短編

□トリックオアトリート?
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今日は10月31日。世間ではハロウィンだなんだと賑わっている。
そんな中、ハロウィンなどお構いナシに、私は寮の部屋で課題をやっている。
学園内はハロウィン一色で、朝からイベント行事独特の雰囲気にゲンナリしていたからだ。
ソレから逃れるように、私は授業が終わったと同時に寮の部屋に戻ってきて早1時間。

「ふぅー。大体終わったかな」

ちなみに同室の子はなにやら浮き足だった様子で、部屋を出て行っていった。

「…きっと友達とハロウィンパーティーでもするのかなぁ」

部屋を出て行くときに大量のお菓子となにやら小道具を持っていたみたいだし。

「うんっ。よし!少し予習でもしておこうかな」

少し寂しくなった気持ちを誤魔化すようにそう意気込んだ。
改めて机に向き直ると、部屋のドアからコンコンっと音がした。

「誰だろう?」

訪問者に心当たりが思い浮かばず、とりあえずドアを開けるとそこには予想外の人たちが立っていた。

『トリックオアトリーット!お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞー!』
『急な訪問、申し訳ない』
『麗(れい)ちゃん。お菓子を貰いに来ましたぁ』
「…………は?」

そう。部屋の前に居たのは同じAクラスの音也と真斗くんと那月くんだった。

「え。ちょっと待って。どういうこと??」
『どういうことって今日はハロウィンなんだよー。あ。もしかして麗(れい)、今日がハロウィンだって知らなかった??』
「いや。音也。私が聞きたいのはそういうことじゃなくて…」
『実は学園長からの伝言でな』
『“今日は年に一度のハーロウィンデース。アーイドルにはー、バラエティーのお仕事はつきものナノデース。故にー、今日は仮装をして、トリックオアトリートしちゃってクダサーイ!”っていうことだったんですよぉ』
「だったんですよぉ。って言われてもね」

だからって何故私のところに来たんだ。
それに見事なまでに仮装をしている彼らは、まぁ、なんと言うかべきか。

「音也が狼男で真斗くんは吸血鬼、那月くんがミイラ男って。ずいぶん本格的なんだね」
『あぁ。学園長に言われたのならばきちんとやらねばいかんだろう』
「真斗くんのその純粋さがたまに心配になるときがありますよ私は」
『ねぇ麗(れい)!俺は?俺の狼男は似合ってる?』
「うん。音也はある意味見たまんまだね」
『僕のミイラ男はどうですかぁ?』
「那月くんはもう少しちゃんと包帯巻こうか」

那月くんの上半身や頭に巻かれた包帯は、ヨレヨレに巻かれててこれじゃあミイラ男って言うより、包帯を巻けない不器用な人だよ。
そう思った私は那月君の包帯を巻きなおしてあげる。

「はい。これでミイラ男っぽく見えるよ」
『麗(れい)ちゃんっありがとうございます。そしたら僕からのお礼にトリックオアトリートです♪』
「いや待て。それをいま言うのは違うと思うんだけど。てか、音也もさっき言ってたけど、私にそんなこと言われても何もないしね?」
『そんなーっ。俺、麗(れい)からお菓子がもらえるのすごい楽しみにしてたのになぁ』
「だから何故に?」

なぜか勝手にシュンとする音也に罪悪感が…。猫耳カチューシャまで垂れて見えるなんてっ。わ、私は悪くない!

『しかし、よく考えれば麗(れい)はこういうイベントには興味が無かったな。一十木、致し方あるまい』
『うー。マサが言うこともわかるけどさー』
『あ!それなら僕が今からお菓子作りましょうか?クッキーなんてどうでしょう。チョコチップにー、あ。隠し味にキムチなんていいんじゃないでしょうか!ピリ辛だけど後味は甘くて美味しそうですよね!』
「な、那月くん。それなら私が何かつくってあげるから!明らかに科学反応が起きそうなお菓子作りは止めよう?ね?」

さすがに那月くんにお菓子を…というか台所には立たせてはいけないと思い、私はそう言ったのだが“失敗した”と後悔したのは音也の声がしたからだ。

『やったー!麗(れい)の手作りお菓子が食べられるー!』
「なっ!」
『うむ。これは思わぬ展開だが、ここに来てよかったな』
『はい!僕のお菓子を食べてもらえないのは残念ですが、麗(れい)ちゃんが作ってくれるお菓子、楽しみです!』

これは、引くに引けない状況になってしまった。
…まぁ、でも気分転換にいいかも。めんどくさいけど。

「はぁー。仕方ないなぁ。でもそんなにちゃんとした物作れないからね!」
『はーい!』
『あぁ。お前が作ってくれるならどんなものでも頂こう』
『はい!僕、楽しみです!』

とりあえず部屋の前で立ち話もなんなので、3人を部屋の中に入れる。

「テキトーに寛いでて。あ。でも同室の子のトコと私の机周りは勝手に触らないよーに!」
『無論だ』
『わかりましたぁ』
『うん!あ。麗(れい)課題やってたの??』
「音也は言ったそばから…」

ま、音也のことは真斗くんが見ててくれるだろうし、那月くんはニコニコと大人しくしているから大丈夫だろう。
しかし、今から作るとなると本当に大した物は作れない。

「うん。アレなら簡単だし、すぐできるし。型をとればそれなりに可愛くなるよね」

私は自分のスペースに置かれているミニキッチンでお菓子作りを開始した。
ボウルに砂糖と水を適量入れて、かき混ぜる。
大体、砂糖が水に溶けたところでレンジにかけること数秒。

レンジから取り出したそれをトレーの上に敷いたアルミホイルの上に乗せる。
形を整えるために型を置きながらそれを流し込む。

「よし。後はこれを冷蔵庫に入れて固まるのを待つだけだね」
『あ。もしかしてもうできたのー?』
「うん。本当に急だったからね。もう少ししたら固まると思うから待ってて」
『では、暫しのティータイムとしないか?実は上手い紅茶の葉を手に入れてな』
『美味しそうですね!紅茶なら僕が入れますよー。こう見えても僕、紅茶を入れるのは上手なんですよぉ』
「(これは信用してもいいのかな。誰も止めないし…)じゃ、じゃあ、お願いします」
『はい!任せてください!』

そういって那月くんは鼻歌を歌いながらキッチンで紅茶を準備する。
その隙に音也と真斗くんに私は小声で確認をした。

「あ、あのさ、那月くんに任せて大丈夫なんだよね?」
『うん!那月、紅茶は本当に入れるの上手だよー』
『俺も一度頂いたことがあるが、紅茶は大丈夫だ』
「そ、そう?ならいいんだけど…」

一抹の不安を多少は抱きながらも3人と談笑していると、またもや部屋のドアがノックされた。

「?今度はいったい誰…」

私は再び部屋のドアを開けると、いきなり目の前に現れたのは薔薇の花束。
それを顔面で受け止めてしまった私は、一瞬息ができなくなった。
花束を避けてそこに居た人物をみると、それは一人ではなくSクラスの3人だった。

『やぁレディ』
「え?レン?」
『突然の訪問失礼します』
『よぉ!俺様もいるぜ!』
「トキヤくんに、翔まで??どうしたの3人とも…」
『今日はハロウィンだろう?だから仮装をして君のところにお菓子を貰いに来たのさ』
「じゃあこの花束は何故に?」
『それは俺からレディへのプレゼントさ。俺がレディの元へ手ぶらで来るわけにはいかないだろう?』

そんなキメ顔で言われましても…。
しかも薔薇の花束なんて貰ってもどうしようもないのですが。

「トキヤくんと翔は?」
『私は最初からハロウィンには興味はありませんでした。が、そこへ学園長が“仮装をしないとー、罰ゲームを無理ヤーリ受けなくてはイケマセーン”と伝書鳩を飛ばしてきましてね』
『俺もトキヤと同じ。実際レンもそうなんだけどな。まぁ、これもある意味アイドルになるためにも必要かと思ってさ』
「翔も真斗くんと同じくらい純粋なんだね」
『はぁ?どういう意味だよ』
「そのままですよ。でも、アレだね。3人も一応仮装してるんだね」

レンは前がほぼ全開に肌蹴たシャツと牙もついてる。
まさかと思ったけど、レンも真斗くんと同じ吸血鬼??

『おい神宮寺。なんだ貴様のその普段の数倍だらしなくした格好は』
『はっ。聖川、お前こそなんだそのマントにかっちりとスーツなんか着て。もしかしてお前の吸血鬼か?』
『そうだが?なにか問題でもあるのか?貴様も見たところ吸血鬼のような格好をしているが、そんなもの貴様の普段の服装とそう変わるまい。手を抜いているのではないか?』
『これだから頭の固いヤツは困るね。俺の色気を最大限に生かすためにこの格好をしているんだ。お前に文句を言われる覚えはないよ』

バチバチと火花が飛び交いそうなほど、にらみ合う真斗くんとレン。
頼むから、部屋の入り口で喧嘩勃発は勘弁してくれ。
私は呆れて溜息をつくと、後ろから音也と那月くんががひょっこりと顔を出した。

『トキヤも翔も、ちゃんと仮装してきたんだね!トキヤは…魔法使い??』
『えぇ。知的なキャラクターの仮装といえばこれしか思い浮かばなかったので』
「知的って…」
『…かわいい』
「へ?」
『翔ちゃん可愛いです!!』
『げっ!那月!!』

翔はたぶんウルフ?の着ぐるみみたいな服を着ていた。
もちろん、可愛くて小さいものが好きな那月くんがなんの反応もしないわけはなく。

『翔ちゃん!翔ちゃん!可愛すぎます!写真とってもいいですかっ?』
『ぅっ、うぐ…っ。な、つき…くる、じい…っ』
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