすと、グイっと嶺二の方に無理矢理向かされる。


『麗(れい)ちゃん。どうしてぼくがいつも君を気にかけるか知ってる?』
「え?」
『君が好きだからだよ』
「な、何の冗談…」
『冗談、だと思う?』


嶺二の瞳に吸い込まれそうなくらいに見つめられ、私は言葉を詰まらせる。



「ご、ご飯ご馳走様!私、帰る…っ?!」


どうしたらいいのか訳が分からなくなった私は、その場に立ち上がった。
すると急に腕を引かれ、バランスを崩した私は重力のまま倒れてしまい……。


『君を帰したくない』
「れい、じ…」


嶺二の腕の中に包まれていた。


『ぼくはズルくて、カッコ悪い男だよ。勿論、今日だって親切心でご飯をお誘いしたんだ。だけど、ぼくの部屋にいる君ともっと一緒にいたい。そう思ったらぼくの身体は勝手に動いてた』
「本当、に…?」
『うん。ぼくは君が好きだよ。どうしたら信じてもらえるかな?ねぇ、マイガール』


腰に腕を回され、互いの唇は触れるか触れないかの距離を保っている。


『君の返事、聞かせて?』
「わた、しは…」


急な出来事に頭がついていかない。
どうしよう。
こういう時ってどうしたらいいの…。


『…ごめん。ちょっと急ぎすぎたかな』
「え?」
『…ちゅっ。それじゃ寮まで送るから仕度しててね』


嶺二は私のおでこにキスをすると身体を離した。
嶺二の温もりが無くなった私の身体が物足りなさを感じる。


「嶺二、私…っ!」
『麗(れい)ちゃんごめん。ぼくって意外と臆病なんだ。今、君にフラれたら…』
「そうじゃなくて!」
『っ!?』


背中を向ける嶺二に私は抱きついた。
私の心臓、ドキドキしてる。嶺二にも聞こえてるんじゃないかなってくらいに。


「私、嶺二が思ってくれてるみたいに嶺二の事を好きかどうかはまだわからないけど…」
『…うん』
「でも、私ももっと嶺二と一緒にいたい」
『麗(れい)ちゃん…』
「だから、友達よりは親しくなりたい…かも」


そう言うと同時に、再び嶺二の腕の中に包まれた。


『後悔はさせないよ。誰よりも何よりも君を大切にする。愛してるんだ』
「ぅ…んんっ」
『好き。好きだよ麗(れい)』
「あっ…んん、れい…じ。まっ…」
『ごめん。やっぱり待てそうにないっ』
「やぁ…っ、んっ」


私の視界はだんだんとぼやけて、目の前が真っ白になり――…








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