短編

□想いは同じ
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『麗(れい)ー』
「んー」
『好き』
「……」
『好きだよ』
「………」
『麗(れい)聞いてる?』
「………ん」


教室で私と音也は二人きり。
誰かがいたらどうするつもりなのか。
音也は毎日、隙あらばとばかりに私に“好き”だと告げてくる。

本当は私も、音也の事が好き。
だけど、音也の想いに私は応えられない。
応えられるはずがないよ。


「ねぇ、麗(れい)はどうして何も言ってくれないの?好きも、嫌いも…」
『音也も分かってるでしょ。恋愛禁止なんだよ』
「分かってるよ。でもやっぱりそんなのおかしいだろ?俺は恋をすることに、誰かを愛しいと想うこの気持ちに嘘をつくことなんてできない」
『……そんなの、学園長が許すはずないよ』


音也はいつも真っ直ぐだ。
眩しいくらい。太陽みたいにいつもキラキラしていて。
どうしてそんなに真っ直ぐなの?


『俺は麗(れい)が好きだし、麗(れい)と一緒に卒業オーディションも優勝する。絶対に!』
「私だって音也と一緒に優勝したい」
『うん。でも俺、嘘はつきたくないんだ。麗(れい)を好きな気持ちを堂々とみんなに届けたい』
「そ、れは…」


音也に見つめられると私の気持ちが暴かれそうになって視線をそらす。
だって、音也の瞳に映った私の顔には“音也が好き”だと言っていたから。


「…やっぱりダメだよ。学園長に見つかって退学になった人たちもたくさんいるんだよ。私は…嫌。音也にはアイドルになって欲しいし、私だって音也の作曲家でいたい」
『だからさ、一緒に証明しようよ。俺達は絶対にどんな試練も乗り越えてみせるって。人の心に響く曲を歌う為にも俺は自分の気持ちに正直にいたい』
「音也…」


本当に。
音也となら大丈夫な気がしてくるのは何でだろう。

いつも音也は元気をくれる。
私が落ち込んだとき、“大丈夫だよ。一緒に考えよう。俺達はパートナーだろ”って励ましてくれた。
その言葉に何度救われただろうか。


「…ねぇ音也。これから言うことは私の独り言として聞いて欲しい」
『……うん』
「私は貴方がとても大切なの。この想いを貴方にたくさん伝えたい。本当は貴方にもっと触れたい。だけど…、私には叶えたい夢が、あるから…」
『………』
「でも、今だけは私の独り言、言わせて欲しい…」


声が、震える。
自分の気持ちを相手に伝えるのってこんなに緊張することだったんだ。

でも、伝えなくちゃ。
今だけは、私の本当の気持ちを…


「音也…好き、だよ。大好き、なの…」
『麗(れい)…』



…言ってしまった。
この言葉を言ったら想いがどんどん溢れてきて、涙が止まらなくなった。


「っ…ひ、っく…。音也に、好きって…っ、言ってもらえて…っく、すご…、う、嬉しくて…っ」
『麗(れい)…っ』
「好き…っ!」


もぅ止まらない。
私は音也に抱きついた。
夕日が射し込む教室に、二人の重なった影が伸びる。
どちらともなく合わせた唇からは甘い吐息が漏れる。


『…ぅ…んっ』
「はぁ…んっ…」


このまま時が止まればいい。
音也と繋がった部分からひとつになって、誰にも邪魔されることなく彼と愛し合いたい。


『……んっ、はぁ…っ』
「……んんっ…はぁっ」
『……キス…しちゃったね』
「うん…」
『後悔、してる?』
「してないよ」
『本当に?』
「うん」
『へへっ。ありがとう』
「……今まで、ゴメンね」


音也と想いは同じだったのに。

私は迷っていたの。
貴方と私の夢を叶えるために、この想いを告げちゃいけない。告げたら貴方の夢が叶わなくなってしまう。
貴方の邪魔になりたくない。
初めて貴方から気持ちを告げられたとき、本当に嬉しかった。
すぐにでも返事をしたかった。けど、しちゃいけないって思った。
だけどダメね。
貴方は本気だった。
その場の勢いなんじゃなくて、ずっと一緒に居たいって思ってくれてた。
私と一緒に…。
その気持ちが分かった瞬間に私の想いも溢れ出てきたの。
我慢なんて出来ない。
自分の気持ちに正直にならなきゃ、歌に気持ちは乗せれない。皆には響かない。

後悔はしてない。
だって私は――


『麗(れい)は一人じゃないよ。俺がずっと傍にいる』
「ありがとう…」
『さーてと、それじゃ行こっか!』
「行くって何処に?」
『ん?おっさんの所!』


私の手を握ると音也は教室を飛び出す。
そして笑顔でこう言った。



“正々堂々とあのおっさんに言ってやるんだ!

俺は麗(れい)が大好きだ!
この気持ちに嘘をつくなんて出来ない。

二人の愛の力で、必ず卒業オーディションも優勝してやる!ってさ!”







End♪

 

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