短編

□私の王子様
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とある日の放課後――


『で、結局のところおチビちゃんはレディの事どう思ってるんだぃ?』
『…んだよ、いきなり』


………。
これは、聞いてはいけないお話ではないでしょうか…。

日向先生に頼まれ事をしている間、教室で私を待っていてくれた翔くん。
私が教室に戻って来るとそこには翔くんの他にレンくんも居て…。


『おチビちゃんのパートナーのレディだよ』
『そんなことわかってるよ。俺が言ってんのは、何でいきなりんなことをお前に言われなきゃいけないわけ?』
『レディはとても魅力的だからね。あの作曲のセンスに容姿も愛らしくて天使の様だ。純粋で素直なメロディー。あの小さな手で奏でられる曲には誰もが魅力されるよ。そんなレディとパートナーなおチビちゃんは彼女をどう想ってるのか、それが気になってね』


ど、どうやら私の話をされてるみたいです。
だけど、まさか私の曲がレンくんにも褒められるなんて。
少し自信がつきました!


『おチビちゃんはレディの事なんとも思ってないのかな?』
『なんともって…』
『パートナー以上に、てこと』
『………』


えーっと…。
とりあえずもう少ししてから教室に来ようかな。うん。
そう思い、踵を返そうと動いた私は、そういう時に限って教室の扉に足をぶつけてしまった。


―ガタンっ


『誰だっ!?』
「…………わ、私です」
『麗(れい)っ?』


これは気まずい。非常に気まずいです。
この空気をどうにかしなくては…。
だけど、何といったらいいのかわかりません。


『麗(れい)、今の話聞いて…』
『やぁレディ。日向さんのお使いは終わったのかな?』
「あ、はい」


翔くんが何か言う前にレンくんが私の方に近づいてきました。
そのまま私の肩を抱くと方向転換。


『俺もちょうどレディに用があったんだ。少しいいかい?』
「あ、でもこの後は翔くんと練習…」
『大丈夫大丈夫。おチビちゃんにはさっき話をしてあるからさ』
『おいレン!何、勝手なこと言って…っ』


レンくんは私の背中を押すと、そのまま中庭まで連れていかれる。
レンくん、どうしたんでしょうか??いつもと雰囲気が違うような…。


「あのー、レンくん?」
『急にすまないねレディ』
「いえ…」


本当にレンくんの様子がおかしい…。
は!もしかして那月くんのお菓子を食べてしまったとか!
あ、でもレンくんは那月くんのお菓子を食べても平気なんでした。
では、一体…?

私が一人、悶々と考えていると背を向けていたレンくんがこちらを振り向いた。


「レディ」
『は、はい!』


『レディはおチビちゃんの事……』
「…翔くん、ですか?」
『いや、おチビちゃんは関係ない。…俺はレディに申し込みたい』
「…なんでしょうか?」
『俺とパートナーを組んでくれないか?』
「パートナー…ですか?でもパートナーは卒業オーディションまで一緒だと日向先生が…」
『でも、例外がないわけじゃない。俺は君がいいんだ。4月の自己紹介で君の曲を聞いた時、本当はパートナーを申し出たかった。しかし、順番が前後しただけで、おチビちゃんに先を越されてしまった』
「そ、そうだったんですか」
『俺のパートナーになってもらえないかな?』
「えーっと…」


まさかの申し込みに戸惑っているとレンくんの顔が近づいてきた。


「レ、レンくん?何を…」
『何って…キス、かな』
「だ、ダメです!」
『どうして?』
「どうしてって…。わ、私はこういう事は好きな人とするものだと思うので…」
『俺はレディが好きだよ』
「そうですか……て、ええぇぇ!?」


レンくんが私をっ?!
だって、レンくんの周りにはいつも可愛いくて綺麗な女性でいっぱいなのに?
どうして私なんか…。

レンくんは私の疑問を知ってか知らずか、私の顎に手をかけ、見つめてくる。


『君はとても魅力的だよ。君の作る曲、周りの音が聞こえなくなるくらい集中しながら作曲する姿。一生懸命な君の全てに、俺の心は捕らわれてしまったのさ』
「あ、ありがとうございます」
『だから俺は君に俺の曲を作ってほしい。俺はレディがいいんだ』
「……」


レンくんにそこまで言ってもらえるなんて、正直に言うと凄く嬉しい。
作曲家冥利につきる。
だけど――


「あの、お気持ちはとても嬉しいのですが、私は翔くんのパートナーです。なので翔くん以外の方の曲はお作りできないです」


“本当にごめんなさい”
そう言って私はレンくんに頭を下げた。
頭の上でレンくんがため息をついたのが聞こえた。


『やっぱり俺じゃ、ダメなんだね』
「ごめんなさい…」

『そんなに謝らなくていいさ。それに本当はレディの答えも分かっていたから』
「え?」
『レディはおチビちゃんの事が好きだろ?』
「えっ?な、ど、どうしてっ」


まさか、私の気持ちがバレてるなんて思わなくて、挙動不審になってしまった。


『これでもレディの事を見てきたんだ。それくらい分かるさ』「あ、あの、この事翔くんには…」
『勿論、言わないさ。敵に塩を贈るようなものだからね』
「塩…?」
『こっちの話さ。さぁ、レディには時間を取らせてしまったね。教室に戻るといいよ』
「で、でも…っ」


私はレンくんにかける言葉が見つからず、でもどうしたらいいのかも分からずにオロオロしていたら、フワッとレンくんに抱き締められていた。

周りには誰もいなかったから良かったけど、レンくんのファンの方たちに見られたら、大変なことになっていたかもしれません。


「…レン、くん?」
『ゴメンねレディ。…ありがとう』
「………」
『さて、俺もオーディションに向けて本気にならせてもらうよ』


私から離れたレンくんは、ウィンクをしながら宣戦布告をしてきた。
きっと、レンくんなりにいつも通りにしてくれてるんだと思った私は笑顔で返事をした。


「私達も負けません!優勝もします!」
『言ったねレディ。俺も優勝を狙っているからそう簡単にはいかせないさ』







そうして私はレンくんと別れた後、急いで教室に向かった。
もしかしたら翔くんはいないかもしれない。
でも、もし帰るなら一言言ってくれるはず。だけど…。
とにかく今は、翔くんの顔がみたい。
その一心で、私は教室に向かった。


「はぁっ、はぁ、はぁ…。翔くんっ!」
『麗(れい)!?…お前、レンと一緒にいたんじゃ…』
「翔くん!私…。私、翔くんのことが好きです!」
『っ!!』
「………はっ!私、いきおいで何を…」


翔くんは私の突然の告白に目を丸くしている。私も同じくらい目を丸くしていた。


「あ、あの、これはえっと…」
『お前、レンに告られたんじゃないのか?』
「え?どうしてそれを…」
『レンがお前を連れていったとき、突然の事で身体が直ぐに動かなくてさ。だけど、追いかけたんだ。そしたら…』


翔くんは私がレンくんに告白されている場面をみて、頭が真っ白になって気がついたら教室に戻ってきていたそうです。


『レンに俺は麗(れい)の事をどう思ってるんだって聞かれて、直ぐに答えなかった。…答えられなかった』
「翔くん…」


そうですよね。急にこんなこと言われても困りますよね…。



「ごめんなさい…」
『あっ、いや!違うんだ!』
「…?」
『俺、レンに聞かれた時は分からなかったんだ。お前といると毎日が楽しくて、一緒に練習してるときは心が弾んだ』


翔くんは帽子を深く被ったまま話を続けるから、今どんな顔をしているのか私から見えない。


『でも、これがどういう感情なのか分からなかった。気づいてなかった。だからレンに聞かれたときに答えられなかった。お前がレンに告られてたところを見て、自分の気持ちに気づいた』


深く被っていた帽子を取ると、翔くんは真っ直ぐ私の前まで近づいてきた。


『俺も麗(れい)が好きだ』
「っ!」


翔くんに抱き締められたんだと気づくのに数秒かかった。

…暖かい。
人に抱き締められるってこんなに暖かいんですね。


「翔くん、本当にいいんですか?私なんかで…」
『“なんか”なんて言うなよ。俺は麗(れい)がいいんだ。俺様の傍にいろよ』
「…はい」


翔くんは私の王子様です。
周りからは“可愛い”なんていわれているけど、私にとってはカッコよくて、強くて頼りになる王子様なんです。

私は翔くんに出逢った瞬間から、惹かれていたのかもしれません。


「翔くん、大好きです」
『バーカ。俺の方が大好きだっつの』







End♪

 

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