短編

□トライアングル
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高校生活2学期の始業式。
私のクラスに転校生がやって来た。


『一十木音也です!よろしくお願いします!』


第一印象は明るく元気で、笑顔が眩しい男の子だなと思った。


「ねぇトキヤー」
『なんですか』
「彼、一十木くんだっけ?転校初日から凄い人気者だねー」
『そうですね』


トキヤと私は小さいときからの幼なじみ。
トキヤはおじいちゃんの影響で昔から読者とクラシック音楽が大好きなんだって。
トキヤは読んでいる本から顔を上げないまま、私の話に相槌を打つ。


「ちょっとトキヤ。私の話、本当に聞いてるの?」
『えぇ、聞いてますよ。一十木音也が人気者。という話でしょう』
「そうだけど。てか、トキヤはもう少し他人に興味持ったら?」
『必要ありません。私は私なりの人付き合いをしていますし、それに…』
「それに?」
『私の傍には麗(れい)がいれば十分です』
「またそんなこと言ってー」
『事実を述べたまでです』


“麗(れい)がいれば十分”なんてセリフ、普通に聞けばときめいたりするんだろうけど、トキヤは昔っからこうなのだ。
せっかく眉目秀麗で生まれてきたのに、トキヤは自分の家族と私と私の家族以外に親しい人間を作らない。
彼女だって作ろうと思えば出来るだろうに(こんなに愛想がなくても何故かモテるからね)、そういう人も必要ないって言うし。


「はぁ。トキヤくんの将来が心配ですよ、私は」
『私は貴女の成績の方が心配です。2学期は1学期のような成績にならない様にしてくださいね』
「うっ…。相変わらず手厳しお言葉痛み入ります」


けれどトキヤは、厳しい事は言いながらも私が困ってたら“仕方ないですね”っていいながら助けてくれる。
本当は優しくて面倒見のいい奴なんだ。


「えへへ」
『なんですか急に。気持ち悪いですよ』
「ヒドっ!仮にも私は女の子だよ!」
『自分で“仮にも”と言っている時点でどうかと思いますが』

むむむ。
やはりトキヤには口で勝てる気がしない。
そう私はトキヤを睨みながらふて腐れていると、後ろから肩を叩かれた。


『ねぇ、君たち仲良いね。付き合ってるの?』


後ろを振り向けば、そこには一十木くんが立っていた。


「違うよ。私とトキヤは小さい頃からの幼なじみなの」
『…何か用ですか?』

『用っていうか、二人が楽しそうに話してるのが目に入ったからさ』


一十木くんは無邪気な笑顔でそう言った。
しかしトキヤは読んでいた本を閉じ、一十木くんを鬱陶しそうな目で見上げる。


『別に私たちが楽しそうにしていたからといって、何故貴方も一緒になって話す必要が?』
「ちょっとトキヤ…」
『俺、君達と仲良くなりたいんだ。友達になってくれないかな?』


トキヤのこの辛辣な言葉に物怖じしない人がいるなんて!

私は一十木くんを見つめる。
これはトキヤにも私以外の親しい人間を作るチャンスなのでは!


「一十木くんってイイ人だね。よし!友達になろう!」
『なっ!?麗(れい)、何を勝手に…っ』
『ありがとう!それじゃあ、俺の事は名前で呼んでほしいな』
『わかった!私は麗(れい)。こっちはトキヤっていうの』
『はぁ…』
『麗(れい)とトキヤだね。よろしく!』


音也くんはトキヤに右手を差し出しけど、トキヤはそれが見えなかったかのように本に視線を戻した。
私は居たたまれなくなって、音也くんを廊下へ連れ出す。


「全くトキヤは…。ごめんね。ちょっと愛想は悪いけど本当はイイ奴なの。気にしないでね?」
『うん。俺は大丈夫だよ!トキヤにも君にも、これから俺の事知ってもらえたらいいしさ』
「音也くん…」


君は本当にイイ人だ!
トキヤと音也くんが友達になれるように、私、応援するよ!













『麗(れい)』
「ん?なにトキヤ」
『あ!麗(れい)の弁当うまそーっ!この玉子焼きちょうだい?』
「しょうがないなぁ」
『ありがとう!パクっ…うん!美味しい!いいなぁ。トキヤは毎日麗(れい)の手作り弁当食べれるんだもんなぁ』
「良かったら今度音也くんにも作ってこようか?毎日は出来ないけど」
『え?いいの!?』
『麗(れい)!』
「ほぇ?」


始業式から数日後の昼休み。
屋上で私とトキヤと音也くんの三人はお昼ご飯を食べていた。


『何故、彼はここ数日一緒にご飯を食べているのですか?』
「何でって、音也くん友達でしょ?ダメだった?」
『…食事時に騒がしいのは好まないので』
『でもさ、やっぱりご飯は大勢で食べた方が美味しいし、楽しいよね!』
「だよねー」


そう言うとトキヤの眉間が皺を刻んだ。

一体何がトキヤの機嫌を悪くさせてるのかわからないんですが…。


―ピンポンパンポーン
“至急、女子バスケ部部員は職員室顧問の所まで集合してください。繰り返します。至急…”


「おっと。んじゃ私は職員室に行ってくるね〜」
『あれ?麗(れい)ってバスケ部だったの?』
「そうだよ〜。こう見えてもエースなのです!」
『へぇー。凄いじゃん!』
「てなわけで、また後でねー」


私は二人に手を振りながら、屋上を後にした。

しかし、相変わらずトキヤは音也くんと仲良くなる気配がないな。仲良くなるどころか、寧ろ敵視してる感じ?
確かにトキヤは煩い人も場所も嫌いだけど、音也くんはそんなに煩いかなぁ。


「んー。よくわかんない!」


今度、音也くんの事をどう思っているのかトキヤに聞いてみよう!うん!
そう考えを纏めると、私は職員室に急ぐのだった――。









『俺も何か部活に入ろっかなぁ』
『………』
『トキヤ、聞いてるー?』
『独り言ではなかったのですか?』
『違うよー!トキヤに言ってたよ俺』
『そうですか』
『…トキヤってさ、俺の事、嫌い?』
『…好きではありません』
『はっきりいうね。でも俺はトキヤの事好きだよ』
『…』
『麗(れい)の事も、好きだよ』
『っ…』
『トキヤってさ、麗(れい)の事好きだよね』
『…幼なじみですからね』
『幼なじみだから、だけ?』
『何が言いたいんです?』
『俺は女の子として好きだよ、麗(れい)のこと』
『…それを私に言ってどうするんですか?』
『言わないでいるのはフェアじゃないかなって』
『私には関係ありませんよ。そもそも私と貴方のスタートラインは一緒じゃない』
『へぇ。宣戦布告ってやつ?』
『どうでしょう』
『俺、負けないからね!』
『勝負にすらならないと思いますが』





―なんて会話が二人の間で繰り広げられてるとは露知らず。


そして放課後―…

昼休みに顧問から今日の練習が急に無くなったことを聞き、私はこの後の予定をどうしようか考えていた。


「そだ!トキヤは図書室にいるよね!」


図書委員をしているトキヤは、放課後も下校時間になるまで図書室に毎日いる。
まぁ、その理由も“静かに本が読めるから”らしい。


「おっ。トキヤ、いたいたー」
『図書室ではお静かに』
「まだ煩くしてないよーだ」
『声が大きいんですよ』
「すみませーん」


いつものやり取りをして、私は定位置の場所に座った。
受付の斜め前にあるテーブルのトキヤに近い席。そこが私の定位置で、ここに座っているとトキヤの姿が良く見える。
トキヤはカウンターに座りながら読書をしているので、私はいつものごとく終わる時間まで寝て待つことにした。
ちょうど夕日が射し込むこの時間は眠気を誘ってくれる。


「…すぅ…すぅ…」


私は数分で眠りに落ちた。
意識は既に夢の世界へと羽ばたいて―…


『麗(れい)…』


遠くでトキヤの声が聞こえた気がした。
だけど、瞼が重たくて微かに聞こえるトキヤの声に、私は返事をすることが出来なかった。


――ちゅっ…


唇に柔らかい何かが触れた。
私は重かった瞼を開くと、目の前にはトキヤがそこに立っていた。


「トキ…ヤ?」
『いつまで寝ているのですか?帰りますよ』
「へ?あれ?もうそんな時間?」


どうやら私はうたた寝どころか爆睡していたらしい。


「ねぇねぇ、トキヤ!私、いびきしてなかった?」
『そんなものしていたら、即刻叩き起こしています』
「だよねー。あ、ヨダレついてないかな」
『…はぁ。ついていませんよ』


トキヤは私に背を向けて、スタスタと先に進む。
見間違いかな?トキヤの耳が少し赤い気が…


「ねぇトキヤ」
『今度はなんです?』
「私が寝てたとき、なにか…した?」
『……』
「トキヤ?」
『夢でも見てたんじゃないですか?私は時間までずっと本を読んでいましたからね』
「そっか。それならいいんだけど」
『(…単純で助かります)』


私の気のせいだよね。
トキヤが私に、キス…なんてするはずないし。

けれども唇に確かに残る感触が、私の胸をざわつかせたのだった――…








to be next♪
 

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