短編

□初日の出
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年越しライブを終え、楽屋で帰り仕度をしていたら音也から着信が入った。


「はぁ?これから初日の出?」
《そう!麗(れい)さんも一緒に行こうよ!》
「やだよめんどくさい。それに私はアンタ達みたいにもぅ若くないんだから」
《若くないって、麗(れい)さん俺と3つしか変わんないじゃん》
「その3つが大きいんですー。てか、まさかアンタ達全員で初日の出見に行くつもりなの?」
《そだよー。なんで?》
「なんでって、仮にもアイドルが集団で動いたら目立つでしょ」
《大丈夫だよ!だって俺達が行くのは…》












「……なるほどね。確かにココなら大丈夫だわ」


そう。私は今、初日の出を見るべく後輩メンバー6人と神社に来ていた。
ま、その神社っていうのが、シャイニング早乙女の所持している敷地内にあって、周りには芸能関係者オンリーというわけ。
しかし、仕事が終わって折角ゆっくり出来ると思ったところに、結局、仕事関係者と顔を合わせなくちゃいけないというのはやはり面倒だ。


「あーもー。やっぱり帰ろっかな」
『えー?折角来たんだから初日の出見てこーよー』
『そうっすよ!麗(れい)さん寒くないっすか?俺、カイロ持ってますよ!』
『翔ちゃん大丈夫ですよぉ。僕が麗(れい)ちゃんをぎゅってしますから』
「…分かりましたよ。帰りません。だから音也は私の服の裾引っ張らない。翔も那月もありがとう。心配しなくても大丈夫だから」


後輩たちのこういう所は可愛いなと思う。よく分からないけど、なつかれてるし。
まぁ、しつこい所がたまに傷だけどね。


「でも、アンタ達も来るなんてなんか意外だね」
『ん?そうかな?』
『この時間に他に予定も無かったので』
『私は音也に無理矢理連れてこられました』
『な!トキヤの嘘つきーっ!麗(れい)さんが来るって知った瞬間に行くって言ったのはト…っ』
『黙りなさいっ!!』


何故だか慌てたトキヤは、音也の口を手で覆った。とゆーか音也の鼻も一緒に塞いじゃってるけど大丈夫?


『ん゛ーっ!!』
「トキヤ、その辺にしてあげないと音也が新年早々に窒息死した、なんてニュースが新聞の一面を飾っちゃうって」
『…仕方がありませんね。いいでしょう。音也は今後一切余計なことは言わないように!』

『ぷはーっ!わ、わかったよ』


うん。音也が無事トキヤから解放されてよかったよ。


『麗(れい)さんは相変わらずモテるねぇ』
「レン。私がモテる?なんで?」
『気づいてないならいいさ。ところであっちで甘酒を配っていたから一緒に飲みにいかないかい?』
「ホント?行こう行こう!」


レンは私の腰に手をまわしてくるけど、日常茶飯事だから気にしない事にしている。
だけど、私の腰にまわしたレンの手を真斗が引き剥がした。


『神宮寺貴様…。性懲りもなく皇(すめらぎ)先輩に無断で触れることなど、この俺が許さん!』
『なんだよ聖川。それはお前が麗(れい)さんに触れることが出来ないから妬いているってことか?』
『なっ!?ち、違う!!俺を貴様のような不貞な輩と一緒にするな!』


真斗とレンは顔を合わせる度に喧嘩をするのだから近づかなきゃいいのに。
ま、なんだかんだ言っても互いを認め合ってるライバル、なんだろうね。
けど、この寒空で二人の言い合いをいつまでも眺めているわけにもいかない。
翔は那月の相手で色々大変そうにしてるし、トキヤは音也が私を構おうとしてくるのを制していたり…と、本当にユニットを組んでるんだよね?って思うんですが。


「さて、二人とも喧嘩はその辺にして甘酒飲みに行くよ。いい?」
『…すみません』
『オーケィ』
「那月も翔を困らせてばかりいないでちゃんと団体行動は守りなさい」
『わかりましたぁ』
「翔はお疲れさま」
『あ、や、そんなことっ…ないっす』
「音也は楽しいのはわかるけど、少しは静かにしなさい」
『はーい』
「トキヤもお疲れさま。でも、そんなに音也を止めなくても私は気にしてないからいいのに」
『いえ、それは…』
『??』


トキヤが俯いたまま黙ってしまった。
何か変な事言ったかな、私。


『麗(れい)さん。イッチーはね、イッキが麗(れい)さんを構うのが面白くないんだよ』
『レンっ!!』
「?…そう、なんだ?」
『ちなみに言うと、俺も麗(れい)さんが俺以外の誰かと一緒にいるだけでも妬いてしまうけどね』
『僕も麗(れい)ちゃんが大好きですよぉ』
『な、那月てめぇっ!何、レンに便乗してやがんだよ!』
『えー?それじゃあ翔ちゃんは麗(れい)ちゃんのこと好きじゃないんですかぁ?』



なにやら今度は翔がゆでダコの様に赤くなってしまった。
口をパクパクさせながら、目も泳いでる。


「翔、大丈夫?顔が凄い赤いけど風邪でもひいたんじゃ…」
『いやっ、大丈夫っす!!こ、この通り元気なんで!』
「そう?ならいいんだけど」


兎に角私と後輩たちは、身体を暖まらせる為に甘酒を配給している場所へと向かった。


『うわぁ。やっぱり境内に入ると人がたくさんいるね!』
「ホントにね…。あ、あそこで甘酒配ってるみたい。私取りに行ってくるけど皆も飲むでしょ?」


後輩たちに声をかけると、全員がついてこようとしたので流石にそれは止めた。
年下とはいえ、こんなイケメン達が群れをなして行動していたら悪目立ちするじゃないか。
私は真斗とトキヤに声をかけ、甘酒を取りに行った。


「すいませーん。甘酒7つくださーい」
『しかし、思ったよりも人がいますね』
『そうだな。もしかしたら黒崎先輩たちも来ているのだろうか』
「…っ」


真斗の言葉に反応しそうになった私は、出来るだけ平静を装った。
だって蘭丸たちが来ているとしたら、アイツも間違いなくいるはずだから…。


「と、とりあえず早く皆のところに行こうか。折角の甘酒も冷めちゃうし」
『皇(すめらぎ)さん…?』
『皇(すめらぎ)先輩?』


私は真斗とトキヤにも甘酒を持ってもらい、皆のいる所へ向かった……のだが。


「…って、なんでアンタがここにいるのよ嶺二!!」
『ありゃ〜?麗(れい)ちゃんも初詣に来てたんだねー?嶺ちゃんビックリ!』
『3人を待ってる間にれいちゃんが来たんだけどさ…』
「…嶺二、なんで1人なの?」
『そうなんだよ!聞いてくれる!?ぼくちんがちょーっと目を離した隙にアイアイもランランもミューちゃんも居なくなったんだよ!困ったよねー。3人して迷子になってるんだからさ』
『寿さん、それは…』
『れいちゃん、それって…』
「アンタが迷子になってんでしょうがっ!!」


呆れた。ホントに25歳なの?
とりあえず携帯で連絡をしたのかと聞けば、携帯を寮に置いたままらしい。
これはもう溜め息しかでない。
しかし、嶺二が連絡を取れなくてもここには彼らの後輩たちがいる。
レンが蘭丸に連絡をしてくれて、3人が嶺二を迎えに来てくれることになった。


『えっへへー。皆、めんごめんご!』

『まったくです』
『ね!れいちゃん達も初日の出見に来たの?』
『そだねー。アイアイとミューちゃんが初日の出を見たことがないっていうからさ。折角だから一緒に見に行こう!ってね』
『へぇー。藍の奴、初日の出に興味あったんだ』
『とゆーか、半分はぼくが無理矢理?連れてきたんだけどね!えっへん!』


全然威張れないし。
てか、誘った本人が迷子とかとんだ迷惑じゃん。


『しかし、黒崎先輩もこういったことに興味をお持ちだとは思いませんでした』
『あ、ランランはね、甘酒がタダで飲めるからついてきただけだよ』
『黒崎先輩…』
『ランちゃん…』
『『(そこまでして節約をしているのか…)』』
『けど、ぼくちんは納得いかないんだよなぁ』
『どうしたんですかぁ?』
『だーって、最初に麗(れい)ちゃんに初日の出見に行こうって誘ったのはぼくなのに、断られたんだもんっ』
「…めんどくさかったから」
『でもでも!今おとやん達と来てるじゃん。ぼくちんプンプンだよ!』
「だってそれは…っ!」


私は言いかけて止めた。
こんなこと言ったってしょうがないし、私の気持ちは誰にも言うつもりはない。


『なになに?言いかけて止められると嶺ちゃんすっごく気になっちゃうんだけどなー』
「…なんでもないってば」
『えー?気ぃーにーなーるぅー…いてっ!!』
「もう!うっさい!ほら、蘭丸たち来たよっ」


私の周りを行ったり来たりしていた嶺二を叩くと、視界の端に映った蘭丸たちを指さした。


『ちぇ、仕方ないか。んじゃ、後で麗(れい)ちゃんにメールするからねん!』
「し、しなくていいし」
『ではでは後輩諸君もまたね!今年もよろしこー♪』


騒ぐだけ騒いだ嶺二は蘭丸たちのところへ戻っていった。
嵐のように去っていった嶺二を見送ったが、私の心臓はまだ少しドキドキしていた。


「ふぅ…」
『大丈夫ですか?』
「え、何が?」
『顔が…』
「顔…?」
『いえ、なんでもありません。それより甘酒、冷めてしまいましたね』
「あー!!もぅ!これも全部嶺二のせいだ!後でボロクソ文句言ってやるっ」


新年早々、嶺二に振り回されるなんて…っ。
ホント、なんでアイツのこと好きになったんだろ私…。






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