短編

□太陽のような光
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『麗(れい)ちゃん、おはよんっ♪』
「嶺ちゃん。おはよー」
『麗(れい)おはよっ!んーっ、今日もイイ匂い〜』
「ちょっ、音也!毎朝抱きつかないでよ!」
『いいじゃん!減るもんじゃないしー』
『うんうん。麗(れい)ちゃんとおとやんはいつも仲良しだねぇ。おにーさん少し妬けちゃうなぁ』


――これが私たちの日常。

私と音也、そして嶺ちゃんは小さいときからの幼なじみだ。

音也と私は同い年で、嶺ちゃんは7つ上。
今、社会人になった嶺ちゃんの元で私と音也は居候をさせてもらっている。
私たちが親元を離れることを決め、高校を卒業するまでの三年間、嶺ちゃんは私と音也と一緒に暮らすことを嫌な顔ひとつせず了承してくれた。

どんな時も笑顔を絶やさず、優しくて、頼りになる嶺ちゃんの事が私は昔から大好きだった。


けれど、私のこの想いが報われることはけしてない。だって…


―♪〜♪

『おぉっと。ぼくちんの携帯だね』


嶺ちゃんの携帯から鳴っている着信音。
コレは嶺ちゃんの彼女からの着信を知らせる音だ。


『はいはーい。愛しのマイガール♪どうしたのかなぁ??』
「…嶺ちゃんと彼女さんってホントに仲良いよね」
『うん…』


私は自分の気持ちを嶺ちゃんに伝えるつもりはない。
想いを伝えても報われないっていうのもある。それに何より、今のこの関係が壊れてしまう事が怖い。
嶺ちゃんに想いを伝えてしまったら、きっと今まで通りにはいられないから。

けれど、現実は辛い。
嶺ちゃんの彼女さんといるときの幸せそうな笑顔や声を聞くと胸が苦しくなる。
切なくて、本当は泣きたいくらい悲しい。
でも大好きな嶺ちゃんに幸せになってほしいっていう気持ちもある。
矛盾するこの感情が胸の中をいつもモヤモヤさせる。


「学校、行こっか。嶺ちゃんもこれから彼女さんと会うんだろうし」
『うん、そうだね。』


音也にそう言い、私達は学校に向かう。まだ電話中の嶺ちゃんには、ジェスチャーでいってきますと伝えて。






『ねぇ。麗(れい)はまだれいちゃんの事…』
「好きだよ」
『そっか…』


音也は私が“大きくなったら嶺ちゃんのお嫁さんになる!”っていう小さい頃からの夢を知っている。


『でも嶺ちゃんは…』
「わかってるよ!!」
『……』

「……どんなに頑張っても嶺ちゃんに妹としてしか見られてないって事わかってるよ。なんでそんな事言うの?後1年で私たち卒業するんだよ?卒業するまでこのままでいさせてよ」
『でも俺、麗(れい)の事見てられないよ…』


音也は人目も憚らず、私を抱き締めてきた。
小さいときは楽しいこと、嬉しいこと、何か悲しいことがあった時はお互いに感情を共有するかのようにギュッと抱き締めあっていた。
だけど今のはそういうのじゃない。共有するものはない。

私は音也を突き飛ばした。


「…っ!やめて!」
『…っ』
「……嶺ちゃんに見られたら勘違いされちゃうから」
『されればいいじゃん!!』


やめて。慰めなんていらない。
私はこの気持ちを自分の中で消化できるまで、大事にしておきたいの。
例え辛かったり悲しかったりしても今はまだ…。


『麗(れい)、俺…っ』
「もう何も言わないで。今日、学校休むから」
『…休んでどうするの?』
「ほっといてよ…」
『ほっとけるわけないだろっ』


音也は私の腕を掴むと何処かへ向かう。
掴まれた腕が痛くて、振りほどこうとするけどほどけない。
昔は体格も力も大差なかったのに、大きくなれば男と女はこんなにも違うものなのかと実感させられる。
そんなことで何故だが音也とも距離が離れてしまったような気持ちになって、私は俯き、ただ黙って音也についていった。







「音也。ここって…」
『ん?公園だよ』
「そうじゃなくて…」
『うん。よく昔はこの公園で三人で遊んだよねー』
「……うん」


音也に連れてこられたのは、昔、嶺ちゃんと私と音也でよく遊んだ公園だ。
嶺ちゃんは中学生になっても、高校生になっても私たちと一緒に遊んでくれていた。
普通の兄弟や姉妹でも7つも年が離れていたら一緒に遊ぶなんてことなかなかしないだろうに、嶺ちゃんは高校生を卒業するまで私たちと一緒にいてくれてた。

その思い出が懐かしくて、なんだか胸がくすぐったくなった。


『麗(れい)!ブランコ乗ろうよ!』
「恥ずかしいよ。もう高校生だよ私たち」
『いいじゃん!この時間じゃ誰も通らないよ』
「えー?」


私は音也にそう言いつつも、好奇心が勝って結局ブランコに乗ることにした。


『俺も久しぶりにブランコに乗ったけど、やっぱり楽しいね』
「そうだねー」

『なんだかさ、このまま飛んでいけそうだよね!』
「って言って、本当に飛ばないでよ?」
『わかってるよ!俺だってそこまで子供じゃないよ!』
「ふふ。どうだか」


ブランコの一定のスピードで風に揺られていると、なんだか心地よくなってくる。
しかし、私の隣でブランコを漕いでいた音也は、いつのまにかブランコを漕ぐのを止め、こちらを見つめていた。


『あの、さ…』
「なに?」
『さっきの話の続きだけど』
「………」
『俺、昔から麗(れい)がれいちゃんの事が好きなの知ってるし、俺だってれいちゃんの事が大好きだよ。俺もれいちゃんの幸せを願ってるけど、それは麗(れい)を悲しい思いにさせることになる』
「…そんなこと、音也が気にしなくてもいいのに」
『俺が嫌なんだ!俺は麗(れい)の事も笑顔で幸せにしたいんだ!』
「……音也?」
『れいちゃんは男の俺から見たってカッコイイし、優しくて頼りになる人だって思うよ。だから敵わないって思ってた。麗(れい)がれいちゃんを好きになっても仕方ないって…』


音也はブランコから立ち上がり、私の前まで来るとそのままもう一度私を抱き締めた。
抱き締めている腕がさっきとは違って微かに震えている。


『麗(れい)が好きだよ。れいちゃんみたいな男になるにはまだ時間がかかるかもしれないけど、俺が麗(れい)を笑顔にしたい。麗(れい)の事が大切なんだ』
「え…」


まさか音也にそんな風に想われてるなんて思ってもいなかった私は、抱き締められながら頭の中は混乱していた。


「ぇ、っと…あの…」
『今はまだ!』
「は、はい!」
『…まだ、返事はしないで。ただ知っていてもらいたかったんだ。俺の気持ち』
「……」
『俺は諦めないよ。麗(れい)を幸せに、笑顔にしたいから。悲しいときは傍にいる。泣きたいなら胸を貸すよ。れいちゃんを好きでいいんだ。無理に忘れようとしなくていいから、ただ傍に…俺を麗(れい)の傍にいさせてよ』


苦しそうな、泣き出しそうな音也に私はただ頷いた。
すると音也は抱き締めていた腕の力を強めた。
―…私はずるい。
本当は誰かに甘えたかった。
どんなに強がっていても、嶺ちゃんを好きでいるのが苦しかった。…辛かった。
このまま音也の手を取ってもいいのだろうか。

わからない。もう何も考えたくない。
目の前にある、この太陽のように眩しい光にすがってもいいのだろうか。


『麗(れい)……好きだよ』


私は何故だが涙が溢れていた。
音也に身を任せながら、頭の片隅に嶺ちゃんの笑顔を思い出していた―……










End♪

 

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