短編

□夕日に包まれて
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―ガラガラッ


「トキヤいるー?」

私は図書室の扉を開け、中にいるであろう一ノ瀬トキヤに声をかける。
しかし私の声は虚しく図書室の中に響いただけで、返事はない。

「あれ?おっかしいなぁ。先に来てるはずなのに…」

キョロキョロを辺りを見回すがトキヤの姿が見当たらない。
しかも今日は珍しく図書室には誰もおらず、トキヤがココに来たかも確認ができない。

「まったく。居ても居なくても返事してよね」

なんて、独り言を言ってみても勿論返事はなくて。
とりあえず図書室の中を探索してみることにした。



が、ものの数秒で探していた人物を発見した私は、ため息をつく。
どうやら彼は人目に付きにくい、本棚の影に隠れるように其処に座っていた。

「…しかも、寝てる」

そう。椅子に腰を掛け、膝の上には何かの本を乗せたまま、トキヤは気持ちよさそうにしているのだ。

「バイト、忙しいのかな?」

うっすらとだが、目の下にも隈が出来ていた。
十分な睡眠も取れていないのだろう。
しかし、滅多に見られないトキヤの無防備な姿にドキリとする。

「トキヤってイケメンだったんだ」

なんて、どうでもいいことを呟いて、私はトキヤの向かいの席に座った。

私は作曲家を目指していて、初めての課題のパートナーを探していた。
クラスメートの中でも歌唱力が際立って目立っていたのが、神宮寺くん、来栖くん、そしてトキヤだった。
可能ならこの三人の内の誰かにお願いしたかったが、歌唱力もさることながら、ルックスも良いと人気のメンバーだったので、私はほぼ諦めていた。
しかし、全くと言っていいほど接点がなかったはずのトキヤから、“課題のパートナーになって欲しい”と私に声をかけてきたのだ。
最初は“なんで私?”と戸惑いもしたが、まぁ、これも何かの縁だと思い、二つ返事で了承した。

すると、不思議な事にトキヤの歌と私の曲は波長が合うのか、どんどん沢山の曲が出てくるのだ。
お互いの“良いものを創りたい”という思いがそうさせるのか、切磋琢磨するように私たちは時間があれば話し合い、作曲をしていった。
今日もそのはず、だったのだが…。



「うーん。どうしよう…」
『……すぅ…すぅ…』

まぁ、今やっている課題はまだ余裕があるから、このままもう少し眠らせてあげよう。
そう思った私は、何か良い資料がないか本を探そうと立ち上がる。

『………麗(れい)』
「え?」
『……すぅ…』
「ぇ、えぇ〜っ?」

立ち上がったときにトキヤを起こしてしまったのかと思いきや、まさか寝言で呼ばれるとか…。

「なに、それ…っ」

ヤバイ。顔が熱い。恥ずかし過ぎるっ。
何故!寝言を言った本人ではなく、言われた方がこんな羞恥を受けなくてはいけないのか!

そう思ったら、だんだんと腹が立ってきて、私はトキヤに近づいた。

「いつまでも寝てんなーっ」

寝ているトキヤの頬をつねる。

『…んっ』

トキヤは眉間に皺を寄せた。
ふん。無意識とは言え、人を辱めた罰だ!
しかし…

「むぅ。これでも起きないだと?」

起きる気配が全くないトキヤに、今度は更に強めにつねってやろうともう一度頬に手を伸ばす。
が、私の手はトキヤの頬をつねることはなかった。

「っ!?」
『二度も同じ手は喰らいませんよ』
「あ、はははは。トキヤさん起きてらっしゃったんですか?」
『そうですね。貴女がここに来たときに起きましたよ』
「はぁ?じゃあなんで返事しないのよ!」
『貴女の反応が気になって』
「何のこと…?」
『おや?顔が紅くなったままですが、何故ですか?』

私の手を掴んだままのトキヤは、そのままグイっと自分の胸に引き寄せた。
勿論、必然的にトキヤの腕の中に閉じ込められる形になる。

「ちょっ!離してよっ」
『嫌です。私の頬をつねった罰です』
「それは元々トキヤが…ってもしかして」
『なんです?』
「あの寝言、わざとなの?」
『何のことでしょう』

とかいって声が笑ってるし!
なんなの?最初っからトキヤの手の平の上で踊らされてたってこと?!

『そろそろ素直になってはどうですか?』
「はぁ?」
『好きですよ』
「??」
『…はぁ。貴女こそわざとですか?』
「………へ?」

それって、まさか・・・。
段々と顔が熱くなってくる。きっと、さっきの比じゃないくらい紅くなってるに違いない。

『貴女の事が好きだと、そう言ったんですよ。麗(れい)』
「っ!///」

なんでこんなときにそんなこというのよ!
私は耐えられなくなって、トキヤの腕の中でバタバタと暴れる。が、流石男の人だ。全く怯まない。


『逃がしませんよ』
「いーやーだー!はーなーしーてー…っんん!?」

トキヤは煩いと言わんばかりに私の口を自分の唇で塞いだ。

「んん…っ、んーっ」

キスをしたことがない私は、酸欠になり、瞳を潤ませながらトキヤをギッと睨みつける。

「っはぁ…!ファ、ファーストキスだったのに!」
『それは結構。私が初めてとは光栄ですね』
「なっ!」
『それで?私はまだ告白の返事を聞いていませんが』
「………」

ココまでして、そこに拘るとか…。てか、ココまで受け入れている私をなんだと思ってるんだ。

「………きだよ」
『聞こえないです。もう一度ハッキリと言っていただけませんか?』
「〜〜っ!だから!好きだっていってんの!この馬鹿!ドS!変態!」
『馬鹿は余計ですよ』


トキヤは微笑むと私の唇にキスを落とす。
いつも余裕綽々なトキヤの顔が紅くなっていた気がした。



―夕日に包まれながら、暫くこの甘い時間を堪能することにしよう―






End♪


 

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