短編

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『ピピーッ!!ゲーム終了ー!1年は片付けとモップがけ!2、3年は試合近いからストレッチをしっかりやってから上がるように!』


監督の言葉通りに各々行動していると、私のストレッチを手伝ってくれてたチームメイトが体育館の出入口を指さした。


『ねぇ麗(れい)。あれって一十木くんじゃない?』
「へ?」


私が振り向くと、それはもうスマイル全開の音也くんがこちらに手を振っていた。
まさかここまで来るとは…。

私は彼に告白されてから一週間、なんて会話をしたらいいのかわからなくて避けていたのだ。


「…あちゃー」
『何々?麗(れい)、いつの間に一十木くんと付き合ってたの?』
「ち、違うよ!そんなんじゃないから!」


からかってくるチームメイトから離れ、私は音也くんに話しかける。


「ど、どうしたの?」
『一緒に帰りたいなって思って待ってたんだ!上から練習の様子見てたけど、麗(れい)すっげーカッコ良かった!』
「…ありがとう///」


避けられてた事など気にする風もなく話しかけてくれる音也くんに少しの罪悪感。
けれど、面と向かってそんなことを言われ慣れていない私は恥ずかしくなって顔を背けた。
すると音也くんの後ろからトキヤがやってきて…。


『麗(れい)。それと…音也?貴方がなぜここにいるんですか?』
『なんでって、麗(れい)と一緒に帰ろうと思ったからだよ』
「あの…」
『そういうトキヤこそ何でここにいるの?図書委員なんでしょ?』
『今、その図書委員の仕事を終えてここに来ているのですよ。麗(れい)とはいつも一緒に帰っていますからね』
『じゃあ、今日からは3人で帰ろう!』
『は?どうして貴方が一緒なのです?』
『俺、麗(れい)に告白したから』
『っ!』
「えっ?」


笑顔でさらと言う音也くんに耳を疑った。
トキヤに言ってなかったのに!


『俺、フェアじゃないのは嫌だって言ったよね。だから、もう一度言うよ。俺は麗(れい)が好きだ。トキヤには負けないから』
『なっ!』
「えっとー」


普通の女子なら“私のために争わないで!”的な状況なんだろうけど、正直、私にとっては冷や汗しか出てこない…。
どうしてこうなったっ!?













『麗(れい)、話があります』
「……うん」



結局あの後、3人で一緒に帰ることになったのだが、音也くんは不機嫌オーラ全開のトキヤをスルーして私にずっと話しかけてきた。
ある意味、音也くんは凄い人だと思う。トキヤとのあの空気の中、全く気にすることなくいつも通りでいるのだから…。

しかし、音也くんとは途中で別れ、家に着くまでの間、トキヤと二人きりになったのだが言葉を交わすことは無かった。
だが、お互いの家に着き、また明日と言った私の声に被せるようにトキヤは言った。話があると…。


『何故です?』
「へ?」
『何故、音也から告白されたことを言わなかったのですか?私との約束は忘れましたか?』


そう、矢継ぎ早に質問をしてくるトキヤが、なんでそんなに必死になっているのかは分からないけど、兎に角、私の言い分も伝えることにした。


「確かに私は音也くんに…その、こ…告白、されたけど。付き合って欲しいって言われたわけじゃないし」
『そういう問題ではありません。何かあれば必ず言うように、そう私はいいましたよね?』
「だ、だけどさ!相手のプライベートな部分でもあるし、音也くんはただ自分の気持ちを知っておいて貰いたいだけだっていって…」
『そんなのは音也の策略に決まっています』
「っ!なんでそんなこと…っ」
『実際、音也にそう言われてどうです?貴女は彼を意識し始めたでしょう?』
「う…」


トキヤの言うことも一理ある。
実際に意識をしてしまったから一週間も避けてたわけで…。


『……ですか?』
「え?」
『だから!……貴女は音也の事が、好きなのですか?』
「なっ…!」


まさかトキヤからそんな事を聞かれるとは思わず、顔に熱が集中してしまった。


『そう、なのですね…』
「ち、違うよっ!そうじゃなくて!音也くんの事は、好きか嫌いかだったら確かに好きだけど、そういう“恋愛の好き”かって言うのは……わからない」
『……』


わからないよ。
だって、今まで異性をそんな風に好きになったことはないから。
私とトキヤは小さい頃からいつも一緒にいて、それが当たり前で。
友達からも“幼なじみなんて言って本当は付き合ってるんでしょー?”なんてよく言われるけど、私とトキヤはそう言う関係じゃない。

けど、もしもトキヤに彼女が出来たら、少し寂しいかもしれない。
そうなったら今みたいにトキヤと一緒にはいられなくなっちゃうよね。


「ごめんねトキヤ」
『…何がです?』
「分かったんだ。トキヤが不機嫌になってた理由…」
『っ!』
「私、トキヤに彼女が出来るまで私も彼氏作らないからね!」
『……はい?』


私はトキヤにそう言うとトキヤは額に手を当てて、ため息を吐いた。


『まったく貴女って人は…』
「ん?」


トキヤは“いえ、なんでもありません”と言うと自分の家の中に入っていった。


「え、ちょっ、トキヤっ!?自分から話があるなんて言っておきながら先に帰んないでよ!終わったなら終わったって言ってよね!」


トキヤの家のドアに向かって叫んだ後、私も自分の家に入ることにした。



――しかし次の日。トキヤは先に家を出ていた。
いつも朝は私を迎えに来てくれて、どんな喧嘩をした次の日でも一緒に登校していたのに。
仲直りのきっかけは、いつもトキヤがくれていたから。








『あ。麗(れい)おはよー!』
「音也くん…。おはよう」
『…あれ?もしかして麗(れい)、どこか具合悪いの?大丈夫?』
「あ、ううん。大丈夫だよ!…あのさ、トキヤ見てないかな?先に学校に来てるはずなのにいないから…」
『トキヤ?ううん。見てないよ』
「そっか…」


先生に呼ばれたわけでもなさそうなのに、どこに行ったんだろう。
それからトキヤは、朝のHRが始まる直前に教室に戻ってきた。
私は休み時間になったら、トキヤと話をしようと思っていたのだが…。





―キーンコーンカーンコーン。

「トキヤっ」
『……』


トキヤは私の呼び掛けを無視して席を立ち、教室を出ていった。
その後も何度も話しかけようとするけど、トキヤはチャイムと共に教室を出ていく。
正直、何が原因でこんなことになってしまったのか私には分からなかった。


『麗(れい)』
「あ、音也くん。どうしたの?」
『…トキヤと喧嘩でもしたの?』


音也くんは心配そうに私の顔を覗き込んできた。
私は必死で笑顔を作り、その場を誤魔化した。


「そ、そんなことないよ?なんか、今日のトキヤは忙しいみたい」


そう言うと、音也くんは“そっか”と笑顔で返してくれる。
こんなので誤魔化せたなんて思わないけど、今は音也くんの気遣いがありがたかった。


『それじゃ、さ。今日は二人で帰ろうか』
「…え?」
『トキヤ、忙しいんだよね?だったらきっと今日は一緒に帰れないよ』
「……うん」
『俺、後でトキヤに伝えておくね』


音也くんと一緒に帰る約束はしたものの、私の頭を過るのはトキヤの顔だった。
どうしてこうなっちゃったんだろう?












『ねぇ、麗(れい)。ちょっと寄り道してこうよ』


部活終わり、迎えに来てくれた音也くんは私の手を引いて公園の中に入っていった。
公園には遊具で遊ぶ子どもやゲーム機に顔を寄せ合って楽しそうにしている子どもたちがいた。
そんな光景に目を細めながら見つめていると、視界に缶ジュースが差し出された。


「うわっ」
『ごめんっ。ビックリさせちゃったね』
「ううん。でもこれ…」
『うん。あげる。部活を頑張った君にプレゼント。なんて』
「…ありがとう」


音也くんから缶ジュースを受け取って、二人で近くのベンチに座った。
暫しの沈黙の後、先に口を開いたのは音也くんだった。


『トキヤとさ、何があったの?』
「っ!」
『さっき、トキヤに“今日は麗(れい)と二人で帰るから”って言ったら“どうぞ”なんて言うからさ』
「…そう、なんだ」


なんだそれ。
昨日までずっと一緒に帰ってたのに急になんなの。
私が何かトキヤを怒らせるような事したのならそう言えばいいじゃない。
なのに、人が話をしようとしても避けるし、無視までされて私だっていい加減腹が立ってきたんだけど。


『麗(れい)…。なんか、怒ってる?』
「うん。トキヤにね」
『………あの、さ』
「ん?」


音也くんは私が持っていた缶ジュースごと両手を掴むと、ぐいっと顔を近づけてきた。



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