短編

□バレンタインKISS
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『麗(れい)ー!』
「どうしたの音也。今日はいつもに増してスマイル全開だね」
『うん!だって今日はバレンタインだからさ!』
「……あ」


今日ってバレンタインだったのか。
最近、仕事が忙しかったからすっかりと抜けてたよ…。


『…もしかして、忘れてた?』
「あー、うん。ごめん」
『そんな…っ!』


音也はガクッと音がしそうなくらいに床に膝をつき、項垂れてしまった。


「お、音也?」
『俺、君からもらうチョコすっごく楽しみにしてたんだ…。本当に楽しみにしてて今日はご飯も食べてなかったんだ…』
「えっ?そこまで…?」


時計を見れば12時を既に回っていた。


『でもいいんだ。俺が勝手に期待してただけだから…』
「えーっと…」


音也はそう言うが、彼のお腹からは“ぐぅ〜”と催促するかの様に空腹を訴えている。

…うん。本当にごめん。
何か音也にあげられる物はないかと私は冷蔵庫を開ける。
が、仕事で料理をする時間もなければ買い物をする時間もなかったため、冷蔵庫の中はほぼ空っぽに等しかった。
続いて私は自分の鞄の中を覗いてみる。
いつも非常食に何かは入れてる筈なんだけど…。


「…っと、あったあった!」
『……なに?』
「イチゴ味のガム!」
『ガム…』
「ガ、ガムを噛むとね糖分も少し摂取できて、噛んでいることによって満腹中枢ってのが刺激されるんだって。だから音也がガムを噛んでる間にチョコ買ってくるから!ね?」
『……だ』
「へ?」
『俺、買ってきたチョコが食べたいんじゃないよ!麗(れい)の手作りがいい!』


潤んだ瞳でこちらを見上げる音也に不覚にもドキッとした。
なんで音也は男のくせに女子スキルが高いんだ!


『…ダメ、かな?』
「うっ…。手作りだと時間かかるよ?」
『大丈夫!ちゃんと待てるよ俺!』
「う、うん」


音也の気迫に根負けした私は、近くのスーパーへ買い物に行くことにした。


「って言っても出来上がりにあまり時間のかかるものは作れないから…」


私は携帯のネットを使って出来るだけ直ぐに作れるものを探し、適当に材料を買って寮に戻った。


「ただいま〜…あれ?」


いつもなら“おかえりー!”と出迎えてくれる音也が、何も言わないなんて。
不思議に思いながらも部屋の中に入ると、音也はソファに横になって寝息をたてていた。



「もぅ。こんなとこで寝てたら風邪ひいちゃうよ?」
『ぅ〜ん…ムニャムニャ…』
「…可愛いなコノヤロ」


音也の頬っぺたを突っつくと“もぅ食べられないよ〜”なんて寝言を言ってるし。


「てか、私より肌がキレイなんですが」


軽く嫉妬するレベルですよコレは。
でも音也が寝ているのなら好都合。作ってる最中に抱きつかれたり、構ってだなんだって騒がれなくてすむからね。
私は買ってきた物をキッチンに持っていき、お菓子作りを始めた。






『…ん、んん〜っ。ってあれ?俺、寝てた!?』
「おはよ。よく寝てたね」
『麗(れい)!え?あれ?今、何時?』


寝癖をつけたままの音也は、時計を探してキョロキョロする。
こういう仕草一つ一つが可愛いなと感じる自分は思っている以上に音也のことが好きらしい。


『って、うわ!もう3時過ぎてる!俺、結構寝てたんだね。起こしてくれてもよかったのに』
「気持ち良さそうに寝てたし、音也だって仕事で疲れてるんだからいいの。お菓子はちゃんと作ったからね」


私は音也の目の前にガトーショコラを置いた。


「お菓子はわりと早くに出来てたんだけど、音也が起きるまで待ってようと思って」
『ありがとう!めっちゃ旨そう!』
「どうぞ召し上がれ」
『いっただきまーす!』


音也は目をキラキラさせながら食べ始めた。
お菓子を作るのは初めてだったんだけど、ネットで調べた通りに作ったから失敗はしてないと思うけど…。


「味、どうかな?」
『美味しいよ!えへへっ、麗(れい)の手作りだから愛情たっぷりだね』
「な、なに言ってんのっ。だいたい私は音也のワガママを聞いただけで…」
『うん。だからさ、俺のワガママを聞いてくれるのは俺の事が好きだからでしょ?』
「なっ///」


なんで音也って平気でこういう事が言えるの?
私は音也の直球な言葉が恥ずかしくて顔を背けた。
私がそういう事を言われるのが苦手なのをわかってて言うんだから質が悪い。



『ねぇ麗(れい)。こっち向いて』
「なに…、んっ!?」


音也に呼ばれて顔をあげると同時に唇を塞がれた。もちろん音也の唇に。


「ふっ…ぅん…んっ」
『ん…っ、ん…』


最初は触れるだけのキスをされていたのだが、しつこくされる内に呼吸がしづらくなって、口を少し開いた。
音也はそれを待ってましたと言わんばかりに私の口内に自分の舌を滑り込ませ、深い口づけを与えてくる。音也にキスをされる度に、私の口内にもチョコの甘さが広がっていく。
息ができなくてクラクラしているのか、音也からの甘いキスに酔っているのか、私にはもうわからなくなっていた。


「おと…やぁ…ふ、んっ…くる、し…っん」
『ん…っ、まだ、だめ…んっ…』


それから何分間キスをしていたのか、私はすっかり酸欠になってしまい、音也に寄りかかりながら肩で息をしていた。


『麗(れい)、ごめん』
「……ばか音也」
『うん。君が好き過ぎて止まらなくて。…好き過ぎて辛いってあるんだね』
「…本当にばか、だね」


だけど、嬉しい。
音也のまっすぐな愛情が私の心を満たしていく。


「……好き」
『麗(れい)…』


バレンタインのキスはいつものキス以上にとても甘い。
私は音也の唇に触れるだけのキスをして、音也を抱きしめる。


「大好き、だよ」
『〜っ!俺も麗(れい)がだいだいだーい好きーっ!』
「う゛」


音也の気持ちは嬉しいけど、もう少し優しく抱きしめて欲しいかな。
ま、なんだかんだ言ってても、結局音也に惚れてるのは自分なんだよね。


「ふふ」
『どうしたの?』
「んー?なんかさ、今すっごく幸せだなぁって思った」
『へへっ。俺も思ってたよ!麗(れい)が隣に居てくれるだけで嬉しくて、こうやって触れあえば幸せな気持ちになるんだ。俺たちって相思相愛だね!』
「だね」


私は音也の腕の中に包まれながら、チョコレートのような甘い幸せを噛みしめていた。






End♪

 

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