短編

□優しい王子様とオカンな騎士
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『麗(れい)ーーーっ!!』


それはとある日の昼下がり。
真斗くんは普段のキャラに似合わないくらい大きな声を出して私の名前を叫んでいた。


「な、なに真斗くん?」
『なに、ではないぞ!お前はまたレポートを真っ白で出したのだろう!』
「…なーんのことかなぁ?」
『しらばっくれても無駄だ。月宮先生が頭を抱えられてたぞ。作曲の才能は素晴らしいのにレポートの課題になると一切手をつけないなど…。お前は一体何を考えているのだ?』
「え?真斗くんが褒めてくれてる?」
『俺が言いたいのはそこではない!』


昼休憩で机に伏せて、昼寝タイムをしていた私は目の前の真斗くんの気迫に圧倒されてしまった。
どうしよう。誰か助けてぇ…。
するとそこに救世主が現れた。

みんなの王子、来栖翔サマが。


『聖川に麗(れい)。何かあったのか?』


“廊下まで聖川の声が丸聞こえだったぞ?”といいながら傍に来てくれる翔ちゃん。


『来栖。お前からも言ってやってはもらえないか?麗(れい)がまたレポートを白紙で提出したのだ』
「だって、譜面おこしとか楽譜を書く以外の筆記ってめんどくさいんだもん。“この曲を聴いて何を感じ、自分ならどうするのか”とか“この作曲家の想いは何か”みたいな抽象的な事きかれたってわかんないし、書きようがないんだもん。だから白紙で出したんだぃ」
『それも勉学の1つであろう!だいたいお前は…っ』
『ま、まぁまぁ聖川。誰にだって得意不得意はある…』
「さすが翔ちゃんっ!」


私はフォローをしてくれる翔ちゃんに抱きついた。
あれ?翔ちゃん、顔が真っ赤だけど風邪でも引いた?ま、いっか。
そうだよ!誰にだって得手不得手はあるんだよ!
そう思って真斗くんを見つめると、真斗くんは盛大なため息をついた。


「あ。真斗くん、ため息つくと幸せが逃げちゃうよ?」
『誰のせいだと…まぁ、いい。お前が反省もせず、そのままでいると言うのならば俺にも考えがある』
「?」
『15時のおやつは今度一切無しだ』
「えぇぇーーっ!?」


真斗くんが作るお菓子やご飯は絶品で、一度食べさせてもらった時に“すっごく美味しいね!また食べたい!”と言うと、真斗くんは頬を染めながら“ではお前のために毎日作ってこよう”と言ってくれた。

それから真斗くんは15時のおやつを作ってきてくれる様になった。でもそれが今度一切無くなる…。


「や、やだよ真斗くん!それだけはご勘弁をっ!!」
『ダメだ。努力をしない者を俺は甘やかさない』
「うぅ…。翔ちゃ〜ん…」


救いの目を翔ちゃんに向けると、苦笑いをしながらポンと私の頭の上に手を置いた。


『なぁ麗(れい)。確かに人間、得意不得意はあるけどな、それとやるやらないは別の話だ。苦手だからやらないんじゃなくて、先ずはやってみねーか?』


翔ちゃんは私の頭を撫でながらそう言ってくれた。


「うーん」
『麗(れい)、来栖の言う通りだぞ。苦手なものだからとやる前から諦めるな。お前ならできると俺は信じている』
「でも…」


やっぱり苦手なものは苦手だ。
やる気が出ないのだからしょうがないじゃないか。
私はう〜んと唸っていると、真斗くんが私に目線を合わせて優しい笑顔を向けてきた。


『麗(れい)、ならばこういうのはどうだ。今回のレポートを頑張ったら、お前の好きなものを何でも作ってやろう。そしてこれからも苦手なレポートを完璧じゃなくていい。きちんとやり遂げると約束するならば、15時のおやつも毎日作ってこよう』
「……本当に?」
『あぁ。男に二言はない』


真斗くんは約束したことは絶対に守ってくれる人だ。
それに、私の好きなものを何でも作ってくれる…。


『俺もこれからお前がレポートから逃げないで頑張るなら、今度一緒にショッピングに行って好きな服買ってやる。ネイルケアもしてやるよ。お前、前からネイルに興味あっただろ?』
「え!いいの!?」
『あぁ、いいぜ。但し、約束はきちんと守ってもらうけどな』


眩しいくらいの男気溢れる翔ちゃんの笑顔に、私もやる気が湧いてきた。


「うん!私、頑張るよ!よぉーし、私の本気をみせてやろーじゃないの!」
『おしっ!イイ心がけじゃん。レポート、俺も手伝うぜ!』
『俺も手伝おう。今日の放課後、Aクラスに集合だ』
『おう!』
「うん!」


こうして私はレポートを翔ちゃんと真斗くんと一緒にやることになった。
一人でやるよりは捗るだろうし、何よりレポートを提出したら二人からご褒美がもらえるんだもん。これは頑張らないとね!


『…翔もマサもさ、いつも思うんだけど、何だかんだ言って麗(れい)に甘いよね』

『そうですねぇ。でも麗(れい)ちゃんはやれば出来る子ですから、二人とも応援したいんですよぉ』
『うん。まぁ、ちょっと違う気もするけど…』


そんな音也となっちゃんの会話は露知らず、私は放課後に向けて意気込んでいた。














『なぁ。ここなんだけどよ。俺はこうだと思うんだけど』
「え?どこどこ?」
『いや、俺はこうだと思うぞ。これは少々ニュアンスが違うと思うが…』
「え、ちょっと…」
『でもよ、これならやっぱりこうじゃね?』
『うむ。しかし、これだとここが…』
「だぁぁぁーーっ!!二人とも私を挟んで討論しないでよ!てか、もはや私のレポートじゃなくなってるよこれっ!」


結局、二人がいることで逆にレポートが進まず、私は自分の部屋で静かに課題をやることになるのだった―…






End♪

 

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